カラムーチョは定番の「ホットチリ味」のほかに、月1回程度期間限定商品が投入されている(撮影:今井康一)

「カラムーチョ」と聞くと、ある年齢以上の人はかつての激辛ブームを牽引したスナック菓子だと懐かしい思いがよぎるかもしれない。そのカラムーチョの人気に再び火が付いている。販売する湖池屋によると、昨年6月から1年間の売り上げはなんと前年同期間比2割増加。SNSでは、にんじんとあわせてサラダにする「キャロムーチョ」なるものが話題になったりと、消費者にその魅力が再発見されているようだ。

湖池屋では昨年3〜8月、じゃがいも不足によってポテトチップ類の販売が減り、カラムーチョの売り上げも例年の7〜8割程度に落ち込んだ。その影響から足元の業績も今ひとつだ。そう考えると、過去1年間の2割増はたいしたことがないように聞こえるが、今年5月のカラムーチョの売り上げを2年前の5月と比べても4割増えているという。発売30年を超えるベテランスナック菓子としては、異例の売り上げ増といってもいいだろう。

背景にはエスニック料理ブームが

人気が再燃している理由は大きく3つある。1つは、昨年の「ポテチショック」でポテト菓子が品薄になった中、カラムーチョの存在が目立った可能性だ。湖池屋によると、ポテチショック時は新商品こそ出せなかったものの、定番の「ホットチリ味」は数量を減らすことなく、出し続けていた。

2つ目は、カラムーチョの特徴である辛さだ。湖池屋広報課の小幡和哉氏は、「刺激の強いものに食品市場全体が大きく反応している。炭酸飲料の強炭酸が売れていたり、アルコール度数9%の缶チューハイも人気」と分析する。より刺激の強いもの、辛いものを求める消費者が、カラムーチョに手を伸ばしている、というのである。

背景には、ここ数年のエスニック料理人気もあると考えられる。今、日本には中国やベトナム、ネパールなどのアジア諸国・地域から日本に移り住む人が急増中で、2015年に日本に流入した実質移民の数は約40万人もいる。その影響もあり、各地に本格派のアジア系飲食店が次々とできている。

中国からは東北部出身者が増加。たとえば埼玉・西川口の駅前が急速にチャイナタウン化し、駅前に中国人を対象にした四川料理店が増えている。また、ネパール人やインド人が増加した影響は、インド料理店数に出ている。NTTタウンページの調査によると、2017年時点の全国のインド料理店数は2162軒もあり、2008年からの10年間で約3.8倍になった。

『Hanako』も2017年9月14日号で、久々にアジア料理店の特集「今、食べたいのはアジアごはん。」を組んだ。今は、特に刺激系にフィーチャーする形で、エスニック料理ブームが再来しているのである。

食に刺激を求めるもう1つの要因として、経済活動の活発化が考えられる。一般的には好景気の実感が薄いとはいえ、新卒の就職は売り手市場、企業は人手不足に悩む。東京では2020年のオリンピックに向けた再開発が盛んで、高島屋が今秋体験型の新館を日本橋にオープンする予定など、新業態に打って出る企業も目立つ。世の中がアグレッシブになるとき、人の嗜好もアグレッシブになる。唐辛子やスパイスの刺激を求めるのは、そのせいではないか。

当初は販路探しに苦戦した

振り返ってみれば、前回のエスニック料理ブームも、バブル景気が始まる時期と重なっている。当時のブームは激辛ブームを伴っていた。牽引した1つが、1984年に発売された日本初の激辛スナック菓子、カラムーチョだった。

湖池屋がカラムーチョを発売したきっかけは、視察に行った米国でメキシコ料理がはやっており、辛いチップスも人気だったこと。米国では1970年代後半から、ベトナム難民が増えたことなどをきっかけにエスニック料理ブームが起きており、メキシコ料理の流行も、その1つだったと考えられる。

が、いざ日本でカラムーチョを発売したものの、当初は販路開拓に苦戦した。当時の日本人は唐辛子の刺激に弱く、激辛スナックは売れないと思われたのだ。それが「情報発信基地と呼ばれていたコンビニエンスストアのバイヤーさんが、これから伸びそうなものを探していて、カラムーチョが合致したんです。すると、罰ゲームに使える辛さ、と若者中心に口コミで爆発的に広がった」と小幡氏は振り返る。


カラムーチョには、スティックタイプとチップスタイプがある(撮影:今井康一)

ここから、カラムーチョ人気再燃のもう1つの理由が導き出される。それは、当時カラムーチョを好んで食べていた若者たちが、再び戻ってきている可能性である。かつてのファンも今や40〜50代。久しぶりに買ったカラムーチョを家族で食べた結果、その子どもたちが新たにカラムーチョのファンになっている、ということも考えられる。

実際、親から子へと受け継がれた結果、再びブームとなるものは少なくない。この場合、だいたい30年サイクルでブームがやってくる。たとえば、スキーがそうだろう。最初にはやったのは、1930年代で、次が1960年代、1980年代後半のバブル期を経て、今若い世代が再びスキーに行くようになっている。近年のキャンプブームも、かつてハードなキャンプを楽しんだ層が、子どもを連れてちょっとしゃれたキャンプをするようになったことがある。

エスニックや刺激ブームの波による湖池屋だが、ホットチリのほかに軸となる新たな味の開拓にも余念がない。実際にコンビニやスーパーを訪れると気がつくと思うが、ほぼ1カ月に1回は新たな期間限定品が投入されている。

次に来るのは「コショウ」菓子ブーム?

こうした中で、「ここ5年間で出した中では一番のヒットだった」(マーケティング部の加藤俊輔氏)のが、ブラックペッパー(黒コショウ)味である。昨年10月から約3カ月間出した「やみつきペッパー味」は、「通常の約1.5倍の売り上げが出た」と加藤氏。好調を受け、今年3月にはコンビニ限定で「厚切りベーコンペッパー」を投入した。その結果から、ペッパーに特化した味が求められていると加藤氏は分析している。


昨年10月に発売された「やみつきペッパー味」と、今年3月に発売された「厚切りベーコンペッパー」(湖池屋)

実は、ブラックペッパーも昨年ぐらいから人気が上昇しており、『dancyu』では2017年9月号で「黒胡椒、すごい!」という特集を組んでいる。カルディファームやエスビー食品が、ミル付きの挽きたてが味わえるペッパー商品を販売したほか、カルビーもポテトチップスに「堅あげポテト ブラックペッパー」や「ポテトチップスクリスプ ブラックペッパー味」などを出している。

ブラックペッパーというと洋風に聞こえるが、コショウは日本人にとって唐辛子の次になじみがあるスパイスと言っていいだろう。エスビー食品から家庭用のコショウが発売されたのは1952年。以来、料理のレシピの「塩コショウ」でもおなじみになった。ブラックペッパーとホワイトペッパーを細挽きにした同社の「テーブルコショー」などに比べ、今人気のブラックペッパーはより刺激が強い。

目下、スパイス人気も上昇しているが、口にしていてもなじみがないものが少なくない。その中で、単品で味がすぐわかるものとなると、コショウぐらいという人は多いのではないだろうか。強い刺激を求めている人々にとって、ブラックペッパーは最も手に取りやすく味わいやすい味と言えるだろう。湖池屋も「ペッパーだと、辛みをダイレクトに味わえる」(加藤氏)としている。

湖池屋が今後売り出すフレーバーとしてブラックペッパーは有力候補の1つだと加藤氏は言う。もしかすると今後、ブラックペッパー味が、刺激を求める消費者に応える商品の代表となっていくのかもしれない。