リスニングやスピーキングに比べて、リーディングが得意な日本人は多いはず。ただ、今あなたは、英語のリーディング力を何かに生かせていますか?(写真:bee/PIXTA)

あなたは英語を読むのは得意ですか? こう聞くと、比較的しっかり英語を勉強してきた人や、英語が得意科目だった人からは「リスニングやスピーキングは苦手だけど、読むのは得意です」という答えがよく返ってきます。

確かに、中学・高校で英語を習ってきた中で、英文を読むことは、かなり中心的な活動だったと思います。英文法を習い、それを一つひとつ確認するように英文読解をし、和訳をしていく、といった授業が大半を占めていた人も多いのではないでしょうか。

リーディング力向上は意外と重要

では、今あなたは、英語のリーディング力を何かに生かせていますか?

たとえば仕事上の情報収集に。いち早いニュースのキャッチアップに。外国人の同僚との会話に。もちろん日本語でも情報のインプットは欠かせませんが、英語でインプットができれば、さまざまな場面で活用できます。

英語学習の中でリスニングやスピーキングは頻繁にフォーカスされますが、意外と重要で、しかも難しいのがリーディング力のアップ。まずはリーディングができるメリットを知って、ビジネスに生かす洋書リーディングを始めましょう。今回は、『学校では教えてくれない!1ヶ月で洋書が読めるタニケイ式英語リーディング』の著者で、英語学習コーチの谷口恵子が、洋書を読めるようになるためのコツを紹介します。

「洋書をスラスラ読んでみたい」というのは、英語学習をしている方なら一度は抱く思いではないでしょうか。日本語の本を読むのと同じように気軽に洋書を読むことができたら、すばらしいですよね。好きな作家の新作も、翻訳版を待つ必要がなくなります。話題になっているあのビジネス書も、原書なら、著者の言いたいことをそのままのニュアンスで受け取ることができます。

「洋書は難しいから翻訳版でいい」と思う方もいるかもしれません。しかし、映画化されるほどのベストセラーでも、翻訳版が出るのは通常、原書の数カ月後です。有名な本でなければ、翻訳版が出るまでに何年もかかることもありますし、翻訳版が出ないまま終わる本もたくさんあります。

さらに、昨今の出版不況を考えると、出版社は今後ますます翻訳本に手が回らなくなっていくことが予想されます。そうなると、翻訳本の出版は今より減ってしまうでしょう。世界には面白い本が山のようにあるのに、日本語版がないという理由で読むことができないとしたら、なんてもったいないことでしょう。長い英語を抵抗なく読む力を身に付けていれば、「この洋書を読みたい!」と思ったときにすぐ読み始めることができるのです。

この移り変わりの速い時代において、スピードはとても重要です。仕事ではとにかくスピード重視、効率性重視と思っている方が、なぜ非常に大切な情報収集において「数カ月後の翻訳版を待つ」という選択をするのでしょうか。英語の原書だと正確に読める自信がないからでしょうか。ビジネスにおいては、100%正確でなくても、情報の鮮度のほうが大事なこともありますよね。特にビジネス書に関しては、すべて理解できなければエッセンスがつかめない、というものではありません。

洋書以外にも、ウェブ上の英語の記事を素早く読むことができれば、仕事に必要な情報収集に大きく差がつきます。たとえば、ネットで調べものをすると、一次資料が海外のニュースやデータ、論文などになっていることは多くありますよね。また、海外発信のサービスや商品について調べる場合には、最初から英語で検索して海外のウェブサイトにアクセスしたほうが、最新の情報を手に入れることができます。その際、長い英文を見ても臆さずに、さっと必要な情報を的確に拾うことができたら、非常に役立ちます。

TOEICのスコアアップを図りたいのなら

仕事以外でも、TOEICのスコアをアップしたい方の中には、パート7の読解問題の長文をもっと速く読めるようになりたい、と思っている方も多いのではないでしょうか。長文を読むのに時間がかかってしまい、最後のほうはいつも「塗り絵」をしてしまう(マークシートを適当に塗ってしまう)という話もよく聞きます。

リーディングのセクションにおいて、文法問題や語彙問題は、まだ対策のしようがありますが、長文の読み方のコツについてはあまり語られません。しかし、時間制限のある試験ですから、じっくり読んでいたら終わりません。こうした試験こそ、スピーディに読んで内容を把握する力が求められます。

リーディングだけではなく、リスニングの問題でも、設問を速く読めると有利になることが多くあります。TOEICでいえばパート3やパート4がいい例です。問題文の音声が流れた後、設問や選択肢をさっと素早く読むことができれば、余裕を持って解答することができます。試験では、リーディングにおいてもリスニングにおいても、英文を素早く読める力がスコアに大きく影響するのです。

このように、洋書をスラスラ読めること、長い英文をスピーディに読めることには、たくさんのメリットがあります。

さて、洋書や長い英文が読めることのメリットの大きさをお伝えしてきましたが、実際に洋書に挑戦してみようとすると、ハードルが高いと感じてしまう方が多いと思います。「読むのにとても時間がかかって、読み終わる気がしない」「知らない単語が多すぎて、意味が100%わからないのが気持ち悪い」「たった1ページしか読んでないのに、どっと疲れてしまう」といった声をよく聞きます。

このような洋書の壁にぶつかったとき、「洋書を読むためには、もっと英語力が必要なんだ」と考える方も多いかもしれません。確かに、英文法の基礎知識が足りなくて、単純な英文すら読めないという方であれば、もう少し基礎力を固めていけば、英文が読みやすくはなっていくでしょう。しかし、中学・高校と少なくとも6年間英語の授業を受けて、それなりに勉強してきた方であれば、英語の基礎力は十分あるはずです。それにもかかわらず、洋書のような長い英文をスラスラ読めないのはいったいなぜでしょう。

その大きな理由は、学校の授業で「じっくり丁寧に英文を読むクセ」が身に付いてしまっているからです。一語ずつ、単語の意味を確認したり、主語はどれ、動詞はどれ、と確認しながら読む―――こうした読み方を「精読」と言いますが、授業で教わる主な方法は精読だったのではないでしょうか。それによって、速く読むよりも、時間をかけて正確に読むことのほうが正しい読み方だ、という考えが私たちにしみ付いているのです。

読むスピードが遅いと疲れてしまう

もちろん、精読は間違った読み方ではありませんし、特に、英語学習を始めたばかりの初級者の段階ではメリットがあります。一つひとつ単語や文法を確認しながら読むことで、自分が知らない単語や、理解が十分でない文法に気づくことができるからです。

しかし、基礎的な英語力が身に付いた後も、精読的な読み方しかしていなければ、いつまで経っても英語をスラスラ読めるようにはなりません。リーディングというのは、前に読んだ内容をその次に読んだ内容とどんどんつなげて理解をしていく必要のある作業です。読むスピードが遅すぎると、読んだ内容をつなげて理解していく負担が大きくなって疲れてしまうのです。

中には、TOEICのパート7のような読解問題はそれなりに解けて、リーディングは得意だと思っているのに、なぜか洋書は読み切れない、という方もいるかもしれません。ここでお伝えしたいのは、学校や試験で「長文」と呼ばれるような英文は、実は長文ではないことです。

たとえば、先ほどのTOEICのパート7の読解問題は、長めの文章でさえ300ワード程度しかないのです。それに比べて、洋書は児童書で3万〜5万ワード、大人向けの洋書で7万〜10万ワード、長めの推理小説などは10万ワードを超えるものもあります。試験の読解問題を「長文」だと思って、そのくらいの長さのものしか読んでいなければ、本当に長い英文に慣れることはできません。

また、精読的な読み方では、読むために使う労力が大きすぎます。300ワード読んだだけでも疲れてしまって、数万ワードの洋書1冊を読み切るのはとても困難でしょう。疲れにくくするためには、「英語の読み方を変える」こと、そして「本当に長い英文を読むことに慣れる」ことが必要なのです。

では、英語の読み方を変えて、長い英文を読むのに慣れるためには、どんな力が必要なのでしょうか。それは「速読力」です。「速読」というと、「1ページ1秒で本の情報を、まるで写真のようにとらえて取り込む読み方」をイメージする方も多いと思います。中にはこうした速読法も存在しますし、日本語でも効率的にたくさんの本を読むために速読のトレーニングをしている方はいますよね。

ただし、誤解がないように説明すると、洋書を読むために必要な「速読力」はこうした能力のことではありません。ここでいう速読力とは、「細部にこだわらずに、英文の大意をつかむように読んでいく力」のことです。つまり、ネーティブが洋書を読むように「洋書をストレスなく自然に読んでいく力」です。

多少わからない文があっても気にしないこと

そこで私は、こうしたネーティブに近い自然な読み方を身に付けるために「速読トレーニング」を勧めています。速読トレーニングでは、意識的にスピードを上げて読む練習をすることで、これまでの勉強で定着してしまった精読的な読み方から脱却するのです。結果、本を読むにあたっての「自然な読み方」、つまり英文の構造を解釈しながら読むのではなく、全体的な内容をつかみながら読む力が身に付くわけです。


ポイントは、「多少わからない文があっても気にしないで読み進める」こと。精読に慣れている方ほど、知らない単語や複雑な構文が出てきたときに「完全に意味を理解しないと気持ちが悪い」と感じやすいでしょう。しかし、実際にはわからない部分を飛ばして読んでも、前後の文脈から大体の意味を推測できることは多くあります。学校の授業や試験ではなく、自分が楽しむための読書なら、詳細にこだわるよりも大意をつかみながら、流れに乗って読み進めていくことが理想です。

同時に、同じ文章を何度も読み返す「返り読み」のクセもできるだけなくしていきます。英語は日本語と語順が異なるため、英文を頭から丁寧に訳そうとすると、ほとんどの場合に返り読みをしてしまいます。返り読みをしていては、どんなに意識しても速く読むことは難しいでしょう。300ワード程度の試験の読解問題と違い、数万ワードある洋書を読むのに、毎日1ページしか読めなければ1冊読み切るのに何カ月もかかってしまいます。また、試験のような緊張感を持ったまま読んでいては、読書自体を楽しめませんよね。

「精読的な読み方」と「返り読み」をしないことは、意識的に練習しないと、なかなかできるようになりません。今までの習慣から、私たちは1つの英文をじっくり読んで、100%理解していく読み方に慣れきってしまっているからです。そのため、とにかく「すべて理解できなくてもいい」「スピードを意識して、前に前に読み進める」という意識を強く持って、速読に取り組むことがカギになります。

速読トレーニングは、自分が本当に興味のある洋書を使って、実践的にトレーニングをするのがお勧めです。それによって、忙しいビジネスパーソンでも、モチベーションを保つことができ、1カ月程度の短期間で効率よく速読力を身に付けて、リーディング力アップを狙うことができます。速読トレーニングを通して新しい「英語の読み方」を獲得することで、洋書を1冊読み切るためのリーディング力は身に付きます。

何事もそうですが、目的が異なれば、それに適したアプローチ方法は変わります。数万語の洋書1冊を読み切るためには、長い英文を読み続けるのに適した読み方をする必要があるのです。そして、速読トレーニングは、「洋書1冊を読み切ることができるリーディング力」を身に付けるために最適なトレーニングなのです。