フランスの人気コミック「ヴァレリアンとローレリーヌ」を原作に、リュック・ベッソンが監督・製作・脚本を手がけたSF大作『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』。

映画が始まると、地球の周回起動を回る宇宙ステーションに様々な国の人々、さらに様々な星の宇宙人が集ってくる。この場面でBGMに使われているのがデヴィッド・ボウイの名曲「スペース・オディティ」である。

「スペース・オディティ(Space Oddity)」というタイトルは「宇宙の痴れ者」と訳されるだろうか。歌詞は2つの視点で語られる。地球の管制塔員からと、宇宙にいるトム少佐からの視点だ。

詳しい描写はされないが、宇宙遊泳の成功に浮かれる管制塔員を尻目に、トム少佐は宇宙の彼方へ飛んで行ってしまう。そのやりとりを、フォークギターだけで弾き語る物悲しい序盤から、壮大な盛り上がりを魅せる後半へ、美しいメロディで紡いでいく。

このドラマティックな名曲はしばしば他の映画でも使用され、スクリーンを彩ってきた。

冒険者への讃歌として

デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」が使用された映画のひとつに『LIFE!』がある。コメディの印象が強いベン・スティラーの監督作ながら「中年の危機」に真摯に寄り添った作品である。

廃刊の決まった写真雑誌「LIFE」のネガフィルムを管理するウォルター・ミッティ(ベン・スティラー)が、写真家ショーンから最終号の表紙を飾るはずのネガフィルムを受け取るために、写真家の足取りを辿る冒険の旅に出る。

社内のフィルム管理室にこもりきりのウォルターが意を決してヘリコプターに乗り込む場面で「スペース・オディティ」が使用される。この場面では、トム少佐の心象が登場人物ウォルター・ミッティに投影されている。

トム少佐は宇宙空間の中で無限に広がる宇宙を見上げ、「視界の先に何があるのか」という探究心に抗えず飛び出して行く。その果敢な冒険心を『LIFE!』ではウォルター・ミッティの心象に重ねているのだ。

残された者の哀歌として

もうひとつ紹介したいのが『ワンダーストラック』。

1927年、ニュージャージーから母親を追ってニューヨークへ独り旅立つ少女ローズ。1977年、ミネソタからまだ見ぬ父親を追ってニューヨークへ独り旅立つ少年ベン。

2つの時代を同時に描きながら、豊かな人間性と世界の素晴らしさを描いて見せる。

本作で「スペース・オディティ」は2つの意味で使用される。

1つは上記した『LIFE!』と同様、トム少佐視点の、未知なる世界へ旅立つ冒険への讃歌。もう一つは、飛んでいったトム少佐を見送る他ない「残された者」としての管制塔員の視点だ。

1977年の少年ベンは亡くなったばかりの母親を想い、誰もいないはずの家へ向かうと親戚の少女が先に忍び込んでおり、母親のレコードを聞いている。そのレコードが「スペース・オディティ」である。

歌われる管制塔員の「Can you hear me, Major Tom?(トム少佐聞こえますか?)」のリフレインは、死へ旅立った母親とまだ見ぬ父親という、そこにいない2人に独り残されてしまった少年ベンの寂寥とした心象を思い起こさせる。

たどり着いた者への祝歌として

では『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』での「スペース・オディティ」はどうだろうか?

使用されるのは上記した通り、地球の周回軌道上にある宇宙ステーションにどんどんと「新しいお客」がやってくる場面で、トム少佐の勇気とも違うし、管制塔員の侘しさとも違う。祝祭感に溢れた場面である。

ここで「スペース・オディティ」に新しい物語が立ち上がってくる。

つまり、どこへたどり着くとも解らない無謀な旅へ出たトム少佐は、宇宙のどこかで、全く未知な宇宙の生き物と出会い、管制塔員の待つ地球へ宇宙人を連れて戻ってきた、という新しい物語だ。

『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』の舞台は、現在の私たちの世界と地続きの未来、西暦2740年。地球から「国」の概念は薄れ、代表を務めるのは「地球連邦大統領」である。

玉虫色に煌めく軍服や、光輝く服を着たキャラクターたちが溢れ、高度なテクノロジーにより大きな諍いも無くなったはずの世界で、ヴァレリアンとローレリーヌが大事件を解決する。

それまで「冒険の勇気に対する敬意を表す讃歌」や「いなくなった人への哀歌」として捉えられていた「スペース・オディティ」を、「大いなる進化と友情をもたらした者を讃える祝いの歌」としたことで、幸せでアッパーな作品へと昇華した。

■「スペース・オディティ」が流れる『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』冒頭5分映像

(C)2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION、(C)2014 Twentieth Century Fox

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