ローリング・ストーンズ欧州ツアー初日、10年ぶりのダブリン公演レポート

写真拡大

ザ・ローリング・ストーンズは、2018年「ノー・フィルター」ツアーを10年ぶりにアイルランド・ダブリンでスタートした。定番ソングから隠れた名曲までライブでは珍しい楽曲の数々を披露した。

木曜日の夜、ダブリンのクロークパークでザ・ローリング・ストーンズが「ミス・ユー」を演奏したとき、何かが起こった。ストーンズのコンサートでは、この曲はたいてい脇役で、次の楽曲へのつなぎの曲として演奏されることが多かった。だがその夜は、このディスコ調の楽曲が会場に火をつけた。それは曲が始まったとたんに起きた。チャーリー・ワッツが力強い4ビートを打つと、ベーシストのダリル・ジョーンズがスタッカートでファンクの要素を加える。これをきっかけにキース・リチャーズのギターが目を覚まし鮮やかなコードを奏で、ミック・ジャガーは狂ったように踊り始め、ロニー・ウッドはストラットギターをかき鳴らし、にやりと笑った。

前触れもなくやってくるこうした瞬間が、ザ・ローリング・ストーンズを現在も最高のライブバンドたらしめている。「ノー・フィルター」ヨーロッパツアー第2弾の初日は、そんな瞬間のオンパレードだった。「ライド・エム・オン・ダウン」でヒューバート・サムリン風のフレーズを炸裂させ、笑みをのぞかせるリチャーズ。ライブではほとんどお目にかからない「ネイバーズ」を演奏し、「これがロックだぜ」と漏らすジャガー。

他のスタジアム級バンドのコンサートとは違い、ストーンズのコンサートは今でも危険な香りがする。次の山場はいつ? いや、「イッツ・オンリー・ロックンロール」のようなつなぎ曲がいきなり演奏されるかもしれない。こうした緊張感は、彼らの年齢によってさらに強調される。バンドとしてはすでに56年目。ピンク・フロイドやデヴィッド・ボウイなど、彼よりも後から出てきて伝説となったアーティストたちはすでにミュージアムの巡回展で拝む存在となってしまった。ストーンズも展覧会で取り上げられてはいるが、だからこそ、主力メンバー4人がいまだに現役でツアーに出てハイレベルな演奏を繰り広げているという事実にますます驚かされる。彼らはまた奇妙かつ意外な形で、、現代のカルチャーにも存在感をアピールしている。今週の「ニューヨーク・タイムズ」の記事によると、FBIは2016年の大統領選以前、ロシア疑惑捜査にコードネームをつけていたそうだ。その名は”クロスファイヤー・ハリケーン”。「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」の歌詞からとったものだ。

この日のコンサートは、古巣に帰ったような気分だった。ストーンズがアイルランドでコンサートを行うのは10年ぶり。いつになくミック・ジャガーは饒舌で、1965年にアイルランドのアデルフィ・シネマで行ったライブを振り返り、ベルファストやコーク、その他名もない町の名前をシャウトした。ロニー・ウッドを紹介する際には「キルデア出身の少年」と呼び、「ワイルド・ホース」の演奏前には、「『ウィスキー・イン・ザ・ジャー』をやろうと練習したんだが、うまくいかなくてさ。代わりにこの曲を演奏するよ」と冗談を飛ばした。また、数日前にメンバーでダブリンの町を飲み歩いたことも告白。コンサートの前日には観光客でごった返すテンプル・バーへも足を運び、名物の”スパイスバッグ”を4人で頬張った、と語った(「ご存知ない方のためにお教えすると、スパイスバッグとはカリカリのフライドチキンとフライドポテト、それに謎の中国風スパイスを袋や箱に入れて、シェイクして混ぜたもの」――Just Eatより)。

コンサートはチャーリー・ワッツで始まった。ステージに1人たたずむドラマーが「悪魔を憐れむ歌」の怪しげなリズムを刻み始める。これまで、ストーンズのコンサートはキース・リチャーズのギターリフで始まるのが常だった。今回の変更は、ワッツへの称賛の証かもしれない。バンドの中でも最年長で、御年76歳。フィル・コリンズや、ラッシュのニール・パートといったベテラン・ロックドラマーたちの多くが体力的な理由からパフォーマンスを断念する中、糊のきいたグリーンのシャツに身を包んだワッツは、左手でリズミックなターンを巧みに繰り出す。「ダイスをころがせ」になるといよいよ本領発揮、ミック・ジャガーに目配せする。さながら「俺たちがまだこれを演奏できるなんて信じられるかい?」と言わんばかりに。

最初のピークが訪れたのは、ジミー・リードの「ライド・エム・オン・ダウン」のストーンズらしいワイルドなカバーで、ジャガーがハーモニカをかき鳴らしたとき。そのあと、ジャガーは「もう何百年も演奏していない曲」と前置きをして、『刺青の男』に収録のブルースの名曲「ネイバーズ」を演奏した。アルバムに収録されているよりも、やや長めの演奏。リチャーズとウッズがチャック・ベリーのフレーズを織り交ぜると、ワッツも思わず笑みがこぼれた(最後に彼らがこの曲を演奏したのは200年、「フォーティー・リックス」ツアーの時だった)。もう一つの山場は、「ミッドナイト・ランブラー」。ここまで抑え気味だったジャガーは、ステージの花道に歩み出て激しく上下にジャンプ。世にも恐ろしい物語を歌い始めた。他のメンバーは1か所に固まり、ディープなブルースのメロディにどっぷり浸っている。スタジアムをブルースのライブハウスに変えることができるのは、ストーンズを置いて他にいるまい。

ソロパートでは、リチャーズが珍しい1曲を披露した。激しい「ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン」のあと、いつもなら「ハッピー」へ続くのだが、この日はアコースティックに持ち替えて、『ヴードゥーラウンジ』のスロウなバラード「ザ・ワースト」を演奏した。「最初に言ったと思うが/おれは最悪なやつ/お前たちがつるむようなやつさ」と歌うリチャーズ。バックボーカルのバーナード・ファウラーのハーモニーにウッドのスチールギターが相まって、リチャーズのしわがれ声は深く胸に響いた。ウッドは昨年、肺がんの恐れがあることを公表したが、この日は非常に陽気で、キラキラ光るスニーカーを履き、最高のプレイを見せてくれた。

いよいよコンサートも大詰め。「ブラウン・シュガー」「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」に続き、激しい「ギミー・シェルター」。ステージには、ヒラリー・クリントンの大統領選挙キャンペンのスローガン「Stronger Together(一緒のほうが強い)」や、ウイメンズマーチを連想させる映像が投影された。最後の締めは「サティスファクション」。リチャーズは小さなギブソンのソリッドギターで演奏し、さらにガレージ感倍増。2012年、それまで活動を休止していたストーンズが50周年アニバーサリーツアーで久々に表舞台に現れたときは、これが見納めだろうなと思われた。だが彼らはそのあともコンスタントにツアーを続け、ブルースのカバーアルバムもリリース。噂では、2005年以来となるオリジナル楽曲のニュー・アルバムもリリースするそうだ。「どこまで進化できるか、見てみたいんだ」と、3年前ローリングストーン誌のインタビューでキース・リチャーズは語った。「バンドをこうしていきたいとか、特に何か目標があるわけじゃない。ただ、どこまでいけるか見てみたいのさ」。そう、昨夜の彼らはまだ旅の途中だ。

セットリスト
「悪魔を憐れむ歌」
「ダイスをころがせ」
「黒くぬれ!」
「Just Your Fool」
「ライド・エム・オン・ダウン」
「ネイバーズ」
「ワイルド・ホース」
「無上の世界」
「イッツ・オンリー・ロックンロール(バット・アイ・ライク・イット)」
「ホンキー・トンク・ウィメン」
「ビフォー・ゼイ・メイク・ミー・ラン」
「ザ・ワースト」
「ミス・ユー」
「ミッドナイト・ランブラー」
「スタート・ミー・アップ」
「ジャピン・ジャック・フラッシュ」
「ブラウン・シュガー」

アンコール

「ギミー・シェルター」
「(アイ・キャント・ゲット・ノー)サティスファクション」