金正恩(キム・ジョンウン)氏

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日本人から見た金正恩氏のイメージが、変わりつつあるようだ。最近、北朝鮮情勢について講演などを行うと、「金正恩氏はいい人になったんじゃないか」との意見を聞くことがある。

先日も紹介したが、金正恩氏の性格については、2016年に脱北して韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使が自叙伝『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で興味深いことを書いている。

太氏は金正恩氏の性格について「非常にせっかちで気まぐれで、荒々しい」と表現。それを表す例としてスッポン工場で激怒したエピソードを挙げた。

これは金正恩氏が2015年、スッポン養殖工場を現地指導した際、管理不備に激怒。支配人を処刑してしまった事件だ。現地指導の様子は動画に収められ、記録映画として朝鮮中央テレビでも放映された。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

確かに、金正恩氏は文在寅氏との南北首脳会談、習近平氏との中朝首脳会談を経て、「意外と物わかりの良い指導者」というイメージを打ち出すのに成功している。米朝首脳会談を前に、あれほど固執していた核兵器を放棄するのではないかという期待感も漂っている。

北朝鮮の非核化の可能性については、機会を改めてじっくり検証するとして、金正恩氏が単なる狂気の独裁者ではなく、合理的かつ実利的な一面を持っているのは確かだ。

しかし、金正恩氏が大胆な方向転換が出来るのは、裏返せば好き放題にできるのは、これまで北朝鮮国内で幹部や国民たちを恐怖政治で抑えつけ、政権を支えてきた幹部さえも容赦なく処刑してきた、絶対的な暴君だからだ。

2015年4月には当時の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長が会議中に「居眠り」し、さらにそれを見咎められて口答えしたために、金正恩氏の命令で粛清された。それも、人間を「ミンチ」にしてしまうような残忍極まりない方法で処刑されたといわれている。

前述した現地指導の動画は、3年前のものとはいえ、金正恩氏が文在寅氏や習近平氏の前で見せた振る舞いとは180度違うことがよくわかる。とりわけ3月末の習近平氏との会談での神妙な振る舞いに比べると、その違いは歴然だ。

金正恩氏がまがりなにも一国の指導者である限り、様々な場所で相手を見ながら態度を変えるのは当然だ。また、今後もそうした手腕、つまりうまく立ち回る術を身につけていくだろう。洗練された様子を見せる機会も増えるはずだ。

だからといって、金正恩氏がこれまで国内で行ってきた残忍な方法による処刑、そして恐怖政治が帳消しになるわけではない。国内で見せる独裁者としての振る舞いがこそが金正恩氏の真の姿であることを忘れてはならない。