写真=iStock.com/Wachiwit

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いざというとき、自分の身を守ってくれるものは何か。その筆頭は「法律」だ。「プレジデント」(2017年10月16日号)の「法律特集」では、8つの「身近なトラブル」について解説した。第8回は「スマホ・PCの個人情報」について――。(全8回)

■相続できる・できないデジタル遺品の「線引き」

持ち主の死後、残ったスマホやパソコン上に存在する写真や文書などのデータや、故人のSNSやネット証券のアカウントなどのことを「デジタル遺品」と呼ぶ。普通の遺品とは異なり、その取り扱いには注意が必要だ。

デジタル遺品は、「オフラインデータ」(パソコンやスマホ上に保存されているデータなど)と、「オンラインデータ」(SNSやネット証券のアカウントなど)の2つに大きく分けることができる。

オフラインデータは「無体物」であり、所有権の対象とならないことから、相続の対象とはならない。しかし、オフラインデータが保存されているデジタル機器自体は「有体物」であり、普通の遺品と同様、相続の対象となる。そのため、デジタル機器の相続を介して、オフラインデータの相続も実質的に可能となる。

なお、仕事上の文書データや家族との思い出の写真など、自身の死後に家族などに引き継ぐべきものは、デジタル機器のパスワードなどを、家族と共有しておくとよいだろう。一方、隠したいデータは、別のパスワードをかけるなどの対応が求められる。

■FX取引口座を遺族が知らず、追加証拠金で1500万請求

一方、「オンラインデータ」も、法的に相続できないケースが多い。ネット上のメール等のアカウントは、利用規約において「第三者に譲渡、貸与、相続できません」と規定されていることが多いためである。このような場合、アカウント自体は、故人のみに帰属するものとして、相続の対象とはならない。

だからといって、故人になりすまして利用しようと考えるのは危険だ。生前からIDやパスワードが共有されていれば、「本人の承諾」があるものと評価されうるため、不正アクセス行為に該当するおそれは低くなる。しかし、利用規約上、相続禁止を明記しているサービスであれば、利用規約違反となる事実は変わらない。

なお、オンラインデータで意識したいのは、アカウントを引き継ぐことよりも、むしろ停止ないし解約することだ。ネット証券でFX取引をしていた人物の死後、遺族は口座の存在を知らずに放置。為替変動で追加証拠金が発生し、業者から1500万円を請求された事案もある。金融系のサービスは、まずサービスの停止が最優先。遺産分割のことはその後でよい。

誰にでも万が一の事態は起こりうる。死後に遺族が困らないよう、エンディングノートなどを活用し、デジタル遺品を整理してIDやパスワードを書き残しておくべきだ。

▼相続できるサービス、できないサービス

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SNS

△:Facebook、Instagram 追悼アカウントに変更が可能
×:Twitter 遺族は利用できない
アカウントの譲渡・相続は一切を禁止しているものがほとんど。一部サービスでは追悼アカウントに変更することが可能。
カードポイント
○:JALマイレージ、ANAマイレージ 相続できる
×:Amazonポイント、Yahoo!ポイント、楽天ポイント 相続できない
JAL・ANAのマイレージポイントは相続することが可能。
マネー
○:ネットバンク、ネット証券
ネット上にもお金を預けているか否かの家族への告知は最重要。登録した連絡先を伝えておけば、大きな金銭的損失は抑えられる。
メディアコンテンツ
故人以外の利用不可
×:Kindle、d-magazine 電子書籍・雑誌、Hulu、NETFLIX 映像配信
書籍や映像の「所有権」ではなく「閲覧権」を得ているにすぎないので、相続することは不可。

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伊勢田 篤史
2006年、慶應義塾大学経済学部卒。13年、中央大学法科大学院修了。15年みらい総合法律事務所入所。16年日本デジタル終活協会を設立し、代表理事を務める。
 

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(伊勢田 篤史 構成=村上 敬 撮影=榊 智朗 写真=iStock.com)