遅くまで残業する場合、残業代はどうなるのか (写真:motion.imaging / PIXTA)

新入社員の中には研修期間が終わり、5月から正式な配属先で仕事を始めている人も少なくないだろう。これまでは定時に帰ることができたが、残業せざるをえない場面も増えてくる。


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しかし、実際に残業を始めると、「残業の申請制度」や、「パソコンのログインで就業時間の管理」など、つねに見張られているような厳しい残業管理の実態に直面し、閉口する人も出てくる。

さらに職場によっては、「ノー残業デーのおかげで他の日がきつい」「いつも就業時間を過ぎて働いているのに残業代がつかない。うちってブラック?」といった疑問、あるいは「部の飲み会なのに残業代はどうして出ないの」といった不満をもつ人もいるだろう。

なんとなく釈然としない「残業」。今回は「残業」の仕組みとルールについてまとめた。

法的には労働時間は1日8時間まで 

「労働基準法では、労働者は1日8時間、1週間で40時間までしか働けないと定めています。これが『法定労働時間』。それを超えて働かせることは原則的に違法です」と話すのは、フォーサイト総合法律事務所の由木竜太弁護士だ。

「法定労働時間」を超えて働かせた場合は、会社や責任者、あるいは直属上司などが「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」を科せられることもある。では違法なのに、どの会社も残業をしているのは、どうしてなのだろうか。

残業を可能にするのが、ニュースなどでよく耳にする、36(サブロク)協定と呼ばれる協定です」(由木弁護士)

36協定とは、会社と労働組合、もしくは、従業員の代表者が残業に関して決めたルールのこと。たとえば、「繁忙期」「緊急の案件」「クレーム処理」など、具体的に残業が必要な事態を想定して、会社は労働組合や従業員代表者に、「このような事態が発生したときには残業をお願いする」と頼み、条件等を提示したうえで労働組合や従業員代表者がそれを了承すれば協定締結となる。

労使(労働者と使用者=雇用主)で作った協定書を労働基準監督署が受理すれば、残業は違法ではなくなる。休日出勤もOKだ。これを免罰効果という。もっとも、36協定の締結・届出だけでは足りず、就業規則上に残業を命じる旨の規定が必要となるほか、時間外労働等に対する割増賃金の支払いも必要となる。なお、「36協定」と呼ばれるのは、この協定を定めることができると、労働基準法の36条に書かれているため。

もっとも、36協定を結んだからといって無制限に残業ができるわけではない。厚労省の告示「時間外労働の限度に関する基準」では、36協定を締結しても残業できる時間は1カ月で45時間、1年間で360時間が限度と決められている。

労使で協定を結べば残業が可能になる

一方で「1カ月に80時間の残業が過労死ライン」と言われている。それだけ長時間に及ぶ残業は健康に悪影響を及ぼすと考えられるからだ。しかし、そもそも80時間を超える残業は違法なはずなのに、このような働き方をしている人がいることに疑問を持った人もいるだろう。

そのカラクリは、36協定の特別条項。たとえば、「クレームが発生した」「工場でトラブルがあった」など不測の事態が起きたとき、どうしても「1カ月で45時間の残業」の上限を超えてしまうことがあるだろう。「法律違反になるから対応しません」では、ビジネスとして成り立たない。そこで、「特別な事情」がある場合に限って36協定を上回る残業ができる特別条項を付けることが可能とされている。

それを特別条項付き協定という。「特別な事情」は臨時的なものに限り、全体として1年の半分を超えないことが見込まれる必要性があるが、限度時間の上限の決まりがない。現在の法令では、事実上、労働者を青天井で働かせることができる。残業するのが一種の美徳だった時代は、80時間を超えるような残業が認められたこともあったわけだ。

現在、国会で審議されているのが、特別な事情がある場合でも青天井だった残業時間を制限する法改正。法案が成立すれば具体的には年720時間未満、単月100時間未満、複数月の平均でも80時間未満が限度になる。

新人にとっては、「残業代」も気になるところだろう。よく残業がカットされると生活が成り立たないという話を聞くが、残業すると、そんなにたくさんおカネがもらえるのだろうか。

残業させた場合には法律で決められた割合の割増賃金を支払わなければならないことから、そのように言われるのかもしれません」(由木弁護士)

たとえば、労働基準法で定められた上限の1日8時間あるいは週40時間を超えた場合は、時給換算で25%以上の割増賃金となる。一方、深夜(午後10時〜翌朝5時)に働けば、残業、通常勤務であるなしにかかわらず25%の割増賃金が支払われる。仮に深夜に残業すれば、25%+25%で、合計50%以上の割増賃金になるわけだ。

さらに月60時間以上の残業をした場合、60時間超えた時間の割増賃金率は25%から50%に拡大する。大企業では義務化されているこの割増賃金率は、中小企業については現時点では適用が猶予されている。

ひとつ注意しておきたいのが「8時間を超えない残業」の場合。会社が出勤時間と退社時間を定めた「所定労働時間」というのがあるが、これが8時間に満たない会社は多い。たとえば勤務時間が朝9時30分〜18時00分までで、1時間の休憩がある場合、所定労働時間は7時間30分となる。

このとき、30分残業すれば、その分の残業代は発生する。しかし、法定労働時間の8時間を超えていない(「法定時間内残業」という)ので、割増賃金の対象にはならない。ただ、会社によっては、法定労働時間を超えない部分の残業代も割増対象にしている場合もあるので、就業規則を確認しておいたほうがいいだろう。

法定休日に出勤すればさらに35%の割増

一方、深夜に及ぶ会社や取引先との飲み会に残業はつかないのだろうか。

「参加が強制されていたり、その飲み会に関する業務を上司から命じられていたりしていれば残業代はつきますが、心理的なプレッシャーは別として、多くの場合、飲み会は任意。だからつかないのです」(由木弁護士)

一方、法定休日であれば、さらに35%の割増となる。ちなみに休日には法定休日と法定外休日がある。労働基準法で「週に1日、もしくは1週間に1日の休みを設けなくてはいけない」と決められており、それに該当するのが法定休日で、それ以外に会社が決めた休日は法定外休日。たとえば週休2日の会社では、日曜日を法定休日と定めれば、法定外休日の土曜に出勤しても35%の割増手当は出ない。日曜出勤だけに適用されるわけだ。

いずれにしても、こんなに割高であれば、企業はできるだけ時間外に働かせることはやめようと思うだろう。このような抑制効果を狙って、法律では時間外の手当を割高に設定しているわけだ。

基本的には残業は会社が命じるものだが、稼ぎたい人にとっては、残業は効率よく稼ぐ便利な手段なので、明日できる仕事を残業して今日中に終えるといった働き方をする人も出てくる。前述したように厳しいチェック体制は、そうした働き方を防ぐ狙いもある。

管理職は残業代がつかない……。こんな話を聞いたことがある人も多いだろう。管理職(法律では「監督若しくは管理の地位にある者」)は残業代(深夜割増は適用される)どころか、休憩時間や休日の適用もなくなる。だから、管理職になった当初は、管理職手当がある一方で、残業代や休日手当などがなくなり、結果的に手取りが減るという逆転現象が起こることもある。

いずれにしても、残業代や休日の割増手当などが出ない管理職になることは「損」だと感じる人もいるかもしれない。実際、企業の中には、残業代を節約するために、課長や部長、あるいは店長など、やたらに肩書をつけたがるところもある。

「法的には、肩書をつければ、管理職に該当するという単純な話ではありません。労働基準法では『労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的立場にあるもの』と解釈されています」(由木弁護士)

具体的には「経営方針の決定に参画している」「出退勤について自由裁量がある」「職務に見合う十分な手当がある」といった環境下で働いているかどうかだ。仮に、一般社員とたいして変わらぬ働き方、賃金であれば法的な「管理職」とは言えない。このような人たちが、いわゆる「名ばかり管理職」といわれる。これまでの残業代の支払いをめぐる裁判もいくつか起こった。

早朝出勤も労働時間に参入される

ラッシュを避けて早朝出勤してさわやかに仕事をしたいと考える人もいるだろう。では、出勤時間前の労働は残業時間として認められるのか?

基本的に早朝出勤を命じられれば、出勤した時間から労働時間に参入される。1時間早く出勤して定時まで仕事をすれば、1時間の時間外労働をしたことになる。

ただ、そうした早朝に自主的に仕事をすることが基本的に禁止なところ、本人の判断に任せて残業代の支払いがグレーになっているところもある。こちらも就業規則を確認したり、上司や先輩に会社の仕組みがどうなっているか聞いておいたほうがいい。

働き方改革をひとつのきっかけに、企業はサービス残業、長時間労働が当たり前の世界から、長時間労働の是正に大きく舵を切っている最中だ。企業によって進展スピードや目指すワークスタイルの方向に差がある。会社のみんなと違う働き方をしたい場合は、自分で判断せずに上司に相談することが大切だ。

一方、払われるはずの残業代などがまったく出ていないケースでは、まずは社会人の先輩である両親や上司などに相談してみよう。明らかにおかしい場合は、労働基監督署や社会保険労務士会が実施している無料相談などに相談してみるのもひとつの手だ。