北陸新幹線の停車駅の間で明暗が分かれている(撮影:尾形文繁)

地方都市にとって、新幹線駅の開業やダイヤ改正は街の命運を握る大問題だ。最近、動揺が広がったのは新高岡駅(富山県高岡市)だった。

1日1往復の臨時便が週末限定へ移行の衝撃

「新高岡 週末のみ停車 臨時かがやき冬ダイヤ」──。2017年10月21日、北日本新聞が社会面トップ記事でそう報じ、地元に衝撃が走った。北陸新幹線の速達列車「かがやき」のうち、新高岡駅に停車してきた1日1往復の臨時便について、平日運行を11月限りで打ち切り、週末限定に移行する、という内容だ。


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高岡市は銅器や漆器など「ものづくりの街」として知られる。人口は17万人余りと富山市の約42万人に次ぎ県内2位。飛越能地域(岐阜県・飛騨、越中=富山県西部、石川県・能登)の中核だ。

JR北陸本線が新潟県直江津駅と関西を直結していた頃、在来線駅である高岡駅にはすべての特急列車が1日40往復以上停車し、富山駅や、北陸の中心都市・金沢市の金沢駅と同格の存在だった。だが、2015年3月の北陸新幹線の延伸開業(長野駅─金沢駅間)と同時に、苦境に立たされる。


速達タイプの「かがやき」は平日には新高岡には停車しない(写真:abc/PIXTA)

新高岡駅は高岡駅から1.7km南方、高岡市役所からは4km南方に建設された。地方の中都市にとってはつらい距離だ。直江津駅─金沢駅間の旧北陸本線は、第三セクター化され、特急列車そのものが姿を消した。

加えて、当初の「かがやき」停車駅は、大宮以北は長野、富山、金沢の県庁所在地に限定された。開業に先駆けてダイヤ概要が発表されると地元は猛反発、JR西日本(西日本旅客鉄道)などに陳情を重ねた。その結果、1日1往復の臨時便停車が開業ダイヤに盛り込まれた経緯がある。

地元は開業後も、定期列車化を目指し、行政・経済界を挙げて新幹線利用促進運動を続けた。

その結果、開業2年目に当たる2016年度の1日平均乗車人員は1988人(在来線利用者を含む、以下同)と前年より59人増えた。北陸新幹線全体では利用者が前年から8%減っており、地元の奮闘は無駄ではなかったといえる。

しかし、富山駅(7843人、前年比58人減)、金沢駅(2万2268人、同331人減)と比べれば、絶対数での差は明らかだ。JR西日本は平日の臨時便運行の打ち切りを決め、高岡市民のプライドは大きく傷ついた。

ただ、県内には「仕方がない」という見方もある。富山駅─新高岡駅間は約19km、新高岡駅─金沢駅間は約40kmの距離で、いずれも1駅の区間だ。何より臨時便は上りが早朝に、下りが深夜に停車する。地元住民の首都圏往来を重視した設定で、外部から観光客を呼び込みやすいダイヤではない。

JR西日本は、週末のみ臨時便を残す理由として、平日より利用が好調だったことを挙げ、地元のビジネス利用に限界があった様子がうかがえる。

開業後に明暗が分かれる駅

北海道新幹線でも、開業後の明暗が分かれる駅が出ている。好対照なのが、新函館北斗駅(北海道北斗市)と木古内駅(同木古内町)だ。開業後1年間の1日平均乗車人員(自動改札機利用者)は、新函館北斗駅が約2100人、木古内駅は約100人と新函館北斗が20倍超。ただ、駅一帯の話題性は、木古内駅が勝っている。

新函館北斗の駅名は、道南最大の観光都市である函館市と、駅が立地する北斗市の確執の間で誕生した。長く仮称だった「新函館」をそのまま推す函館市側と、「北斗函館」を主張する北斗市側が互いに譲らず、現在の駅名に落ち着いた。だが、北斗市が約100億円を投じて道路や駅前地区を整備したにもかかわらず、5.3ヘクタールの商業地区は、ホテルやレストランが建ったものの空き地が目立つ。

函館商工会議所は、新幹線開業に伴って2016年度、函館市内に405億円の波及効果があったと試算している。だが、こうした観光面の効果をよそに、新幹線駅前の活用イメージは明確ではない。2030年度の札幌延伸に伴う新函館北斗駅の「途中駅化」や、函館市中心部から約18kmという距離を懸念し、様子見の気配が漂う。


木古内駅は新函館北斗駅よりも話題性で勝る(撮影:尾形文繁)

他方、木古内駅は近隣8町との連携や、町中心部に位置する在来線駅(現・第三セクター駅)への新幹線駅併設、駅前への「道の駅」新設などによって、北海道新幹線の「模範的活用事例」という評価が定まりつつある。

新幹線開業直前にオープンした「道の駅 みそぎの郷 きこない」は、開業後1年間で利用者が55万人に達するとともに、道内の道の駅満足度ランキングで初登場4位に選ばれるなど躍進が続く。さらにサービス向上に努めた結果、開業2年目は早くもランキング第1位に輝き、周囲もスタッフも驚きと喜びに包まれた。

道の駅利用者の多くは、地元住民や函館方面から周遊してきた人だと推測される。木古内駅の乗車人員数を考えると、同駅の利用者がどの程度、道の駅や町内の活況に寄与したかは見えにくい。とはいえ、道の駅新設や周辺整備は、新幹線開業を契機に構想され、入念な準備を経て実現したものだ。駅利用者は少なくとも、地元に新幹線効果が表れる例といえる。

新幹線開業によって得られる真の効果

列車ダイヤや乗降客数に、新幹線沿線の都市は一喜一憂しがちだ。しかし、新幹線開業によって得られる真の効果は、「瞬間的な利用者数増」ではない。地域のリソースをとことん使い、人口減少と高齢化に適合できるまちづくりを目指す。開業後、一定期間が過ぎてから見えてくる地域経営の姿にこそ、新幹線沿線の実力は表れてくる。

現に北陸新幹線では、各駅停車の「はくたか」しか止まらない上越妙高駅(2016年度1日平均乗車人員が約2100人)や、長野県の飯山駅(同約490人)で、刮目すべき動きがある。コンテナ商店街の誕生や県境を越えた異業種交流会など、人口減社会への適合を目指した動きが活発化しているのだ。

新幹線開業によって地域社会で起きる意識変革や地域経営力の変化こそが、地方都市の生き残りのカギを握る。