スーパー隣のコンビニが全然潰れない理由
※本稿は、本多利範『売れる化』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■品揃えも、価格も、負けているのに……
先日、ある人からこのような質問をされました。
「うちの近所のコンビニの真横に、大きなスーパーが新しくできたんです。品揃えが多くて商品も安くて、これはあのコンビニは潰れるなと思っていたら、潰れないんですよ。以前と同じようにコンビニにもお客さんが入っていて、それでいて新しいスーパーも繁盛しているんです。これはどうしてなんでしょう」
実はこのような質問は、これまでも何度も受けてきました。たしかにこのような疑問を抱くのも理解できます。
コンビニとスーパーでは重なる品物が多いのも事実ですから。例えば牛乳やジュース、パン、お菓子、日用品、弁当、サンドイッチ、酒類など、同じカテゴリーの商品で、しかも同じメーカーの商品もたくさんあります。
しかもスーパーのほうが品数は豊富で、たいていの場合は価格も安く設定されています。ナショナルブランド(NB)商品も、大量のロットで仕入れるスーパーでは比較的低価格で提供することができますし、独自のプライベートブランド(PB)商品で安価なシリーズを展開しているところもあります。
しかし、それでもコンビニとスーパーは共存できます。それはなぜでしょうか?
スーパーとコンビニの共存を不思議に感じる人は、おそらく、「品揃えが豊富、商品が安い=客が喜ぶ」という発想にとらわれているからでしょう。
たしかにそのコンセプトで店づくりをして成功しているブランドもたくさんあります。
多くのスーパーやディスカウントショップなどは、商品の豊富さや価格の安さで勝負をかけて成功していますし、衣服のユニクロやH&M、インテリア用品のニトリなども基本的に同様のコンセプトと言えるでしょう。
高級服や高級インテリア用品だけでない選択肢を用意することで、喜んでいる消費者はたくさんいます。ただ、いつでもどこでも、商品の豊富さと安さを消費者は求めているのかというと、それは少し違います。商品の豊富さや安さに代わる価値を提供することで、十分それらに対抗できる商売をすることは可能なのです。
■実はスーパーとコンビニで迷う人はいない
どうしてスーパーとコンビニが共存できるのか。
答えは、両者に対して人々が求める役割が異なるからです。
人は買い物に行こうとして、「今日はスーパーに行こうか、それともコンビニに行こうか」とは迷いません。おそらく最初から「今日はスーパーに行く」「コンビニに行く」と決めているはずなのです。
例えば、ある人がいて、夕食にみそ汁と魚、野菜料理を食べたいと思ったとします。もしその人が料理好きで、自分で調理したいと思えば、スーパーに行き、野菜コーナーで野菜を選び、鮮魚コーナーで魚を買い、レジに向かうでしょう。
けれども、もしその人が仕事で疲れていたり、時間がなかったりした場合はどうでしょう。一から調理をする時間も気力もない。そういう日はコンビニでサバの味噌煮やきんぴら、サラダなどを買って、自宅で盛り付けるかもしれません。
同様に、朝寝坊して朝食を食べる時間がなければ、前日にスーパーで買ったパンとハム、レタスで朝食をつくるのではなく、近所のコンビニでサンドイッチとコーヒーを買うでしょう。
■コンビニはタクシーに似ている
弁当をつくる時間がなければ、コンビニでさまざまな弁当を選べます。
そう、コンビニは時間のない人のために、自分たちでそれをつくる手間をかけさせず、すでに完成した品々を提供する役割を果たしているのです。
そう考えてみると、コンビニはタクシーと似ているのかもしれません。
自分の足で歩けば目的地にたどり着くことはわかっていても人はタクシーを使います。疲れていて荷物がいっぱいだ、雨が降っている、待ち合わせに遅れそうだ、などとさまざまな理由で人はタクシーを利用します。
タクシーに乗れば当然料金も発生しますが、それでも支払った金額に相当する利便性を重視するからこそ、私たちはタクシーを利用するのです。
素材を多く扱うスーパーに比べ、コンビニは弁当や惣菜、中華まんやチキンなど、調理済みフードのカテゴリーに特に力を入れています。それは時間の足りない現代人に、気軽においしいものを食べていただきたいからです。「家庭のキッチン」として利用していただくことが、コンビニの一つの存在意義と言えるでしょう。
■「タイム・コンビニエンス」という価値
時間の節約という意味では、食べ物だけに限りません。
例えば家のトイレットペーパーや洗剤が切れていれば、駅前のドラッグストアまで行かなくても、家の近所のコンビニで買うことができます。銀行に行く時間がない人は、コンビニのATMで用を済ませられます。役所が開いている時間に行けなければ、公的書類をコンビニで受け取ることもできます。自宅で宅配便を受け取れない人には、コンビニが代理で荷物を受け取っておくし、急遽証明写真などが必要な場合は、複合機で写真をプリントアウトすることもできるのです。
その用を済ますことに本来かかる時間や手間を、コンビニが代わりに提供することで、空いた時間を人々はほかのことに使うことができます。
それが、コンビニが提供している一つの価値、「タイム・コンビニエンス」なのです。
コンビニが近所に一軒ある。それはつまり、食料品店、弁当店、コーヒーショップ、酒店、たばこ店、日用品店、文具店、書店、銀行、郵便局、宅配会社、役所、写真店が、そこに存在しているのと同じことなのです。
わずか平均30坪足らずの小さな店で、このすべてを賄うことができる店など、世界広しといえども日本のコンビニ以外には存在しないでしょう。
■自分の商売の定義を厳密にするな
さきほど、商売をしたいならまずコンセプトを明確にしろというお話をしました。
私たちコンビニにとって言えば、コンセプトの一つは「時間の節約」であり、その観点から見れば、フードもドリンクも、デザートもATMも宅配便も郵便も、すべて一つのコンセプトの上に並ぶわけです。
私は常々「コンビニだからやる」「コンビニだからできない」という発想を捨てろと話しています。
自分たちは「○○」を売る商売だからと、自分たちを厳密に定義づけてしまうと、その枠からはみ出ることはすべて削除してしまう発想になります。
例えば、生花店だから花だけを売っている、というのは考えればおかしな話です。花を買いに来る人は、自然や美、癒やしを求めてくる人が多いはずです。ならば花を売っている店の片隅に、花の画集や写真集、フラワーアレンジメントの書籍を置いてもいいだろうし、それらを眺めながらコーヒーを飲めるカフェを併設していてもいいはずです。花と一緒に贈り物にできる雑貨を置くのでもいいし、ラッピング講座などのワークショップを開くのもいい。アイデアは無限に湧いてくるはずです。
コンセプトが明確になれば、新たなサービスや新たな商品開発のアイデアも出てくるのではないでしょうか。「自分たちは○○屋だから」という枠を出ることで、まだあるニーズを掘り起こすことは十分可能なのです。
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本多コンサルティング代表
1949年生まれ。大和証券を経て、1977年セブン−イレブン・ジャパン入社。同社の最年少取締役に就任。後に渡韓し、ロッテグループ専務として韓国セブン−イレブンの再建に従事。帰国後、スギ薬局専務、ラオックス社長、エーエム・ピーエム・ジャパン社長を経て、2010年よりファミリーマート常務。2015年より取締役専務執行役員・商品本部長として、おにぎりや弁当など多くの商品の全面改革に取り組む。2018年、株式会社本多コンサルティングを設立。著書に『おにぎりの本多さん とってもおいしい「市場創造」物語』(プレジデント社)がある。
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(本多コンサルティング代表 本多 利範 写真=iStock.com)