イオンの2018年2月期決算は営業利益が2102億円となり、2012年2月期以来、6期ぶりに過去最高を更新した(撮影:尾形文繁)

4月11日、イオンは2018年2月期決算を発表した。それとともに、役員新体制のリリースをひっそりと公表した。グループ全体のデジタル事業を遂行する「デジタル事業担当」の執行役員を新設し、そこに齊藤岳彦氏を着任させるという。

齊藤氏は子会社イオンリテールのオムニチャネル推進本部長などを務めた経歴を持つ。昨年3月には、グループのEC(ネット通販)事業を担う子会社、イオンドットコムの社長に就任。51歳で執行役員となったことに、ある社内関係者は「商品もITにも精通している人物で、グループ全体のデジタル戦略を指揮するには適任。抜擢人事だ」と語る。

また、ある業界関係者は「子会社の役員をわざわざグループの執行役員に昇格させるのだから、社内外にデジタル強化の姿勢を鮮明にする意味合いがある」と指摘する。

米EC関連ベンチャーに出資

役員体制発表と同じタイミングで、イオンはもうひとつのデジタル強化策を打ち出した。米国EC関連ベンチャー企業のボックスド社に出資するというものだ(出資額など詳細は非公表)。ボックスド社が持つAIを活用したデータ分析や高度な物流システム効率化のノウハウを取り込むことで、デジタル事業を加速する狙いだ。

同日行われた会見の席上、イオンの岡田社長は次のように強調した。「アマゾンに代表されるネット勢の台頭に、欧米の既存小売り業者は“恐怖感”を抱いていた。それが今は、『(デジタル戦略は)身につけなければいけないもの』という認識に変わっている。日本の小売り業者もデジタル戦略が遅れていたが、本格的に始動する段階に入っている」。

今回のボックスド社への出資意向が象徴するように、イオンはこれまで店舗中心だった投資をIT・デジタル・物流に重点配分する方針を掲げている。これら3分野への投資総額は過去3年間で約2000億円だったが、今後3年間は5000億円に増やす。

こうした積極投資によって、2016年度に575億円に過ぎなかったEC売上高を、中期計画の最終年度である2020年度には1.2兆円に引き上げる構えだ。会社全体では10兆円の売り上げを目指しており、計画通り進捗すればグループ全体の売り上げに占めるECの割合は0.7%から12%に拡大することになる。

デジタル戦略の詳細は語らず

2018年2月期は売上高に相当する営業収益が8兆3900億円(前期比2.2%増)、営業利益が2102億円(同13.8%増)と、増収増益で着地した。だが、その内訳を見ると収益構造の偏りが浮かび上がる。 


昨年12月に中期経営計画の説明会を開いたイオン。岡田元也社長は「彼らのやっていることに追いつかなければならない」と、アマゾンの名を何度も挙げ、危機感をあらわにした(撮影:尾形文繁)

実際、営業利益の6割近くを稼いだのは銀行業などの総合金融事業や不動産開発事業だ。対して、主力のGMS(総合スーパー)事業は営業利益105億円(前期は13億円の赤字)と改善傾向にあるものの、全体の営業利益に占める割合は5%以下にとどまる。この主力事業の収益性の低さが足かせとなり、グループ全体の営業利益率も2.5%と水準は低い。

イオンは長年の経営課題である収益力向上にむけ、GMSの立て直しやデジタル事業の軌道化を急いでいる。ただ、PB(プライベートブランド)の拡充や、戦略的値下げによる顧客1人当たりの買い上げ点数の増加など具体策を掲げるGMS事業とは対照的に、デジタル事業については新たに「デジタル事業担当」という執行役員を設けたものの、具体策は見えてこない。

楽天市場のようにさまざまな事業者が出店するECのマーケットプレイス運営への参画を標榜しているが、「今年度中にきちっとしたものを立ち上げたい」(若生信弥副社長)との説明にとどまり、詳細は語らない。取りざたされるソフトバンクやヤフーとの連携についても、現時点で具体的な言及はない。

岡田社長は「お客様の変化は非常に激しい。よほど心して取り組んでいかなければならないだろう」と危機感をあらわにする。2020年度に営業利益3400億円を目指すが、もくろみ通りに進捗するか。その道のりが険しいことは間違いない。