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滋賀県多賀町の名神高速道路下り線で2017年11月、「ながらスマホ」で多重事故を起こし、5人を死傷させたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた新潟県見附市の元トラック運転手に対し、大津地裁が3月19日、禁固2年8か月の実刑判決を言い渡した。検察側による求刑は禁固2年だった。共同通信など各社が報じた。

共同通信によると、スマートフォンを操作しながらの運転について、裁判官は「運転手が小さな画面に意識を集中させてしまう」とし、新たな事故原因の形態に当たると指摘した。検察側の求刑は、従来の過失の類型に当てはめており過小評価していると述べたという。

事故で亡くなった男性の妻は判決後、「裁判官が遺族の思いをくんでくれて感謝している。『ながらスマホ』をしないことをドライバーに意識してほしい」。審理では被害者参加制度を利用して出廷し、事故の可能性を認識しながらのスマホ操作を「殺人と同じだ」と意見陳述したという。

今回の判決は、検察の求刑を上回るものだった。どのような点で画期的と考えられるか。交通事故に詳しい松本篤志弁護士に聞いた。

●検察の求刑が低すぎると裁判所は判断

ーー今回の判決は異例のものでしょうか

「一般に、判決の量刑は求刑を下回るのがほとんどですが、今回の判決は、『ながらスマホ』の危険性を特に強調しつつ、検察官の求刑は軽すぎるとして、求刑を上回る判断をしたもので、極めて異例な内容と言えます」

ーーいわゆる「ながら運転」の危険性を指摘する声は高まっているように感じます

『ながら運転』自体は昔からある類型の事故ですが、最近はスマートフォンのゲームアプリ操作中の事故が話題になったこともあり、特に社会的な関心が集まっています。

今回の判決は、スマートフォンの操作は、運転手が小さな画面に意識を集中させてしまうことから特に危険であり、より強い非難が相当であるとも指摘するようです。

このような指摘は、スマートフォンの特徴をよくとらえたものだと評価することが可能です。ただ、たとえばカーナビ操作中の事故と比べて、『ながらスマホ』だけが特に悪質だというほどの顕著な違いが本当にあるのかというと、異論があるかもしれません。スマホに限らず『ながら運転』一般につき、強い非難が相当であるようにも思われます」

ーー本件は死傷者が5人も出る大変重大な事故でした

「はい。本件は、単に『ながらスマホ』運転だというのにとどまらず、床に落としたスマホを拾おうとするなど脇見の時間が比較的長かったようです。また、被告人運転の大型トラックが絡んだ本件多重事故では、死亡者のみならず負傷者の数も少なくありませんでした。

『ながらスマホ』の点だけでなく、上記の点も含めた全体の事情を考慮して考えると、検察の求刑は低すぎるとして求刑を上回る判断をした今回の判決も理解しやすくなります。検察が実刑を強く求めるのであれば、求刑自体は禁固3年程度でもおかしくなかったとも思われます」

●「ながら運転」刑事処分で特に強い非難

「人間誰しも、どんなに注意してもうっかりで事故を起こしてしまうということはあり得ます。しかしながら、『ながら運転』自体は、やめようと思えば運転者の意識次第で必ずやめることができるものです。だからこそ、刑事処分に際しても特に強く非難されるわけですし、このような声は今後ますます増していくことが予想されます。運転手の皆さんには、是非とも安全運転を心掛けていただきたいと思います」

(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
松本 篤志(まつもと・あつし)弁護士
京都大学法学部卒、平成16年弁護士登録。交通事故(民事、刑事)、刑事事件、保険法、債務整理などを多数取り扱う。大阪弁護士会所属。
事務所名:松本篤志法律事務所
事務所URL:http://law.matsu.net/