写真=iStock.com/Chris Ryan(イメージです)

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もし、トラブルに巻き込まれ、弁護士に頼りたいときが来たとしよう。顧問弁護士がいない場合、何を頼りに探せばいいのか。「弁護士から見ても、いい弁護士というのは見分けづらい。一般の方なら、なおさらだろう」と島田直行弁護士は言う。ただ、「判断材料なら、いくつか挙げることができる」と続ける。どういうことか――。

■「お客様の声」を鵜呑みにしてはいけない

私から見ると、弁護士とは単なる「個人事業主」だ。崇高な理念があっても、収益がなければ暮らしていけない。「恒産なくして恒心なし」というのは、まさに正鵠を得ている。ご存じのように弁護士の数は急増しており、もはや黙っていても仕事が来るという時代ではない。そのため、私にもマーケティングセミナーの案内がひっきりなしに送られてくる。

マーケティング手法のひとつに「差別化」がある。ネットでは、「労働問題に強い」「相続が得意」などといった表現を目にすることも多い。一般の方には、「この分野に強い先生なのだな」と見えるかもしれない。だが宣伝文句は、その大半が“自己申告”だ。「得意」も「強い」も、キャリアの有無に関係なく書くことができるから、あてにならない。飲食店のように口コミ情報がつかないから、自分でPRしなければならないという事情もあるにはあるのだが。

ホームページに載っている「お客様の声」もそうだ。自分が依頼した弁護士から「自由にアンケートに答えてください」と言われたとして、批判的なことを書く人はあまりいないだろう。つまり、ネット上の自己PRは、あまり参考にならないのである。

また、世の社長たちは、他の社長から弁護士を紹介してもらうことが多いようだ。問題は、実際に仕事を依頼したことがある弁護士を紹介してくれたのかどうか。ありがちなのは、会合で名刺交換をしただけ、というケースだ。これでは「単に知っている人を紹介した」にすぎない。それなら、税理士や司法書士といった士業の人たちに相談してみることだ。少なくとも評判の悪い弁護士は紹介しない。いや、できないはずだ。紹介した自分の名前にも傷がついてしまうからだ。

他の社長より、他の士業より、弁護士をよく見ている人たちがいる。

■実力のある弁護士は、裁判所が知っている

弁護士の仕事ぶりを誰よりも認識しているのは誰か――。それは、裁判所だろう。多くの弁護士の、その働き方を見ているから、比較できる。もっとも、裁判所に「どの弁護士がいいですか」と質問しても教えてもらえない。ヒントになるのは、裁判所が弁護士に依頼している案件だ。たとえば、破産した会社の整理をする「破産管財人」という役割があるのだ。その実績の有無を判断材料に入れるといい。あくまでも私の個人的見解ではあるが、裁判所は実力のある弁護士を見定めて、依頼しているに違いない。

自力で判断する方法として、実際に事務所に電話してみることもおすすめする。法律事務所の品質は対応するスタッフのレベルでも察しがつくからだ。電話口の対応が暗かったり、手際が悪かったりすると黄色信号だ。スタッフの対応が悪い事務所は、スタッフと弁護士とのコミュニケーションがうまくいっていないのかもしれない。事件処理は、弁護士とスタッフの共同作業だ。事務所内のコミュニケーションがうまくいっていないようなところに、依頼するのは危険である。組織の品質は、トップの品格以上のものにはならないのが常だ。

■「自分との相性」も忘れてはならない

気になる弁護士がいたら、ぜひ会ってみてほしい。どれだけ情報があっても、会ってみないとわからないことがたくさんある。会ってみて違和感があれば、その場で決めず、他の弁護士にも会ってみることだ。弁護士は、他の士業と違って「対立する相手」と向き合うためのパートナーだ。思うように事件が処理されるとは限らない。むしろ思うようにいかないことが多いかもしれない。だからこそ、社長が納得したうえで依頼することが大切になる。

結局は「社長と弁護士との相性」がすべてなのだと私は思う。労働事件の場合、裁判になれば大半のケースで会社側が劣勢に立つ。そのなかで「弁護士を信用できるか」が土壇場でものをいう。「信用」とは、弁護士の方針がハッキリしているかどうか、それに納得できるかどうか、ということに尽きる。

私自身の方針は、解決至上主義だ。方法にこだわらず、話し合って1日も早く解決することをポリシーにしている。中小企業においては、裁判になって社長の時間を浪費することがもっとも手痛いからだ。裁判で白黒ハッキリつけないことも多いため、「島田のやり方は、玉虫色の解決だ」と批判されることもある。だが玉虫色であろうと、解決したことに違いはない。いつまでも解決できないより、誰にとってもいいはずだ。

最後に、私から見た「頼りになる弁護士、危ない弁護士」をお教えしたい。

■事前に見積もりを出さない弁護士はアウト

労働事件解決のポイントは、「自分が話すより、相手の話を聞く」ことだ。まともな弁護士なら、自分の見解を述べるまえに、まずは社長の見解を聞くはずだ。話を聞いてもらえるとわかったら、相手が安心し譲歩してくれるようになる。そのことを知っているからだ。攻めるだけの交渉では、まとまるものもまとまらない。

「うちの弁護士さんは弱腰だ」という愚痴を聞くことがあるが、まくし立てるように話す弁護士が優れているとは限らない。相手の話をよく聞いて、ポイントを絞ってから主張するほうが話がまとまりやすいからだ。もちろん、ひたすら聞くだけの弁護士では困る。

かつて「弁護士に依頼して困ったことはありますか」とアンケートしたことがある。そのとき多かった回答は、「費用が高すぎる」というものだ。これまでの経験からして、社長の多くは、弁護士費用の額そのものに不満があるわけではない。「いくら費用がかかるのかわからなかったこと」に不満を持っている。あとになって高額な請求書を見せられて、うんざりするのだ。費用については、事前に見積りをだしてもらうべきだ。見積りを出さない弁護士には依頼するべきではない。問題の解決方法も、コストとの兼ね合いで決まるものだ。

■プライドが高すぎる弁護士はいかがなものか

弁護士として最悪なのは、わからないことを曖昧にしたまま事件を扱うことだ。たとえば、2年分の残業代を請求されて100万円を支払う内容で話がまとまったとしよう。このとき安易に「残業代100万円を支払う」とすると、さかのぼって源泉徴収しないといけなくなる。あるいは、失業保険で有利だからと会社都合の退職にしてしまったら、助成金に影響することもある。労働事件に関していえば、目の前の問題のみならず、税務、社会保険あるいは助成金といった周辺の知識が不可欠だ。表向き労働事件が解決しても、思わぬ落とし穴が待っている。弁護士といえども、すべての制度に精通しているわけではないから、その点も踏まえておきたい。

私もいまだに「わからないこと」と遭遇する。経験から「わかっていない部分」を特定することはできるから、調べるなり他の専門家に聞くなりして、対応している。また、社会保険労務士あるいは税理士とチームを組んで仕事を進めている。社長を含めたチーム全員で情報を共有しながら話を進めるやり方が、判断がスムーズでミスも少ないからだ。他の専門家の力を借りようとしないプライドが高すぎる弁護士は、いかがなものか。

私は、自分が完璧でないと知っている。もし、「自分は何でもできる」と感じたら、その日に弁護士を辞めると決めている。自分の弱さを忘れた者は、すべてを失ったのも同然だから。

(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行 写真=iStock.com)