定食店チェーン「大戸屋ごはん処」

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定食店チェーン「大戸屋」の客離れが止まらない。既存店客数は3年連続で前年割れ、営業利益も過去5年で最低に落ち込んでいる。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「売りである『店内調理』がコスト増を招き、メニューには割高感がある。このままでは深刻なレベルでの客離れが起きかねない」と分析する――。

■営業利益は直近5年で最低額を更新

定食店チェーン「大戸屋ごはん処」を運営する大戸屋ホールディングスの“儲ける力”が弱まっている。

2月9日に発表された2018年3月期第3四半期(17年4〜12月)の連結決算は、純利益が前年同期比64.7%減の6800万円となった。売上高は前年同期比2.8%増の197億円、営業利益は19.3%減の4億900万円だった。

純利益の大幅な減少には、実質的な創業者である三森久実氏(15年7月逝去)に対して、創業者功労金2億円を支払ったことが大きく影響している。したがってこれは一時的な要素が強く、純利益の減少は致し方ないといえる。

より重要視すべきは、本業の儲けを示す営業利益の減少のほうだろう。第3四半期ベースで、直近5年では最低額となってしまった。売上高に占める営業利益の割合も2.1%と、同期間では同じく最低となっている。食材費や人件費が上昇し、営業利益をむしばんだ。

■もっとも多いのは「800円台」のメニュー

こうした状況を受け、大戸屋は通期の業績見通しの下方修正を発表。売上高は前回発表から3.7%少ない260億円(前年比1.5%増)、営業利益は34.9%少ない5億6000万円(前年比21.0%減)とした。

集客力も弱まっている。17年3月期の既存店客数は前年同期比2.4%減だった。16年は3.5%減、15年は1.3%減で、3年連続で前年割れを起こしている。17年4月〜18年1月は0.8%減となっており、前年割れは4年連続になる可能性もある。

客離れの背景には、価格の高さがある。現在、大戸屋の定食でもっともメニュー数が多い価格帯は800円台だ。外食チェーンの中では高い部類に属する。同じ定食チェーンの「やよい軒」が700円台であることと比較してみると、大戸屋の高さのほどがわかるだろう。

もちろん、価格に見合ったおいしさがあれば問題はない。大戸屋はセントラルキッチン(複数店舗分の大量の料理をまとめて製造する施設)を持たず、基本的に店内で加工・調理する。手間と時間がかかるが、その分おいしさは増す。そういった点を評価し、現在の価格でも満足している人は当然いる。ただ、客数の減少に鑑みると、そのように捉えている人が減り、「おいしいけれど価格が高い」と考える人が増えているのではないか。

01年頃、大戸屋の定食の主要価格帯は600円台だった。そこから値上げや高価格メニューの投入を順次行った結果、既存店客単価は上昇し続けている。また、近年において1000〜1500円の高価格定食を投入したため、「大戸屋は高い」という印象が広まった感は否めない。

■セールスポイント「店内調理」がコストを増やす

価格引き上げの要因は、売りの店内調理だ。大戸屋では生野菜にカット野菜を使わず、店で洗って皮をむいて仕込んでいる。魚や肉も、店内で炭火で焼いている。かつお節も店で削っているし、豆腐まで作っている。当然手間と時間がかかり、コスト増の要因となっているのだ。そのコストをカバーするために価格を引き上げざるを得なくなっている。

たとえば1月29日から3月末まで店舗限定で販売する『大戸屋のうな重』は、「契約養殖場で育てたうなぎを、お店で蒸して、たれを塗り、炭火でふっくらと焼き上げました」(同社のプレスリリースより)という渾身の商品だ。価格は1851円(税込1999円)。大戸屋の常連客は、この価格をどう受け止めるだろうか。

また、扱うメニュー数が多いことも、コスト増の要因になっていると考えられる。定番の定食メニューだけで43種類もあるのだ。すべての調理を従業員に習得させるためには、相当の手間とコストがかかるだろう。外食産業全体に人手不足が深刻化するなか、そういった負担が重くのしかかり、“儲ける力”を削いでいる。

さらに、16年に巻き起こった“お家騒動”も影を落としている。久実氏に対する功労金の支払いや息子・智仁氏の処遇をめぐり、創業家と経営陣が対立。久実氏の妻・三枝子氏が遺骨を持って社長室に乗り込んだことが報じられるなど、世間の注目を集めるには十分過ぎるほどの内紛劇だった。結局、功労金を支払うことにはなったが、未解決の点も残っており、完全決着には至っていない。

お家騒動が露見する前までの売上高は右肩上がりで上昇していたが、騒動が尾を引く17年3月期の売上高は減収となってしまった。消費者のイメージダウンに、少なからず影響したと考えられる。

また、従業員の士気を下げる要因にもなっただろう。それにより、提供する料理の味の低下につながっていないとも限らない。人手を多く必要とする店内調理だからこそ、その振れ幅は大きいといえる。

■タブレット端末設置でコスト減をはかる

このように、足を引っ張っているのは売りの店内調理だと考えられるが、いまさら最大のセールスポイントをやめるわけにはいかない。店内調理をやめれば、「大戸屋らしさ」はなくなってしまう。店内調理は継続して磨きをかけ、そのほかの部分でコストを抑えて利益の確保と成長を図りたいところだ。

それを体現する店舗として、大戸屋は「新丸の内センタービル店」(東京都千代田区)を17年6月にリニューアルオープンしている。国内店舗では初となるオープンキッチンを採用し、手作業で調理している様子を客席から見えるようにした。手作り感をよりリアルに感じてもらう狙いがある。

その一方で、コスト削減につながる施策も行っている。同店では客席にタブレット型のオーダー端末を設置し、店員を介さずに注文できるようにした。また、セルフレジを導入し、同様に店員を介すことなく会計ができるようにしている。これにより、混雑を緩和できるほか、人員の削減にもつなげられるだろう。

大戸屋はこういった施策を推し進め、早急にコスト削減を図る必要がある。今後も食材費や人件費は上昇していくことが考えられるが、そうなった場合、価格の引き上げで対応するのは危険だ。深刻なレベルで客離れが起きかねない。大戸屋は今、より一層の企業努力が求められているといえる。

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佐藤 昌司(さとう・まさし)
店舗経営コンサルタント
立教大学社会学部卒業。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。店舗型ビジネスの専門家として、集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供している。

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(店舗経営コンサルタント 佐藤 昌司)