ファミリーマートの店頭で接客を行う澤田貴司社長

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総合商社、カジュアル衣料、コンビニ。ファミリーマートの澤田貴司社長は、異業種を渡り歩きながら、いつでもすぐに成果を出してきた。なぜそこまで早く対応できるのか。澤田氏に「超効率的な学び方」の秘密を聞いた――。

※本稿は、「プレジデント」(2017年10月2日号)の掲載記事を再編集したものです。

■複数の社員と「LINE」で気軽にやりとりする

気になることやわからないことに出くわしたとき、手っ取り早いのはそのジャンルに詳しそうな人や興味を持って調べてくれそうな人から情報をもらうことだ。

私の最も身近なところにいて、なんでも教えてくれる存在といえば社員。ふだんからLINEで頻繁にやり取りしているので、「これが気になるんだけど、教えて」と気軽に相談できる。すると複数の社員がさまざまな目線から的確に答えてくれる。

情報はビジネスにとって極めて重要だ。だが、自分自身が壁をつくったり、ハードルを高くすると、入ってくるはずの情報も入ってこなくなる。その点、LINEでのやり取りは気軽で最適だ。

先日の会議ではこんなことがあった。育児中の女性社員が「ファミマのお惣菜類は、まだ改良の余地があると思う」と言う。理由を聞くと「ファミリーマートは日持ちのする適量の商品が少なく、在庫切れの場合も多い」のだとか。子育て中の人にとって、買い物でお店を何軒も回る時間はない。また調理を手早く済ませられる商品を、家にストックしておければいかに助かるか、改めて勉強させられた。すぐに、調査・改善に着手した。

社内だけでなく、社外の専門家に聞くのもいい。私は気になるテーマがあれば、その道のプロにどんどん会いに行き教えを請うようにしている。理解度が深まり、新たな発想も具体化していくのだ。

■3週間、レジ打ちや接客を続けた理由

伊藤忠時代、伊藤雅俊さん(イトーヨーカ堂名誉会長)や鈴木敏文さん(セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問)とアメリカ出張に同行する機会が何度かあった。アメリカのセブン−イレブンを日本のセブン−イレブンが買収して再生するプロジェクトに参画していたからだ。

伊藤さんも鈴木さんもアメリカへ行くたびに、とにかく店から店へと足を運ぶ。実際に商品に触れたり、食べたり、店長の話を聞いたり。これだけ成功している企業のトップが自ら足を運ぶことに大きな衝撃を受けた。

その後出会った、モスバーガーの創業者・櫻田慧さん、日本マクドナルドの創業者・藤田田さん、スターバックス会長・ハワード・シュルツさんらもみんな、現場に足を運び、現場を理解したうえで仕事をしていく人たちだった。「自分もそうなりたい」と強く思ったのを覚えている。

■すべての答えは「現場」にしかない

ところがファーストリテイリングでの副社長時代、フリースのキャンペーンをしていたときに、そのことを怠り、柳井正社長に怒られた。「澤田、どうして爆発的に売れている店舗があるのに、こっちの店舗では全然売れていないんだ。おまえは現場へ行ったのか?」と聞かれたのに対し、とてもすぐに行ける場所ではなかったので「行ってません」と答えた。すると「バカヤロー!」という言葉とともに、「だったら店舗の様子を撮影してもらって、すぐにメールで送ってもらえ。残っている商品のサイズも教えてもらうんだ」とアドバイスをくれたのだ。

すると、売れている店では50色のフリースがきれいに並んでいて、サイズもバランスよくそろっている。売れていない店は色数もサイズもそろわず暗い色の商品ばかりが残っている。「自分は、こんな事実がわかっていなかったんだ」と猛省した。

経営資料を見ていると、なぜ商品の回転率が悪いのか、利益率が低いのか、売れているのに在庫が少ないのかなど、次々と「なぜ?」という疑問が浮かび上がる。それに対する仮説を立てて、一つ一つ確認をしに店舗や工場などの現場へ行くのが、いまの基本スタイルだ。

ファミリーマートでは3週間の店舗研修も受けた。何度やってもできないオペレーションが大量にある。マニュアルも膨大。知らなかったら業務改善できずにいただろう。

■お宝情報をキャッチするには、頭の中に“軸”が必要

新聞やネットの情報などは、浴びるように読んでいる。だが、すべて斜め読みなので、なんらかの意識や意図がなければ目の前を通り過ぎるだけだ。その中から自分にとってのお宝情報をキャッチするには、頭の中に“軸”が必要だ。

たとえば1年後、3年後、10年後のファミリーマートの姿を徹底的に考えてみる。組織をどうするか、ダイバーシティを重視すべきか、高齢化社会でコンビニが果たす役割は何かなどといった具合に大きなテーマが次々と浮かぶ。そうして延々と考えていると、互いに関係ないように思えていたものごとが、やがて収斂していく。それが“軸”となり、目の前を通り過ぎるはずの情報をキャッチできるようになるのだ。

本はどうか。仕事のノウハウやハウツーは、実践でしか得られない。だが、倫理観や人間の哲学を学ぶうえで、経営者に関する本や偉人の伝記は有益だ。松下幸之助さんの本は大好きだし、本田宗一郎さん、柳井正さん、デール・カーネギーさんなどに関する数多くの本に接してきた。

人間として、仕事人として、悩む時期は必ずある。そんなときに偉大な経営者の本から学ぶことは数多い。私は自己中心的な人間なので、本当に自分が幸せになりたいと考えている。「そのためにはまず、他人を幸せにできなくてはいけない」――そんなことも本が教えてくれた。

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澤田貴司(さわだ・たかし)
ファミリーマート社長。
1957年生まれ。上智大学理工学部卒業後、81年伊藤忠商事入社。97年ファーストリテイリング入社、98年副社長。2003年投資ファンド「キアコン」設立。05年企業支援会社「リヴァンプ」設立。16年9月より現職。
 

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ファミリーマート社長 澤田 貴司 構成=小澤啓司 撮影=的野弘路)