フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第4戦NHK杯、女子はショートプログラム(SP)、フリーでともに1位となったエフゲニア・メドベデワ(ロシア)が大会初優勝を果たし、GP通算7勝目(ファイナルを含む)を挙げた。


NHK杯でもSP、フリーともに他を圧倒する演技で優勝したエフゲニア・メドベデワ

 フリー冒頭の連続ジャンプの1本目で珍しく転倒する失敗をしたが、無表情を装って動じなかった。その後の世界女王はさすがの強さを発揮。プログラム後半でしっかりとリカバリーしてみせ、ミスジャンプを2つにとどめたことで、得点はフリー1位の144.40点を出し、合計224.39点となって他を圧倒した。

 また、SP2位でソチ五輪銅メダルのカロリーナ・コストナー(イタリア)はフリーでは3位だったが、合計212.24点で総合2位となった。この結果、メドベデワは3季連続で、コストナーは6年ぶり5度目となるGPファイナル進出を決めた。総合3位にはシニア初参戦となったロシアの新鋭ポリーナ・ツルスカヤが入った。

 GP第1戦のロシア杯に続き、NHK杯でも若き世界女王・メドベデワがジャンプで転倒した。ロシア杯ではSPで2回転アクセルを転倒、NHK杯ではフリー冒頭の3回転フリップで派手に転んで連続ジャンプにできず、続く3回転ルッツではステップアウトするなど、失敗を重ねる珍しい場面が見られた。

 SP では心配された2回転アクセルをしっかりと成功させたが、本人は「自分に対してもう少し高く跳ぼうよと言っていました」と吐露。演技についても「それほど悪くはなく満足しているが、もっといい演技ができると思っています。ダブルアクセルは改善の余地があるかな」と、反省を口にした。

 盤石かと思われたフリーに臨んだ彼女の両足には、足首からふくらはぎにかけてテーピングが施されていた。ケガの予防か、何か痛みがあるのか、試合後にそのテーピングについて指摘されると、「なぜそんな質問をするの」と言わんばかりの口調で「私は問題とは思っていない。足のせいではないし、十分に体調は整っています」と、ジャンプの失敗には無関係だと強調した。

 平昌五輪の優勝候補としてシニア3年目を戦う今季のメドベデワの言動には、少々違和感を覚えることがある。トップをひた走る17歳が、どこかナーバスになっている印象があるのだ。女性特有の身体的変化が始まったのか、フィジカル的なケアがこれまで以上に必要になってきたのか、はたまた過度な期待への予防線なのか。

 繊細なコントロールが必要なジャンプは、わずかな体重増による身体的なバランス感覚や精神面の変化などで狂いが生じるエレメンツだけに、今季のGP2戦で見せたジャンプの失敗は、何らかの身体的変化が原因かもしれない。明らかにジャンプ軸がゆがんでいたことからの転倒だったので、微妙なズレが生じて、よりコントロールするのが難しくなっていたのではないだろうか。

「どうしてフリー冒頭のジャンプを失敗したのか」と質問されると、核心を外して、自分の言いたいことをこう語っている。

「私の目標は常にベストを尽くすことで、結果だけではないと思っています。一番大切にしているのは自分の魂のために滑ることです。プログラムが終わった瞬間に、自分が満たされているか。自分がベストを尽くして、いまここで出せる力を全部出し切って、氷を下りたときにいい演技だったから、すごくいい気持ちになれるかどうかが大事だと思います。ですから、いかにクリーンなプログラムをこなすことが大事かと、常日頃から思っています。

 もっともっとできるんだとみなさんが思ってくれるんだと思うんですね。クリーンなプログラムができてこそ、お客さんはひとつひとつのエレメンツがどうだとかではなく、自分のプログラム全体のイメージに身を委ねてプログラムに没頭してくださいます。自分がミスを犯して関心がミスのほうにいき、『なんであれを間違えたのかしら?』『エレメンツを落としたのかしら?』と考えられてしまうと、私が伝えたいプログラムのイメージにとってはよくないと思っています」

 そんなメデベデワは五輪について、なぜか頑なに「オリンピックのことについては何も話したくない」と、口をつぐんでいる。ジャパンオープンの記者会見でもNHK杯の記者会見でも、平昌五輪については質問を受け付けなかった。これまでの無邪気な少女から、今季はどこか、”孤高の人”になりつつある印象だ。

 一方、日本勢では、左股関節の疲労骨折から約11カ月ぶりに復帰した宮原知子が、及第点の演技を見せて合計191.80点の総合5位に食い込み、日本人最上位となった。GP初戦のスケートカナダで総合6位と振るわなかった本郷理華は、GP2戦目では合計187.83点を出してスケートカナダの得点を上回ったものの、順位では前回よりひとつ下げて総合7位に終わった。また、シニアデビューの白岩優奈は得意のジャンプの出来がいまひとつでSP、フリーともに8位となり、合計171.94点の総合8位となった。日本女子が同大会で表彰台を逃すのは、2000年以来17年ぶりのことだ。

 GP2戦とも表彰台争いに加われず、自己ベストより10点以上も低い点数で終わった本郷は「ジャンプの失敗はありましたが、前回よりもいい点が取れたことはよかったです。逆にいい演技をしていれば、もっと点が取れると思ったので悔しいです。反省点と課題が見つかったので、次の大会までにしっかり直して、次こそは課題を持ち帰らないようにしたい。もっとできることはたくさんあるし、もっともっといい点を取らないと代表争いではダメ」と、自分の立ち位置をしっかりと見つめていた。

 ほろ苦いシニアGPデビュー戦となった白岩は、「フリーはプログラム前半はよかったけど、後半のジャンプで気持ちが焦ってしまった。練習で100パーセントできていても、試合でできないと意味がないなと思ったので、次戦までいろいろ研究して試合に臨み、課題を克服していきたいです」と、フランス杯に向けて意気込みを語った。

 全競技が終わった12日、日本スケート連盟の小林芳子強化部長は、NHK杯の日本女子の結果をこう総括した。

「表彰台に乗れなかったことを、私もしっかり受け止めたいです。平昌五輪の2枠を誰が取るかということではなく、とにかく日本選手全員で強い国に向かっていくようにしなければ、対抗できないレベルになっていると思います。とにかく日本女子が競争し合って、オリンピックで表彰台に乗れるようにしてほしいです。

 そんな中でうれしいのは宮原選手のことです。去年の全日本選手権からまったく競技に参加していませんけれど、今大会期間中の練習を重ねるごとに、日に日にジャンプの勢いが戻ってきていました。ただ、やはり実戦から長期間離れていたので、これから追い込んでスケートアメリカ、全日本に突入してほしいと思います」

 五輪代表レースは樋口新葉、本田真凜、三原舞依の3人が有力候補と予想されていたが、これで故障明けの宮原が侮れない存在であることがわかった。日本女子の代表争いはますます混戦模様になってきた。

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