米空軍が2020年を目標に、レーザー兵器の実用化を目指すことを明らかにしました。未解決の課題はまだあるそうですが、具体的な目途が示されたのは初めてのことであり、いよいよ現実のものとなりそうです。

まずは「ゴーストライダー」と「スティンガーII」から

 アメリカ空軍特殊作戦コマンド司令のマーシャル・ブラッド・ウェッブ中将は2017年9月、予定通りならば2018年にもAC-130J「ゴーストライダー」および同型のAC-130W「スティンガーII」ガンシップ機に対して指向性エネルギー兵器(レーザー)の搭載試験を行い、2020年には「レーザーガンシップ」の実用化を目指す方針であることを明らかにしました。AC-130Jのレーザーガンシップ化はかねてより計画されていましたが、具体的な目途が示されたのは初めてとなります。


レーザーガンシップ化が計画されているAC-130J「ゴーストライダー」(画像:アメリカ空軍)。

 AC-130Jはロッキード・マーチンC-130J「スーパーハーキュリーズ」輸送機に対して105mm榴弾砲および30mm機関砲などの重武装を施した「ガンシップ(空飛ぶ砲台)」であり、すべての兵装は左舷側に搭載され左旋回しつつ継続して砲弾を浴びせ続けることを目的とします。同機は間もなくアメリカ空軍において実用化され初期作戦能力を得る見込みとなっています。

 赤外線レーザーはAC-130Jにおける次世代の搭載兵装となりますが、現時点においては赤外線レーザーの有効性に対する懐疑的な意見が根強く存在し、ゆえに予算分配の優先順位はそれほど高くないのが実情です。

 ウェッブ中将はレーザービームの制御、現時点ではそれほど高くない出力、そして大気の減衰や分厚い雲によって無効化されてしまうといった各問題について「挑戦する価値のある技術」と認めつつも、それらを前向きに解決し有効性を実証・調査するためには搭載試験が必要であると、その意気込みを述べました。

レーザー兵器の理想と現実

 開発のロードマップとしては、当初はAC-130Wの30mm機関砲を撤去、そして120キロワット固体赤外線レーザーへ置き換えることによって試験が行われる見込みです。将来的には180〜200キロワットに出力をあげた新型をAC-130Jに搭載し、これを「レーザーガンシップ」化することを目指します(編集部注:レーザーにも種類があり、「固体レーザー」とは、かんたんに言えば固体物質を材料にしたレーザーのことを指します)。

 赤外線レーザーは、『機動戦士ガンダム』などSF作品によって想起されるような「命中即爆発」とはならず、ターゲットへ継続してこれを照射し、過熱し焼き切ることで損傷を与えます。固体赤外線レーザーは1発あたりのコストがほぼ「ただ」であることや、光速度で伝播するため回避不可能というメリットがあります。

 しかしながら現状は実弾兵器に比べてまだまだ射程も威力も小さいのが実情です。そのため100キロワット級の赤外線レーザーの標的となりうる対象は、まず生身の人間、そして自動車、無人機や航空機、ボートなどの熱に弱い部分に限られ、装甲をもった戦車などには有効とはいえませんが、赤外線誘導ミサイルの先端に取り付けられた敏感なシーカー(赤外線センサー)を妨害・焼き切る目的ではすでに実用化されているため、相手の赤外線センサーを潰して能力を削減することはそれほど難しくないでしょう。

かつては「ジャンボジェット」も

 また、開発中止となってしまいましたが、「ジャンボジェット」に大型の赤外線化学レーザーを搭載したAL-1は実用化寸前にまで達しています。AL-1の赤外線化学レーザーはAC-130のそれと比べて10倍以上のメガワットクラスの出力を誇り、その射程は数百kmに達し、計画では主に上昇加速(ブースト)段階の弾道ミサイルに対する用途で運用されるはずでした。もしAL-1が実用化されていたならば、昨今の北朝鮮によるミサイル開発に呼応し、在日米軍基地に常駐していたかもしれません。

 近年、レーザーや高出力マイクロ波といった光速度兵器(ライトスピードウェポン)の開発が世界中で加速しており、いよいよ実用化が目前となりつつあります。また垂直離着陸型F-35B「ライトニングII」のリフトファンを撤去し、100〜200キロワット級の固体赤外線レーザーを搭載する計画案も存在します。

 AC-130J「レーザーガンシップ」は試験の推移と予算の獲得が順調であれば、史上初のレーザー搭載実用航空機となるかもしれません。

【写真】「スティンガーII」と「ゴーストライダー」の違いは「りゅう弾砲」


AC-130W「スティンガーII」はAC-130J「ゴーストライダー」と同型だが、105mmりゅう弾砲を搭載するのは「ゴーストライダー」のみ(画像:アメリカ空軍)。