スバルの運転支援技術「アイサイト」の最新版は、首都高でどれほどの性能を発揮するのでしょうか。これを搭載した最新の「レヴォーグ」を試乗しその実力を確認しました。

「アイサイト・ツーリングアシスト」搭載「レヴォーグ」でいざ首都高へ

 スバルが推進する安全技術「アイサイト」。その最も進化した制御である「アイサイト・ツーリングアシスト」の試乗会が2017年9月上旬、開催されました。しかもそのステージとなったのは、東京の交通血脈といえる首都高速。東京タワーのふもとである「芝公園」から湾岸線へ抜け幕張方面へと向かい、再び芝公園へ戻ってくるという推奨ルートでこれを試すことができました。


2017年8月7日のマイナーチェンジにて「アイサイト・ツーリングアシスト」を全車に導入した「レヴォーグ」(画像:スバル)。

 通常、私たちモータージャーナリストが車両の特性を確かめる場合、そのほとんどが交通量の少ない道や、ときにはサーキットといったクローズドエリアで試乗を行います。それがよりによって最も混雑が予想されるお昼時の首都高速で行われた理由は、もうおわかりだと思いますが「アイサイト・バージョン3」から進化した「ツーリングアシスト」の技術を確認するためです。

 ちなみに筆者(山田弘樹:モータージャーナリスト)はくじ運が良く、当日の試乗車は人気車種「レヴォーグ」の、最もベーシックなモデル「レヴォーグ 1.6GT EyeSight」(282万9600円、税込)となりました。

 なぜこれの「くじ運が良い」のかといえば、それはまず、こうした運転支援技術の善し悪しというものが、土台の良さなくしては成り立たないからです。いくら制御技術が細かく発達しても、ベースとなるクルマの動きが悪ければ、快適には走れません。

 そしてこれを確かめるには、タイヤサイズも小さく(17インチ)、足回りのパーツなどが最もシンプルなベーシックグレードが、一番良いと筆者は考えていました。

「リアルワールド」ではどのように機能する?

 また、「アイサイト」のような運転支援技術は他社になると、もうひとつ「コスト」という要件が加わります。安全をうたいながらもまだ豪華装備的な側面もあるACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール機能)は、カスタマーの予算次第で選ばれないこともあります。

 そうした際に、最もベーシックなモデルを選ぶことで快適装備を省きながらも、こうした安全装備を充実させる方がよいのか、という迷いは、消費者ならばこれから増えていく選択だと思われます。しかしスバルは、この「アイサイト」を、今回試乗車として選んだ「レヴォーグ」と「WRX S4」で全車標準とし、他車種でもこれを拡大しています。


「アイサイト・ツーリングアシスト」の、公道での様子。




 さて本題に戻すと、このスバル「レヴォーグ1.6GT」と「アイサイト・ツーリングアシスト」の組み合わせは非常に興味深いものでした。芝公園から湾岸線へ流れるC1環状は思いのほか交通が流れており、ここを法定速度(50km/h)で自律運転的に走らせるのは非常に難しいのです。

 筆者は以前テストコースで「アイサイト」の前車追従機能と操舵制御を試した経験があり、かなり深いR(回転半径)のコーナーまで操舵が追従することを確認していますが、いざスバルのいう「リアルワールド」に乗り込むと、そのアシスト機能が途中で切れることもしばしばでした(このときアラームが鳴り制御がオフとなります)。

 また湾岸線へ合流する中速カーブや、台場からの長く緩やかな下りカーブでのライントレース性もまだ甘め。もう少し早い段階からゆっくりとハンドルを切り始めた方が、カーブで軌跡が膨らまないのにな…と感じました。

 ただしこれは、スバルの意図的な制御だと考えます。

ブレーキ制御は上々、まるで上手なドライバー

 というのも、この「アイサイト・ツーリングアシスト」は、文字通りドライバーへのアシスト機能なのです。欧州車はこの点で自動運転の未来を積極的に見据えているのか、カーブでのハンドル操作を積極的に行う傾向があります。ただその積極性は、ときに正しい走行ラインやハンドルおよびアクセル操作、つまりドライビングを“おしぎせ”する場合もあります。

 そもそもレベル3以上の「自律運転」がまだ一般化していない現状で、首都高速のような曲がりくねったカーブはドライバー自身の手で運転するべきです。そしてその操作が疎かになった際に、修正を促してくるのはもっともなことだと思います。

 カーブ中での所作でひとつ気になることがあるとすれば、制御がアクティブになっているときと、自分で走っているときの電動パワステの操舵力が異なる部分。個人的には制御が入っているときの高い抵抗感の方が、軽快感は薄れるものの安心感が高いと感じました。


カーブにおける前車追従走行の様子。




「アイサイト・ツーリングアシスト」が真価を発揮したのは、高速巡航と渋滞でした。

 法定速度80キロ下の、ほどよく混み合った状況にて制御をアクティブにすると、まず快適に感じられたのはそのブレーキ操作でした。ステレオカメラで認識した前車との車両間隔に対して、アイサイトはまるで上手なドライバーが運転しているかのように、低い制動Gを起こして事前に車間距離を調節しました。これは前車が減速したことをいち早く察知し、プレブレーキをかけているからできる減速です。

 また渋滞で完全に止まるような場面でも、しっかりとしたブレーキをかけたあと、その制動Gを緩やかに抜いていきます。

「アイサイト」はCVT車でさらに真価を発揮か

 完全停止から3秒以内であれば自動で発進も行います。加速の仕方もブレーキ同様に穏やかかつ緩慢すぎないもので、開発陣によるとこれはテストドライバーと共にキャリブレーションを取ったものとのことでした。さらに今後はそのステアリングにも、人の感覚に優しい制御を組み込んでいきたいと話をしていました。

 正直、高速巡航時における前車との車間距離の取り方は、その制御を一番短いものにしても、リアルワールドでは「隙あらば割り込まれる距離感」でした。しかしこれは安全確保に大きく関わる問題で、速度域が高い欧州車ではコンサバに距離を取っています。逆に言うと追い越し以外を走行車線で走ればその距離感は適切であり、スピード調節やハンドルアシスト制御が非常に快適でした。


追従する前車との間隔は、ともすると割り込んでくるクルマもいるかもしれない程度に空けられている(画像:スバル)。

 また「レヴォーグ」との相性としては、ハーフスロットルが主流となる日本の交通事情において、常に最適な出力領域で走ろうとするCVT(無段変速機)と「アイサイト・ツーリングアシスト」の親和性は高いと感じました。つまり、穏やかかつ快適に走れます。

改善の余地あるも買い時はいま?

 慢性的に混み合う高速道路で、法定速度を遵守して粛々と走るのはストレスがたまるもの。前車との車間を微妙にツマ先で取らなくてはならない通常運航に対して、主にブレーキに注意しながら設定速度で走れるACCは、日本では特に今後の主流制御となっていくでしょう。

 運転支援技術としては、「アイサイト」は非常に優秀です。それでも「リアルワールド」では、まだまだ改善の余地はあります。

 そしてこれらはナビとの連携やインフラと大きく関わることなので、スバルの開発陣も「我々一社ではなく、各社が日本のシステムとして協力し合いながら構築して行ければ」と語っていました。


全車「アイサイト・ツーリングアシスト」を装備した最新の「レヴォーグ」、価格は282万9600円(税込)より(画像:スバル)。

 さてこうしたシステムを手に入れる上で、消費者的に悩むのはその「買い時」でしょう。

 これについては自分も明確な答えを持っていませんが、いきなり全てが自動化する前、まだドライバーの操作が大きく主軸をしめる現状で、これを経験しておくのが一番なのではないかと思いました。そうすることで仮に遠くない将来、クルマの運転が自動化された状況でも、これに正しい倫理観を持って対応できると思うからです。