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 これまで1万人以上を面談した産業医の武神健之です。これまで、産業医として10年間の経験から、メンタル不調者が出ない組織の上長が共通して持っているさまざまな技術について書かせていただきました。

 今回と次回は、メンタル不調者が続出する組織の上長にありがちな勘違いについて書かせていただきます。今回は代表的な勘違いである怒り方や怒るときなどの「怒る技術」についてご紹介させていただきます。

 まずは、怒る技術について。

 これまで1万人以上の働く人と面談した産業医の結論として、メンタル不調者が続出しない組織の上長は怒るということをほとんどしません。反対に、メンタル不調者が続出する組織の上長は、よく怒ります。そして、周囲を萎縮させてしまっているか、たまにしか怒りませんが、そのときに容赦なく相手を打ち砕き、メンタルヘルス不調にさせる傾向があると感じています。

 その理由は、そもそもハラスメント研修などで怒るテクニックを学んでも、結局はその根底にあるマインド(心構え)を学ばなければ、職場のハラスメントをはじめとする人間関係ストレスはなくならないからです。コミュニケーション論によくある「怒り方」の技術を学んでも、問題は解決しないことは多々あります。これは結局は表面的なテクニックの問題ではないということです。

 そもそも、正しい“怒る”マインド(心構え)を学べば、職場においては怒ることはほとんどなくなります。

◆怒り方を学んだ上司ほどメンタル不調者を続出している

「自分の価値観と相手の価値観が異なったとき、それが譲れないとき、それは怒るべきときだから怒っていい」と考えている管理職が、メンタルヘルス不調者の上長であったというパターンを私は産業医として何度も経験しています。

 実際に部下がメンタルヘルス不調による休職に入った後に、この上長たちと話してみると、「部下が間違えた」、「部下はこうあるべきだった」と丁寧に説明してくれることがあります。決して瞬間湯沸かし器的にとか、感情に任せて怒ったのではないことが伝わってくる方も多数います。

 しかし、どのように冷静に起こったとしても、価値観の相違を理由として怒ることは、どちらかが本当に正しいのかは、誰にもわからない場合も多々あります。その理由は、その時々の怒る根拠はあくまでも上長の価値観と部下の価値観の相違であり、概して、当事者はみんな自分の価値観に沿ってやっているだけなのですから、自分が正しいと考えているからです。部下は、”部下”だから”上司”に従うだけで、本当に納得していると思っているのは上司当事者だけであることがほとんどです。

 一方、リーダーシップのある上長、メンタルヘルス不調者を出さない上長、ハラスメント被害者を出さない上長は、滅多なことで部下を怒ったりしません。しかし、部下を「叱る」ことはあります。

 ここではまず「怒る」と「叱る」の違いを知り、どのようなときに怒っていいのかを押さえましょう。

◆「怒る」は自分本位、「叱る」には相手がいる

 まず「怒る」ですが、これは他人にもできますが、自分一人もできます。

 あなたは自分で自分を怒ることができるでしょう。大声を出したり、声を荒々しくしたり、そういう「怒る」は自分自身に対してはする分には誰も文句は言いません。また、「怒る」という感情の表現方法として、泣く、叫ぶなども自分に向けている場合は問題ありません。

 しかし「叱る」には、必ず相手が必要です。

 相手を必要とする行為である「叱る」には、その分、他人に対する責任をしっかりと認識しておこなう必要があります。

 何が言いたいかというと、「叱る」ときには、「怒る」ときよりもしっかり考えておこないましょうというある意味、当たり前のことです。