金正恩氏

北朝鮮が繰り返している核実験、ミサイル発射実験により、朝鮮半島情勢は緊張状態が続いている。

そのような中、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞が12日付で、軍への「入隊嘆願集会」に3日間で計347万5000人が参加したと報じたことは、すでに本欄でも言及した。

「こんな国、なくても」と庶民

北朝鮮の総人口は2500万人、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵力は120万人と言われていることを考えると、この数字がいかに非現実的なものかわかるが、この手の集会はもちろん、北朝鮮国民が自発的に行っているものではない。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、「あんなものは、中央の指示で無理矢理やらされているに過ぎない」と述べている。

朝鮮人民軍の軍紀びん乱は全国民に知れ渡っており、若者たちにとっては何があっても行きたくない所なのだ。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

情報筋によると、北朝鮮の国務委員会は、入隊嘆願集会を開催せよとの緊急命令書を各地方の党委員会、民防衛部に出した。そこには、参加対象者、集会の流れ、会場に掲げるスローガンの内容などが事細かく記されているという。

咸鏡北道の党委員会はこの命令書に従い、清津(チョンジン)市内の広場で嘆願大会を開催した。各機関、企業所は集会のために、30代以下の従業員を総動員した。ちなみに、大会で青年代表が読み上げた嘆願文は、中央から送られてきたドラフト(下書き)をコピペしたものだという。

そしてより気になるのが、次のような情報である。

本来、入隊の対象となるのは義務教育を終えた満17歳以上の男女なのだが、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、当局はドサクサに紛れて対象を15歳の中学生にまで拡大し、強制的に入隊嘆願書を取り付けているという。

情報筋はその背景について、金正恩政権になってから軍の食糧不足が深刻化し、兵士の脱走や栄養失調が増加していることを挙げた。兵役に取られた人々の悲惨な現実を知った若者たちは、ありとあらゆる手段を使って兵役を逃れようとしている。ただでさえ、少子高齢化の影響で足りなくなりつつある兵力が、さらに不足する悪循環に陥っているわけだ。

では、嘆願書を書かされた中学生は、実際に入隊させられてしまうのか。これについては、北朝鮮国内の反応は分かれている。

「いくら金正恩党委員長が無鉄砲でも、自分が打ち出した義務教育制度を壊してまで子どもを軍隊に入れることはないだろう」との見方がある一方で、「金正恩がそんなことを気にしたことがあるか」と反論する声もある。いずれにせよ、本当に15歳の中学生を入隊させたら、国内から激しい反発の声が上がるだろうと情報筋は見ている。

ちなみに、2015年8月には100万人、2016年2月には150万人が入隊を嘆願する行事に参加しているが、朝鮮人民軍の兵力が急に膨れ上がったとの情報はない。そんな大人数を受け入れられるほどの余裕は、今の朝鮮人民軍にはないのだ。

こんな無駄な集会に参加させられた人々からは、当然のことながら不満の声が上がっている。

両江道(リャンガンド)の別の情報筋、RFAに語ったところによると、参加者からは「今はコンピュータのキーを押せばミサイルが発射される時代なのに、人をかき集めて入隊させたところで何になるのか」などの愚痴が出ている。

また、一般住民の反応を見ると、「戦争が起こるのではないか」と不安がる人は少数で、多くの人は「もし戦争が起きたとしても、国民の暮らしに何の関心も示さないこんな国がなくなったところで、大したことではない」と冷めた反応を示している。