拠点としているトロントで練習を公開した羽生結弦

 8月8日にカナダ・トロントのクリケットクラブで、羽生結弦平昌五輪シーズンへ向けた公開練習が行なわれた。午後2時半からの最初の練習で、羽生はウインドブレイカーを着たままでリンクに上がると、いきなり軸がきれいな4回転トーループを何気ない雰囲気から跳び、成功した。

「今年もフィジカル面では特に特別なことはしていないですけど、通しの練習や質のいい練習を何回もやっています。ケガが一番の敵なので、とにかく質のいい練習をして、質のいいケアをして……。質のいいジャンプを跳び続けていれば必然的にケガも少なくなってくると思うので、そういう意味でもかなり気をつけて練習をしています」

 羽生自身がこう話すように、この日最初の1時間の練習と午後5時からの1時間の練習を見ていても、転倒やパンクはあったとはいえ、回転軸が曲がっていたり、ズレているジャンプはなかった。それも”質のいいジャンプを跳ぶ”という意識の表れだろう。その意味でも順調に、充実した練習をしていることをうかがわせた。

 羽生は、すでにアイスショーで披露していた新シーズンのショートプログラム(SP)を、ソチ五輪後の2シーズン使ったショパンの『バラード第一番ト短調』だと明らかにしている。それに続き、今回の公開練習で、フリープログラムは2シーズン前に使って歴代世界最高得点を出した『SEIMEI』であることを正式に発表した。

「ショートのバラードに関しては、少し迷いがあったかもしれないですけど、『SEIMEI』 に関しては2015-16年シーズンにやっていい演技ができた時から、このプログラムを五輪シーズンに使おうと決めていたので、迷いはなかったです。だからこそ、昨シーズンは曲を何にしようかと迷いました。和風でいきたいなと思っていましたが、和風にし過ぎると前のシーズンにかぶってしまうかなと思ったりもしました。その意味では『SEIMEI』を、今シーズンへ向けて温めておいたという感じです」

 前にやったプログラムということで、周囲からは「またか」と思われるかもしれないし、完璧にやることができた以前の演技にとらわれてしまうというリスクはもちろんある。だが羽生は、その点も「技術構成が違うから問題ない」と考えている。

「今のイメージは、最初、4回転ループと4回転サルコウを跳んで、そのあとに3回転フリップとスピン、ステップ、後半の1発目に4回転サルコウ+3回転トーループ。そのあとに4回転トーループ+1回転ループ+3回転サルコウをやって、4回転トーループ。その後はトリプルアクセルの連続ジャンプをやり、最後は普通の構成であれば3回転ルッツです。でも、リカバリーを考えて練習ではトリプルアクセルを2本やっています。どんな状況でも対応できるように、後半の構成は常に高いレベルでやるようにしています」

 こう話す羽生は、今回の練習でトリプルアクセルのセカンドに2回転トーループではなく2回転ループをつけることもあった。またジャンプだけではなく、止まった状態から動き出す後半の入りの部分は、トレイシー・ウィルソンコーチの滑りを参考にして何度も細かな動きを繰り返すなど、細部まで気をつかった練習を続けていた。

「4回転ルッツも跳べますし、練習でもそこそこやっていますけど、今はそれを入れようとは考えていないですね。今のこの構成でしっかりきれいにまとめること。とはいっても後半に4回転を3本入れているから去年より確実に構成は上がっています。その意味でも、まずはひとつの『SEIMEI』をしっかり完成させたいなと思っています」

 SPのバラードもSEIMEIも、それを選ぶ大きな要因になったのは「やっぱり自分に合っているな」と思ったことが一番だという。自分が滑っていて無理をすることなくその曲に溶け込めているような感覚があるので、それが最大の決め手だと話す。

「新しい曲を選んでも『ああやって、こうやって』となると、毎年毎年けっこう難しいものがあるんです。でもこのシーズンはそういうことをやっている時間はないと思って……。新しいものをやって、最初のうちは『初々しいね。これから滑り込んでいけば良くなるね』というものではなく、五輪シーズンだからこそ最初から『このプログラムは素晴らしい』と思わせるものにしなくてはいけないと思うんです。

 その意味では、自分がこの曲をどう演じられるか、どういう風に感じているのかというのをより深められるようになっていると思います。何回も何回も聴き込んでいるからこそ、どういう風にこの曲を演じようとか、どういう風にジャンプを跳ぼうとかいうことまでを含めて、練習ができています。このふたつは自分自身、呼吸のしかたなどを含めて何よりも自分でいられるプログラムなので、すごく滑っていて心地よいです。ジャンプやスピン、ステップなどのすべての要素も自分として演じられるプログラムなので、余計なことを考えずにすむと思っています」


 羽生自身、バラードもSEIMEIも、「表現のことをすごく考えるキッカケになったプログラム」と話していた。そんなプログラムをもう一度やると決めたことで、彼の平昌五輪へ向かう気持ちの高さもわかる。ジャンプもスピンもステップも、すべて一体化したフィギュアスケートとしての演技。自分が目指している”ザ・フィギュアスケート”といえる演技そのもので、再び頂点へ挑戦したいという決意だ。

「ソチ五輪の前はあれもやらなきゃいけない、これもやらなきゃいけないという感じでいっぱいいっぱいだったのかなと感じます。でも、今はこうやればいい、ああやればいいという自分の道みたいなものが、すごくハッキリしてきたんじゃないかなとも思います。もちろん、4年前も金メダルを獲りたいと思っていましたけど、今はもっといろんなものを求められるようになっている。

 今は、4回転は種類も数も求められているし、そのうえでスピンやステップもいいものをやらなければいけない。さらに、それだけではなく技と技の間の部分もたくさん練習していかなければいけない。だからこそ、この3年間でいろんなことを練習してきたし、今はその多種多様な部分をさらに磨いていかなくてはいけない。そういったいろんなものがあるからこそ、自分のスケートの理想的なものが見えてきているのかなという気がします」

 連覇がかかる平昌五輪へ向かう羽生の視界は、これまでになくクリアで鮮明だ。それはソチ後の苦しい時期があったからこそ、得られたものなのかもしれない。

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photo by Noto Sunao

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