【PHOTO】札幌が誇る美女ダンスチーム『コンサドールズ』
 
 コンサドーレの魅力をいかにして伝えるか。社長が「手っ取り早い方法」として重要視したのが、テレビの力だった。

 大手広告代理店と契約し、道内でのメディア戦略を大々的に展開。ローカル放送とはいえ、全ホームゲームを地上波で放送しているのは、すべてのJクラブを見渡してもコンサドーレだけである。
 
「視聴率はさほど高くないけど、例えば7パーセントだとして、北海道の人口が500万くらいだから、だいたい35万人が観た計算になる。それって1年間で来てくれるお客さんの数より少し多いくらい。露出によってこんな効果がありますよと、対外的に数字で見せることもできて、スポンサーセールスにも有利に働く。
 
 ひとも箱もあって、ローカルメディアも揃ってる。そうした土壌なり環境はあるんですよ。だから、もっと成長していけると思ってます」
 
 実際、営業収入の数値はぐんぐん伸びている。それでもJ1で戦い抜くための強化費は足りないと、社長は苦笑する。
 
「現場に使えるお金が数億円違うだけで、かなり結果が変わってくる。それを身に沁みて感じてます。僕が最初に来た時、選手や監督の年俸など強化に使えるお金は3億円くらいしかなかった。J3に落ちちゃう可能性がある額ですよ。それが今季は、12から13億円。だから戦えてる。でもJ1にしっかり残るには、15億円以上はないと厳しい。自分の中で、そう線引きしてます」
 
 昨季のコンサドーレのチーム運営費は約7億円で、これはJ2で7番目の額だった。ところが、倍に近い数値の清水エスパルスやセレッソ大阪を抑え、見事に優勝。社長は「もっと評価されていいスゴイこと」と語り、こう続ける。
 
「安い金額で勝たせる努力をしなければいけないけど、やはり経営者としては、しっかりそこに投資できるクラブのサイズにすることのほうが大事。J1だとレッズが25億で、FC東京やアントラーズが20億。ぜんぜん違いますよ。
 
 僕が来てから、営業収入は10億、13億、15億、19億と上がって、昨季は26億くらい。それを35億にまで持っていかないと、線引きの15億には届かない計算。大変だけど、なによりもそこを早く実現させたいですね。となれば、J1でもトップ10に入れるか入れないかくらいになれる」
 
 話をしていても、他のJクラブ社長であればモゴモゴしそうな金額面の話が、次から次へと明瞭に飛び出してくる。こうした隠し立てのないオープンなトークを、様々なシチュエーションで展開しているのだろう。だからこそ、ひともお金もアイデアも集まってくるのだ。本人は認めないだろうが、天賦の才だと感じる。
 試みは多岐に渡る。例えば、タイの英雄・チャナティップの獲得だ。もちろん純粋にチーム強化の一環として迎えた好タレントだが、そこには社長ならでは狙いがあった。単なるアジア戦略うんぬんの話ではない。
 
「アジアの選手を獲ることで、コンサの試合が向こうで放送されたり報道されますよね。それ自体にクラブとしての大きなメリットはないにしても、北海道のシティプロモーションにはきっとなる。コンサドーレってそういう価値もあるんだと、通常は関係してない業種にもアピールできるかもしれない。そうやっていろんなところに価値を広げていければ、自然とでっかくなると思う」
 
 ほかにも、今春から「バドミントン」のチームを新たに発足させ、サッカー以外の競技もクラブ内に取り込み始めた。いずれは「すべてのスポーツをやろうと思ってます」(野々村社長)と、想定するスケールは大きい。
 
 さらに最近は、供給の自由化により成長産業となっている電気事業にも共同参入した。その名も『エゾデン』。道内での地産地消を掲げ、収益を北海道のスポーツ振興に還元するなど、独自の路線でアピールを続けている。
 
 週末のJ1再開を前に、コンサドーレの順位は下から4番目の15位。ぎりぎりで降格圏を免れている。強化サイドは得点力不足を補うべく、今夏に元ジュビロ磐田のFWジェイを獲得した。加えてここからはチャナティップが本格参戦し、稲本潤一をはじめ負傷離脱者も続々復帰と、戦力に不足感はない。巻き返しに向け、上昇ムードが漂う。
 
「打てる手は打った。うまく噛み合えば面白くなると思うんですよね。まあ正直、さっきも話した強化の額だけで見るなら、うちはまだ降格圏の中にいる。なんとかチーム力で、残留を勝ち取りたい」
 
 野々村社長が描き出す「理想郷」は、きっと揺らがない。はたして北の大地に根付きつつあるサッカー文化は、いったいどんな花を咲かせるのだろうか。
 
 類稀なる斬新なトライを、これからも注視していきたい。
 
取材・文:川原崇(サッカーダイジェストWeb編集部)