(写真提供=SPORTS KOREA)

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韓国のタクシー運転手に対する暴行や強盗が多発しており、物議を醸している。

5月23日の夜にはソウルで衝撃的な事件が起きた。

事件を起こしたのは19歳の大学生だった。

泥酔状態でタクシーに乗りこんだ彼は、乗車するや否や騒ぎ出し、運転手はそれを13分間にわたって制止した。

だが大学生はさらにヒートアップし、ついには時速100kmで走るタクシーのハンドルを強引に奪ったのだった。

タクシーは道路を飛び出し、漢江のほとりに転落。

車両の半分以上が壊れ、運転手は全治3週間のけがを負った。

事件を起こした大学生にけがはなく、事故直後に逃走したが、すぐに逮捕された。

「運転手に拉致されたと思ってハンドルを奪った」などと供述したらしい。

一日に9人が暴行されている?

もっとも、この事件は氷山の一角に過ぎない。

タクシー運転手を襲った事例は、説明した道と違うルートを走ったとして運転手が頭を鈍器で殴られた事件や、運転手が乗客に突然暴言を吐かれた事件など枚挙にいとまがない。

実際、2015年の被害件数を見ると、およそ3100件に上っており、単純計算で一日平均9人のドライバーが何かしらの被害にあっている。

日本のタクシー関連犯罪件数が年間81件(2015年、一般社団法人ハイヤー・タクシー連合会調べ)であることと比較してもこれが異常な数字であることがわかるだろう。

また今年5月にソウル個人タクシー運送事業組合が調査したところによると、回答者685人中、41.4%に当たる249人が暴行を受けた経験があったという。

しかもそのうちの半分以上は月に1度は暴行を受けると答えている。

暴行事件は慢性的に起こっているようだ。

防犯ガラスを設置できない理由

しかし、これほどの被害があるにもかかわらず、対策は遅れている。

日本では防犯仕切り板(防犯ガラス)の設置や運転手の防犯マニュアル携行、緊急通報システムの設置などが普及しているが、韓国では防犯ガラスの設置すら進められていないのが現状だ。

なぜいまだに防犯ガラスが設置されないのか。

もっとも障害となっているのは費用の問題だという。

例えばソウル市が市内のタクシー約7万台に防犯ガラスを設置するとしたら負担額は少なくとも100億ウォン(約10億円)に上る。

ソウル市は現在、タクシー運転手から挙がった車内が狭くなるなどの反対意見を理由に保留している状況だが、多額の費用が判断に影響している可能性もなくはない。

問題は、費用を負担するのは自治体だけではないということだ。

あるタクシー運転手はこう語る。

「誰が費用を負担するのかが問題だ。個人タクシーは運転手が負担する費用があるのに、それを負担してまで設置しなければならないのか」

実際、韓国メディア『ヘラルド経済』の計算によれば、自治体が費用の半分を負担したとしても、個人タクシー運転手の負担額は50万ウォン(約5万円)は下らないという。

別の個人タクシー運転手は「2015年は一日10万ウォン(約1万円)の売り上げがあったが、近頃は5万ウォン(約5千円)まで減った」と嘆いたが、不況に陥ったタクシー業界には防犯ガラスを設置する余裕もないのかもしれない。

事実、タクシー会社勤務の運転手が会社への上納金を払うと最低賃金すらもらえていないと会社を起訴したこともあるほど業界の景気は悪い。

“防犯より売り上げ”というのがタクシー業界の本音なのだろう。

運転手が問題を起こすことも…

録音機器の設置も違う理由で難航している。

韓国の個人情報保護法に抵触してしまうからだ。

タクシー業界では現行法の改正が叫ばれており、個人タクシー運送事業組合は「運転手が危険な状況にあると判断されたときに最小限の防犯対策としてブラックボックスの録音機能を起動させられるように法を改正すべきだ」「悪用した場合には厳しく処罰すればいい」と訴えている。

韓国ではタクシー運転手の被害が多発している一方、反対に運転手が運賃をぼったくったり“暴走”したりすることも問題になっているため、録音機能は乗客と運転手双方の安全を守る意味でも重要だと言えるだろう。

いずれにせよ、タクシー運転手が理不尽な暴力にあうことは許されることではない。

早急に対策が打たれることを願うばかりだ。

(関連記事:料金ボッタクリだけじゃない!! 韓国でタクシーに乗ってはいけない3つの理由

(文=李 仁守)