社長! 会議は短く

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2016年秋の内閣改造での「働き方改革担当大臣」新設。それとタイミングを合わせたかのように、電通の過労死問題が大きくクローズアップされました。

それが引き金となり、いまや「働き方改革」は経営者にとって最大の関心事の一つになっています。

大企業にコスト削減競争に巻き込まれた中小の飲食業界

新聞報道などからは、大企業がこぞって労働時間の短縮を叫び、最終退社時間を定めて、その徹底を図ったり、強制的な有給休暇の消化策を打ち出したりと、わが国の「働き過ぎ文化」をなんとか変えようという努力がうかがえます。

以前、大企業に勤務をしていた身から申し上げれば、業種による多少の違いはあれど、日本企業は多かれ少なかれ、夜遅くまで働くこと、休暇も返上して会社に出勤することが「善し」とされ、それが人事評価にも直結するかのような企業文化が万延してきたのではないかと思っています。

その背景には、バブル崩壊とともに大企業にコスト大幅削減の嵐が吹き荒れ、人減らしによる一人あたりの業務(労働)密度の著しい増加があったから、とも思います。

しかし、中小企業の場合には若干事情が異なります。

最も大企業と似た構造が見られるのは飲食業界ですが、バブル崩壊後の長期にわたる不況がデフレ状態が、「価格低下 → コストダウン → 人減らし → 一人あたり長時間労働 → ブラック職場化 → 最悪は過労死」という構造を生み出しました。

これはひとえに、中小の飲食業が競合する大企業との激しいコスト削減合戦や顧客争奪戦から、同様の長時間で働かざるを得ない労働環境に巻き込まれたのだと、と思えます。

働き方改革」に求められるのは経営の覚悟

さらにここに来て問題を大きくしているのが、低コスト労働力として企業のコストダウンの切り札手的存在になっていた若年労働力の絶対数の減少です。これは他でもない、少子化の影響が大きく、飲食業界のみならず小売業界、さらには最近話題のヤマト運輸に代表されるサービス業全般において、同様の問題が噴出しているのです。

これらの働き過ぎの状況を解消するには、経営の覚悟が求められます。

すなわち、時短や休暇取得の促進は、生産性や効率性の低下、あるいはコスト増を促し、その結果、収益の低下を招くリスクと立ち向かう覚悟が求められるのです。

そのリスクを、働き手に転嫁することはもはや許されず、経営課題として経営者がそれを飲み込むべきである、というのが働き方改革の趣旨であると、個人的には受け止めています。

しかし、ここで気になるのは、日本における就業人口のもう一つの大きな比率を担っている中小製造業の働き方改革です。

「大手さんが就業時間を短縮させるとか、休暇取得を増やすとか、それをわれわれ中小製造業に押し付けられても困りますよ。大手さんとはまったく実態が違うのだから」

都内の下町で、従業員40人ほどの機械部品の製造会社を経営するY社長が言いました。

「もしそんなことを強制されたら、最終的にはコストアップにつながる話ですから、われわれは潰れてしまいます。社員たちが『うちは何をしてくれるのですか』とか言い出すのじゃないかと、働き方改革のニュースを見るたびにビクビクしています」

この話を聞き、たまたま最近20年以上勤めた大手メーカーから中小製造業の管理職として転職したEさんが、「中小企業職場環境の真実」とも言うべき話をしていたのを思い出しました。

社長、「ダラダラ会議」やめてください!

「中小企業に移って真っ先に感じたことは、一人あたりの労働密度の薄さです。曲がりなりにも一部上場企業に長年勤めていた身からすると、労働密度はその半分にも満たないかもしれません。皆、口では『昔に比べて忙しい』と言っていますが、時間を気にしない打ち合わせとか勤務時間中に各個人がつくるアイドルタイムも長い。だからその分、給与が低いとも言えるのですが......今、働き方改革の論議が盛り上がっていますが、労働環境改善の問題で大企業と中小企業の労務環境を一緒に論じることは適切ではない、と思わされます」
 

Eさんは、そう話します。

銀行に長年勤め、中小企業のお手伝いを通じてその職場や勤務実態を見てきた私も、Eさんの意見に同感です。

そもそも水平分業的存在の中小企業では、夜遅くまで働くこと、休暇も返上して会社に出勤することが善しとはされていませんし、サービス業を除く中小企業の残業削減は日中業務の効率化でかなりの部分が吸収できるというのが、私の見解でもあります。また収入を増やすために残業をしている、と見受けられる例も間々目にしています。

Eさんの結論は、なかなか興味深いものでした。

「転職から3か月、労働環境やそのムードを作り上げるものは大企業では評価に結びつく制度やルールなのですが、中小企業では社長なのではないかと思い始めました。日々社長の動きを見ていると、その仕事の密度の薄さや長時間の打ち合わせをはじめ時間管理の無頓着さが、組織風土として根付いてしまっていると私には思えるのです。今は私が環境に慣らされる前にこれを変えないと、この風土は永久に続くのではないかと思っています」

国をあげて盛り上がりを見せつつある働き方改革の議論ですが、大企業とは労働環境が異なる中小企業においては、社長自身の働き方改革こそ、最優先で取り組むべき課題なのかもしれません。(大関暁夫)