本田圭佑をUAE戦、タイ戦のメンバーに招集し、ハリルホジッチがいずれの試合にも交代出場させた件。ホーム、埼玉スタジアムで行われたタイ戦で、その交代出場を告げる場内アナウンスへの観衆の反応をうかがう限り、支持率は30〜40%という印象だった。スタジアムMCの仰々しいコールにもかかわらず、反応はいまひとつ。歓声の音量は、その4ヶ月前、同じさいたまスタジアムで交代出場したサウジアラビア戦の時の半分程度だった。
 
 試合後のピッチ脇で、ハリルホジッチと本田が2人きりでしばらく語り合っていた。その中身について試合後の会見で質問されたハリルホジッチは「本田のことをしっかりサポートしていること。長い時間、試合に出場して、クラブ内の状況を改善してほしいことなど、いろいろ話しました。いくつかの提案も行いましたが、それが現実になることを期待しています。残念ながらここでは話せませんが」と語った。
 
 所属クラブで出場時間が短ければ招集しない。大きな声でそうバッサリ斬ってきたハリルホジッチだが、本田には気遣いを見せる優しさがある。特別な存在であることが明らかになったわけだが、それがオープンになるメリットとデメリットと、どちらが大きいかと言えば後者だ。
 
 出場したい、スタメンを飾りたいと考える選手にとってはとりわけだ。メッシ、クリスティアーノ・ロナウドならいざ知らず、いまの本田は、ワンオブゼムだ。ミランで今季出場した時間を考えれば、それ以下。本来、招集される資格のない選手になる。その状況を改善しようとする試みも怠った。出場機会を求め、他のクラブに移籍せず、出場機会が見込めないことが確定しているミランに、自らの意志で居続けた。その姿もオープンになっていた。
  
 出場時間はUAE戦が12分。タイ戦ではその倍の24分に及んだ。交代出場とはいえ、貴重な枠であり時間だ。タイ戦で活躍した久保裕也は、11月に行われたオマーン戦で交代出場の機会を得たことで評価を高めてきた選手。そこに本田を出場させれば、第2の久保が出現する可能性は減る。
 
 代表チームというのはとりわけ、メンバーの循環が不可欠な集団だ。所属チームで出場機会を失ったベテラン選手のコンディション回復に務める療養施設ではない。それが、ファンにも選手にも明らかになってしまったのがいまの姿だ。
 
 日本代表はUAE、タイに連勝し、サウジアラビアとともに勝ち点16で首位に立つことになった。4着になる可能性は減ったが、3位豪州との差は勝ち点3。野球で言えば1ゲーム差だ。プレイオフに周る可能性は、まだ十分に残されている。しかも、UAE戦はともかく、タイ戦の試合内容は悪かった。今後を考えれば、悪い終わり方をした。
 
 日本代表は良好とは言えない健康状態にある。プラスアルファの力を導き出す精神的なノリを高めていく必要がある。それを後押しするのが監督の偏りのない姿勢。頑張った者、調子のいい者、活躍した者が正当に評価され、出場機会が与えられるフェアな競争原理だ。ある特定の選手に気兼ねする指揮官の態度は、チームのムード低下を招く最たるモノになる。
 
 監督が本田と心中するつもりなら、もっと明確に口にすればいいのだ。その辺りが有耶無耶なままに、出場機会が与えられているのがいまの本田。この監督の軟弱な態度。選手は見ている。ファン以上に、明確なものに映っている。
 
 Jリーグで首位神戸と同勝ち点で2位につける鹿島。このチームの強みは、多くの選手に出場機会が与えられている点だ。石井正忠監督の選手起用の背景に、フェアな精神が溢れていることが見て取れる。「代えるときはバッサリ」とは同監督の言葉だが、この状態が保たれれば、チームの総合的な健康状態は増進する。

 ミスター鹿島、小笠原満男は中でも、バッサリと代えにくい存在だが、遠慮なくいく。小笠原がそれで、どれほどムッとしているか定かではないが、他の選手にはそれが励みになる。監督への信頼度やカリスマ性はそれに伴い上昇する。

 先日の対大宮戦。小笠原がピッチを後にしたのは試合が、ロスタイムに入るタイミングだった。不満げな表情を浮かべたことは確かだが、しばらくの間、ベンチに座ることなくピッチ脇から、ピッチ上の選手に細かな指示を送っていた。こちらにはそれが、チームが一丸になっている様子に映った。

 そうした魅力が、いまの日本代表には欠けている。ひとりの選手を巡るもやもやが、チームとしての勢いにブレーキを踏んでいる。監督の本田への気遣いが、ムードに水を差している。そんな状態だ。

 大衆もこの状態を強く望んでいるようには見えない。本田を唯一無二の絶対的な選手ではないと思い始めている。ハリルホジッチが外す決断をした所で、大きな障害はないはずだ。サッカーにとってムードは重要。ムードの悪いチームには幸が到来しない。僕はそう思うのだ。