家庭で「無煙」がなぜ可能? 焼肉専用コンロ「やきまる」の秘密

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自宅で焼肉をすると、どうしても気になるのが煙。しかしイワタニの焼肉用ガスコンロが「本当に煙が出ないし、直火だからおいしく焼ける」と評判だ。しかし中を開けても非常にシンプルな作りで、センサーやファンなどが付いている様子もない。この構造で、なぜ煙が出ないのだろうか?【最終ページに商品企画書を掲載】

焼肉を自宅で楽しみたいと思っても、煙に困るのでなかなかできないという人は多い。そんな悩みを解決した「煙を出さない」という「カセットガス・スモークレス焼肉グリル 『やきまる』 CB-SLG-1」(以下、やきまる)が人気だ。その仕組みは一体どうなっているのだろうか。

やきまるを発売したのは、カセットガスコンロでお馴染みの岩谷産業。2016年8月に発売されてすぐに、主婦の間で口コミで話題となり、発売直後から年末までは品薄で買えない状況になっていた。筆者も今年になって買うことができ、実際に家で焼肉を楽しんでいる。やきまるで肉を焼くと、確かにほとんど煙が出ない。今までは焼肉をするたびに火災報知器が鳴り、家中に焼肉のニオイがついてストレスだったが、そんな悩みも解消された。

不思議なのが、特に最新のテクノロジーを使っているようには見えないこと。一通り中を確認してみても、ファンやセンサーが付いているわけでもなく、普通のカセットガスコンロなのだ。なぜ、ここまで煙を抑えることができるのか? 同社の新商品開発担当の福士拡憲氏に、やきまるの企画書を見せてもらい、話を聞いた。

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■やきまるの気になるポイント
・煙が出ないのはなぜ?
・焼き面を約210〜250度にコントロール
・汎用カセットコンロよりも、火力がかなり“低い”
・肉の脂が下に落ちてヘルシー
・プレート表面はフッ素加工、洗いやすい構造で手入れがラク
・実売価格5700円程度と、他の無煙ホットプレート(電気式)に比べて安価

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■煙が出ないポイントは2つ

やきまるは煙を抑える機構を備えたカセットガス式のコンロだ。特徴は、約210〜250度にプレートの温度をキープできる構造と、肉から出た脂に火がつかないよう、水皿に確実に落とす通り道を作っていること。煙を出さないカセットコンロとして、特許を申請している。

煙が出ないだけでなく、美味しさにもこだわっている。電気式のホットプレートと違い、直火で焼けるため、焼き面温度の立ち上がりが早く、肉をこんがり焼くことができる。直火式でありながら煙を抑えられるということでSNSやブログ、口コミなどで評判となった。1年の販売目標は3万台としていたが、2016年8月に発売してから2017年3月の予約受注分までで、既に6万台の販売台数を記録している。

■温度センサーはないが、表面温度約210〜250度をキープ

煙を出さないようにする一番簡単な方法は、プレートの温度を下げることだ。従来「煙が出ない」とうたうホットプレートはそうなっていたが、プレートの温度を下げて肉を焼くと、見た目は焼けていても、水分が抜けて美味しくない。

「開発で一番苦労したのは、プレートの温度です。プレートの表面温度を250度以下に抑えれば煙は出にくくなることはわかったのですが、210度より温度が下がってしまうと肉の水分が抜けてしまいます。そこで、210度から250度の一定の温度に保つ構造にするため、色々試しました」(福士氏)

やきまるの開発が始まったのは2014年。都心部では、家で焼肉がしたくても高気密のマンションでニオイが気になったり、煙で火災報知器が鳴ったりしてしまう。結局外食にするか、外でバーベキューという人は多く、なかなか家で焼肉を楽しむのは難しかった。そんな状況を変えるために、煙を気にしないで焼肉を美味しく食べられるカセットコンロを作りたいという思いから、開発チームのメンバーでアイデアを出し合ったという。バーナーの直径、バーナーからプレートまでの距離、発熱量、組み合わせを変え、試験機を作って実際に肉を何度も焼いた。

■Point1:温度の“低さ”

「焼肉といえば、強火でサッと炙るようにして食べるのが美味しいと思いますよね。しかし家庭用のプレートでは逆だということに気付きました。現在イワタニで売れ筋の汎用カセットコンロは、だいたい2500〜3000kcal/h。しかし色々試した結果、やきまるの発熱量は900kcal/hに設定しました」(福士氏)

「kcal」は、ガスコンロの火の強さを表す単位であり、ガスが燃えて発生する熱の量だ。数値が大きいほど、ガス消費量の値が大きくなるので、火力も強いということになる。イワタニではやきまるの他にも特化型のカセットコンロを出しているが、「たこ焼器 スーパー炎たこ」は1500kcal/h、「炉ばた焼器 炙りや」は2000kcal/h。たこ焼器や炉ばた焼器と比べると、やきまるは900kcal/hなので明らかに発熱量が低いが、「薄い焼肉用の肉を高火力のカセットコンロで焼くと、焦げて煙が出てしまいます」と福士氏は語る。

ただし、温度が低過ぎると、ほどよい焦げ目がついた美味しい焼肉には遠い焼き上がりとなる。そのボーダーラインは210度。つまり、カセットコンロを使って煙を出さず、美味しく焼ける最適な温度は210℃から250℃の間と限られているのだ。

そこで、バーナーやプレートの大きさ、火力などをすべて見直し、バーナーとプレートの間に適度に熱がこもるようにバランスも調整した。最大火力のまま加熱を続けても温度が250℃以上にはならず、210℃以下にも下がらない一定の温度を保つことができる。焼肉をしながら火力を調整する必要がなく、常に最大にしておけばベストなプレートの温度で焼肉を楽しめるのだ。

■Point2:肉から落ちた脂の通り道を作る

もう一つ、煙を出さないための大事なポイントがある。焼いた肉から出る脂を火に当てないようにすることだ。プレートに肉から出た脂が溜まって焦げることにより、煙が出やすくなる。それを防ぐために、効率よく脂を落とす通り道を作っている。

プレートは中心部が少し高くなっており、中心部は穴がなく、外側だけ開いている。肉を焼いて出た脂は、中心から外側に向かって落ちていくのだが、プレートには溝があるので溝に沿って脂が落ちていく。そして、落ちた脂は、あらかじめプレート下の水皿に注いでおいた水の中に溜まる。このような機構にすることで肉の脂がプレートに残らなくなり、脂が煙化しにくくなるのだ。

また、プレートの裏側を見ると、中心部分の直火が当たる部分は、厚さ約7mmの壁がバーナーを囲んでいる。これは、脂が落ちたときに、バーナーにかからないように防波堤の役割を持っている。プレートの裏側は、徹底的に「火に脂を近付けない」仕組みだ。

プレートを外して中を確認しても、他のガスコンロとは大きく変わったところもなく、シンプルな構造に見えるが、実際のところは煙が出ないように大きさも含めて全て計算されて作られているという。

「この機構は特許出願中ですが、新たに何か部品を開発したというわけではありません。今まである技術の組み合わせを変えただけで、煙を出さないカセットコンロが誕生したのです」(福士氏)

■煙が出ないので“家で焼肉”の頻度が上がる

実際に家でも購入してやきまるを試してみたが、煙はほとんど出なかった。我が家は一戸建てで、焼肉をするたびに火災報知器が複数鳴るので、真冬でも窓を全開にしなければならず、いくら焼肉が好きといっても楽しむことはできなかった。しかし、やきまるであれば煙が気にならず、翌日もニオイが残りにくい。そのため、焼肉の頻度が増えている。

ただ、家族4人でたくさん肉を焼き続けると、終盤ではどうしても煙が出てくるようになる。

「肉の焦げカスなどに脂が移って溜まってしまうと、それが煙の原因になります。もし煙が出てくるようなら、途中で汚れを取り除くことをおすすめします。途中でプレートをいったん外し、キッチンペーパーなどでサッと拭くだけで快適に使えます」(福士氏)

また、やきまるは3〜4人の使用を想定しているというが、食べ盛りの子どもが2人いる我が家では、もう少し大きなサイズがほしいところ。福士氏によると、そのような声も届いているという。

「サイズを変更するとなると、バーナーの直径を変更したり、プレートとバーナーの距離を見直したり、1から全部作り変えなければいけません。端の方まで均等に焼けて、かつ煙が出にくいサイズとなると、今のところはこのサイズとカロリーがベストなのです。ただ、反響が大きく、そういった声もいただいておりますので、ゆくゆくは開発できればと考えています」(福士氏)

■カセットコンロの売れ行きは堅調

イワタニのカセットコンロ全体の売れ行きを聞いてみたところ、「ずっと右肩上がりというわけではないものの、カセットコンロ全体で見ると、売上げは伸びており好調」だという。カセットコンロが見直されたきっかけは東日本大震災だった。今まで使ったことがないという若い人も、震災がきっかけで使うようになった人が増えているそうだ。

カセットガスは年配者が使うイメージがあるので、それを払拭するためにデザインにも力を入れている。「昔の無骨なものではなくて、洗練されたデザインのカセットコンロも増やしてきました。やきまるのような特化型の専用カセットコンロを増やしているのも、カセットコンロの間口を広げるためです」と福士氏は語る。

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■次のページで、「やきまる」の商品企画書を掲載します。

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■イワタニ「やきまる」の企画書

(石井和美=文)