ファミリーレストランが、今、続々と24時間営業から撤退していることをご存知でしょうか。その一番の理由は、従業員の「ワークライフバランスの推進」ということで間違いないようですが、飲食店が抱える深刻な裏事情も影響しているようです。無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが詳しく分析しています。

ロイホで24時間営業が終了、ファミレス業界は新たな時代へ

佐藤昌司です。「ロイヤルホスト 府中東店」は1月末日、24時間営業を終了しました。これをもって、ロイヤルホストでは全221店舗で24時間営業がなくなりました。

これはファミレス業界が新たな時代に突入したことを表す象徴的な出来事といえます。ロイヤルホストを運営するロイヤルホールディングス(HD)はさらなる営業時間の短縮と定休日の導入も検討しています。

ファミレスにおける営業時間の短縮が相次いでいます。ファミレス最大手の「すかいらーく」は2016年12月15日、主力の「ガスト」や「ジョナサン」を中心に約750店舗の営業時間短縮を進めると発表しました。原則、深夜2時閉店、朝7時開店とします。1月中旬から順次4月までに行う予定です。

すかいらーくは営業時間短縮の主な理由として「ワークライフバランスの推進」を挙げています。従業員の健康に配慮した職場の整備が目的といいます。これは政府の「働き方改革」に呼応した動きといえるでしょう。政府は現在、働き方改革を推進しています。労働環境を改善し、仕事の仕方を効率化することで企業の生産性を上げる試みです。

電通に勤めていた高橋まつりさんの過労自殺が明るみに出たことで、世間の過重労働に対する厳しい視線に注目が集まるようになりました。高橋まつりさんのSNSには深夜労働が続いていたことが告白され、電通における深夜労働の実態が浮き彫りになりました。これを受けて、電通は残業を原則午後10時までとする社内ルールを定めました。世間の批判に抗しきれなかった形です。

飲食店での過重労働の問題は牛丼チェーン「すき家」が記憶に新しいところでしょう。2014年2月ごろから人手不足による閉店が相次ぐ騒ぎになり、深夜時間の営業を従業員1人に任せる「ワンオペ」と呼ばれる過酷な労働実態が問題視されるようになりました。

これを受けて、すき家を運営するゼンショーホールディングスは労働環境改善に関する第三者委員会を設置しました。同年7月31日に調査報告書が公表されています。

調査報告書には店舗での加重労働の実態が詳細に記されていました。「意欲も低下、慢性的人員不足でおかしくなりそうです」「正直言わせていただくと、労働環境かなり悪すぎです」「ハードワーク、睡眠不足・ストレスで倒れた。車で事故が2回、体力の限界」 といった過酷な労働状況に対する従業員の悲痛な叫びを見ることができます。

こうした実態に世間は驚愕し、すき家のイメージは悪化し、客離れにつながりました。調査報告書発表翌月の8月から翌年9月まで14カ月連続ですき家の客数(既存店)は前年割れとなるほどです。

ファミレスが深夜営業を縮小する理由は、近年の人手不足に対応する狙いもあります。飲食店での人手不足は深刻化しています。人材を確保するために、アルバイト・パートの時給の引き上げ、採用予算の増額、外国人や未経験者の採用といったことを行わざるを得ない状況になっています。

時給の引き上げや採用予算の増額による経費増大が経営の足かせになっています。また、24時間営業による人件費の負担も影響しています。例えば、すかいらーくの近年の人件費は上昇しています。2013年度から2015年度までの人件費は一貫して上昇しています。売上高人件費率も上昇傾向にあり、2013年度は32.2%、2014年度は32.5%、2015年度は33.1%と一貫して上昇しています。

一方、ロイヤルHDの直近7年間の売上高人件費率は減少しています。2009年度は29.8%でしたが、2010年度は28.8%、2011年度は28.8%、2012年度は28.2%、2013年度は27.4%、2014年度は27.0%、2015年度は26.8%です。減少傾向を示していることがわかります。

ロイヤルホストでは以前から営業時間の短縮を進めていました。そして、24時間営業を全店で終了させました。営業時間を短縮することで売上高人件費率を低減させることができています。もちろん他の要因の影響もありますが、営業時間の短縮が大きく貢献していることを否定できないでしょう。

近年は人々の生活行動が夜型から朝方にシフトしています。そのため深夜のファミレス需要が減っています。以前の深夜のファミレスには、若者のたまり場としての需要がありました。友人とのコミュニケーションの場として機能していました。しかし、近年はインターネットやSNSが発達し、若者のコミュニケーションの場がファミレスから自宅へとシフトしていきました。自宅にいながらでもネットやSNSで友人とコミュニケーションが図れるからです。

深夜労働には25%以上の割増賃金を支払う必要がります。人手不足の状態では深夜に人員を割くことが物理的に難しいという問題もあります。深夜の需要が減少し、人手不足が深刻化している今、割高の経費を捻出してまで深夜に営業する必要性は高いとはいえないでしょう。その分の人員と経費を日中に割り当てることは合理的といえます。

さらに、「深夜に労働させる店」というイメージの定着で企業ブランドが大きく毀損する時代です。電通やすき家で発生したような企業イメージの悪化が発生してからでは手遅れとなってしまいます。実際、すき家では客数が低下しました。そうであれば、労働時間を短縮させることはメリットこそあれデメリットは少ないといえます。

ロイヤルホストは全店で24時間営業を終了させました。その他のファミレスでも同様の動きが広がっています。ファミレス業界は新たな時代に突入したといえそうです。

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『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』

著者/佐藤昌司

東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

出典元:まぐまぐニュース!