すでに月へと到達した人類は次に、火星への到達を実現するべく開発を進めています。2020年ごろにも火星を目指す計画が提唱されるなど、にわかに身近なものになり始めている火星ですが、実はそこには人類が直面しなければいけない問題がいくつも残されているようです。

7 ways a trip to Mars could kill you - YouTube

火星へ行くことの危険性についていくつか例を挙げているのは、NASAエイムズ研究センターのシニア・サイエンティストであるクリス・マッケイ氏。NASAの宇宙開発計画にも携わっている人物で、計画が持つ危険性についても研究を行っている人物です。



◆1:ロケットの爆発

宇宙へ行くにはロケットに乗ることが必要。高度な技術が投入されているとはいえ、燃料のカタマリであるロケットに不具合が発生して爆発すると、無事でいられる可能性はほぼゼロです。



NASAは、スペースシャトル計画で833人の宇宙飛行士を宇宙に送りましたが、1986年のチャレンジャー号爆発事故と、2003年のコロンビア号空中分解事故で合計14名の命が失われました。





火星へ人類を届ける最右翼と言われるSpaceXも事故とは無縁ではありません。人命に関わる事故こそ発生していないものの、補給船人工衛星の打ち上げ時に大爆発してしまうなどの事故が発生しています。



◆2:「宇宙放射線」の危険

仮に打ち上げが成功したとしても、それで危険が過ぎ去ったわけではありません。



火星へ到達するためには、長い時間をかけて宇宙空間を進む必要があります。この時に問題となるのが……



恒星などから放たれる宇宙放射線の被ばくです。



宇宙放射線は高いエネルギーをもって宇宙空間を飛び交う小さな粒子のことで、ガンマ線やエックス線、そして紫外線などの種類に分かれていますが、いずれも生物に影響を与えるものです。



地球には地磁気や大気があるため、宇宙放射線の大部分は地表に到達しないのですが……



火星を探査しているNASAの探査機「キュリオシティ」の観測によると、火星には大量の宇宙放射線が降り注いでいることが明らかになっています。



また、時おり太陽で発生する「太陽フレア」による影響も甚大なものがあります。太陽フレアでは極めて高いエネルギーの宇宙放射線が放出され、1989年に発生して地球に到達した磁気嵐と太陽フレアでは、カナダのケベック州で大停電が起こるなどの被害を引き起こしました。この太陽フレアが航行中の宇宙船を襲うと、中にいる乗組員はひとたまりもないと考えられています。



◆3:火星着陸にも危険が潜む

長い時間かけて火星に到達しても……



着陸に失敗してしまう危険もあります。



火星の大気は地球の約100分の1と非常に希薄な状態です。



そのため、地球の大気圏に突入する時のような、大気との摩擦を利用した減速ができません。火星にロケットを着陸させるためには、ロケットエンジンを逆噴射して減速に用いるという作業が必要です。



火星探査機「キュリオシティ」を着陸させたときにも同じ問題に直面したとのこと。わずか1トンの探査機を着陸させるだけでも非常に苦労したとのことで……



今後、何十人、何百人という人を乗せて火星にロケットを着陸させることは容易ではないことは明らかと言えます。



◆4:重力の弱さ

惑星のサイズが地球より小さい火星は、その分重力も弱くなっています。



この弱い重力が、人体に影響を与えます。



宇宙での生活を送る際、宇宙飛行士は定期的に筋力トレーニングを行います。



これは、無重力空間で筋肉と骨格が退化することを防ぐため。それでもなお、地球に帰還した宇宙飛行士は歩行に苦労することもあるほどです。



また、宇宙では視力の低下も見られるとのこと。



火星の重力は地球の38%ほどしかありません。そのような環境で人体の筋肉や骨格、視力にどのような影響が及ぶのかは、まだ全くの未知数です。



◆5:窒息の危険

いくら宇宙服を着ていたとしても、そこに「窒息」の危険が存在していることには変わりありません。



火星の大気圧は地球の100分の1程度のため、宇宙服や専用の居住カプセルなしに人間が生きることはできません。



また、火星の砂は非常に微細で、弱い重力のせいもあって簡単に機器の隙間に入り込んでしまう可能性も。そうなると機材のトラブルが引き起こされることにもなりかねません。



そのままでは生活できない火星の環境を、人間が住めるように変えるテラフォーミングの構想も古くから提唱されています。



かつてはSFの世界だけだったテラフォーミングが、科学の世界でも現実味のある話として研究されています。



テラフォーミングでは、まずはメタンガスなどを使って惑星全体を温暖化させ、大気圧と大気中の二酸化炭素を高めることで植物が育つ環境を作ります。



そして植物が酸素を作り出すことで、生物が生息できる環境を作ることが考えられています。



◆6:土壌の問題

テラフォーミングが完了したら、生物の生活に欠かせない食糧の生産に入ります。



これは、2015年の映画「オデッセイ」でも描かれていたもの。マット・デイモン演じる火星に取り残された宇宙飛行士が生存をかけ、火星の土壌を改良してジャガイモの栽培に成功するというものです。



しかし実際には、火星の土壌をそのまま使って作物を育てるべきではないとのこと。



その理由は、土壌に含まれる猛毒の過塩素酸塩の存在。



過塩素酸塩は、人体の甲状腺に悪影響を与えることが知られており、その土壌で作った作物を食べると、人体にはよからぬ影響が及ぼされる危険があるというわけです。



◆7:人間関係の問題

最後に挙げられているのが、火星に行く宇宙飛行士たちが特殊な環境でうまくやっていけるのか、という問題です。何年にもわたって宇宙船の閉鎖された状態に置かれ、火星に着くとそこでは「火星唯一の人類」として活動を行うことになる宇宙飛行士が、そのような環境でどういう心理状態になるのかは、まだ誰も経験したことがない極めて特殊な状況です。



1990年代には、実験施設内に人工の生態系「バイオスフィア2」を作り、閉鎖された空間で人間が暮らすことが可能なのかという検証が行われました。



当初は100年継続されるはずだったこのミッションは、わずか2年で破綻状態に陥りました。その理由は、施設内でうまく酸素が供給されなかったことなどによる心理的影響が現れたことだったとのこと。



宇宙飛行士もあくまで人間であるわけで、火星移住に適した人材を見つけることも大きな課題の1つと言えるようです。



最初に火星に旅立つ乗組員は、二度と地球には戻って来られないことを覚悟してミッションに参加することになると考えられています。大きな犠牲を払って人類は火星に行く決断を迫られることになりそうですが、まだ見ぬ地の謎を解き明かす人間の探究心のためには、偉大なる犠牲が伴うことは避けられないのかもしれません。