『地下アイドルが1年で東大生になれた! 合格する技術』(桜 雪/辰巳出版)

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 人々の夢と憧れを背負って笑顔を振りまく職業、アイドル。売れっ子になればプライベートの時間すらほとんど取れない彼女ら(彼ら)だが、多忙を極めているはずなのに受験勉強と芸能活動を両立させて難関大学に合格してしまったアイドルは多い。そして、地下アイドルユニット「仮面女子/アリス十番」のメンバー、桜雪も東京大学文学部卒業の高学歴アイドルである。しかし、彼女がその他の高学歴アイドルたちと違う点は、彼女はアイドルが受験勉強をしたのではなく、受験勉強をしているうちにアイドルになってしまったケースだということである。

 桜雪の著書『地下アイドルが1年で東大生になれた! 合格する技術』(辰巳出版)を読むと、全国模試でE判定が出るほど受験勉強に苦戦していた彼女がどうして東大に一浪で合格できたのか、そしてその成果にアイドル活動がどのように影響したのかが分かるはずだ。

 バスケ部のマネージャーと児童合唱団の活動に明け暮れた高校時代、桜の学業は落ち込んだという。それもそのはずで、偏差値が高く東大生を毎年多数輩出している高校では、勉強以外のことに気を取られているとすぐに取り残されてしまうのが常だったのだ。しかし、受験勉強に本腰を入れ始めると志望校は東大一校に絞ることを決意。東大の過去問との相性の良さを感じたからである。

 その頃、桜は引退した児童合唱団の空白を埋めようと音楽活動をするために芸能事務所アリスプロジェクトを訪問。東大志望の受験生というプロフィールが気に入られ、受験勉強をブログで報告していく「受験生アイドルブロガー」が誕生する。つまり、当時の桜に寄せられた「アイドルの売名行為」という批判は、全くの的外れだったのだ。

 しかし、ブログが炎上したり、本人特定されて学校でも陰口を叩かれたりしているうちに受験当日を迎え、あえなく不合格。桜の現役時代は不本意な結果に終わった。自虐的に描かれるこれらのエピソードは今でこそ笑い話だが、当時はナイーヴな受験生だった桜からすれば、相当な重圧になっていただろう。

 しかし、そこから始まる浪人時代で桜は覚醒する。予備校の先生や学友に恵まれたのも大きかったが、さまざまなことを受験に応用できないかとひらめいたのだ。

 例えば、「推しメン」。ファンがアイドルグループの中で特に贔屓に推しているメンバーのことだが、最初は推しメンだけを目で追っていても気がつけばメンバー全員のファンになっているという事態は、アイドルファンにありがちなことである。

 そこで、桜は苦手な数学をマスターするため、とりあえず「Σ(シグマ)」と「ベクトル」を推しメンにしてみる。

シグマやベクトルを極めると、数列と図形全体の問題にも自信が出てきます。そして、数列と図形を極めていくと、かつてはあれだけ苦手だった数学が、むしろ得意な教科に変わっていったのです。

 桜自身がアイドルグループに所属していたからこその発想だったといえるだろう。他にも勉強をゲーム感覚にする工夫や、ラグビーの五郎丸選手を参考にルーティンによるリラックス方法を編み出すなど、桜の勉強法は独創的だ。これらの勉強法をブログで開示していくと、本気度が伝わったのかバッシングも減っていく。確かに、本書にも掲載されている桜の勉強ノートのすさまじい書き込みを見れば、彼女の努力が売名で行えるものではないと誰もが一目で理解できる。一浪の末、東大に合格した桜は順調に学生生活を満喫し4年で卒業。卒業論文のテーマは「ファン心理と認知的傾向の関係」だった。

 アイドルのみならず、学生の芸能人にとって学業との両立は大きな課題である。しかし、桜は失敗を糧にしながら、芸能活動と学業を相互作用させることで見事な成果を挙げた。彼女の「アイドル勉強法」はこれからも多くの受験生の参考になることだろう。将来はエンターテインメントでの国際貢献を目指すという彼女は、東大で学んだことをどんな風に芸能界で応用していくのだろうか、注目だ。

文=石塚就一