知ればきっとおいしい話。カレーうんちく3つ

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■明治10年、西南戦争の年にカレーライスが銀座にデビュー!

カレーを初めて庶民向けに売り出したのは、記録をたどるかぎり、両国若松町(現在の東京都中央区東日本橋)にあった「米津フウ(※)月堂(現・東京フウ月堂)」である。洋食というと30〜80銭(現在の物価に換算すると、およそ6000円〜1万6000円)の高額なコース料理しかなかった時代、1877(明治10)年に開業した喫茶部では、カレーライス、カツレツ、オムレツ、ビフテキを8銭均一で提供したのだった。※=かぜかんむりに百

明治30年代ともなると、大衆向けの洋食屋が増え始め、カレーは洋食の代表格になっていく。

大阪も負けていない。1910(明治43)年には、生卵を使ったカレーで有名な「自由軒」が、大阪・難波で創業。1929(昭和4)年には梅田で阪急百貨店が開店し、カレーライスが食堂の超人気メニューとなっている。

大衆化が進む大阪に対し、東京では、本格化、高級化が進んだ。

1924(大正13)年、神田でスマトラカレー専門の店「共栄堂」が創業。続く1927(昭和2)年、パン屋からスタートした「新宿中村屋」が喫茶部で“純印度式カリー”を発売。創業者の相馬愛蔵が、インドの独立運動家ラス・ビハリ・ボースをかくまったことをきっかけに、スパイスが効いたインドカレーが日本で初めて紹介された。当時、巷のカレーは10銭前後。中村屋のカレーは80銭もする高級品だったが、一日200食を超える売れ行きだったという。

時代は飛んで戦後。1947年、大阪・難波で、日本人向けにインドカレーをアレンジした「インデアンカレー」が開店する。一方東京では、銀座に日本初のインド料理専門店「ナイルレストラン」がオープン。東西カレー専門店の歴史は、こうして後世に引き継がれていった。

■福神漬けはなぜカレーの永遠の友になったか

庶民の間にカレーが広まりつつあった明治30年代。当時の料理書には、カレーの薬味としてピクルスやチャツネ以外に、さまざまな代用品が紹介されている。今も定番のらっきょう漬けのほか、茄子の芥子漬けに奈良漬、紅生姜……。だが、“福神漬け”の名はどこにも見当たらない。それもそのはず、カレーライスと福神漬けはちょうどその頃に出会ったばかりだったのだ。

カレーライスに福神漬けが初めて添えられたのは、1902〜03(明治35〜36)年頃のこと。ヨーロッパを行き来していた日本郵船の客船の食堂で、チャツネの代わりに福神漬けを添えて出したのが始まりとされる。もっとも福神漬けが添えられていたのは一等客船用のみで、二等、三等の薬味は、たくあんだったという。

当時の記録を見ると、船に積まれていたのは「酒悦」の“福神漬”の缶詰。酒悦といえば創業1675年(延宝3)の老舗の漬物屋で、福神漬けの生みの親でもある。

明治の初頭、漬物といえば塩漬けしか手段がなかった。そこで酒悦十五代目の野田清右衛門は、醤油を使った漬物ができないかと試行錯誤。10年の歳月をかけ、1877年頃に味醂を使った甘辛い醤油漬けを完成させた。

材料に用いられたのは、上野界隈でとれる新鮮な大根、茄子、かぶ、瓜、しそ、れんこん、なた豆。7種の野菜を使うことから、「七福神」にちなんで“福神漬”と命名された。

昭和に入ると、カレーと福神漬けの組み合わせは、帝国ホテルや銀座の「資生堂パーラー」でも登場。かくしてカレーと福神漬けは、船上の思いがけない出会いから、分かちがたい友になったのだった。

カレー好き県、カレー嫌い県は?

総務省による、現代の最新家計調査によれば、一世帯当たりのカレールウの購入量が最も多いのは青森市。最下位は那覇市で、青森市との差は579g。一皿の使用量が20gと考えると、その差は年間約29皿分に当たる(ちなみに、購入金額00のランキングでは、新潟市がトップ、神戸市が最下位となっている)。

購入量トップの青森県民曰く「スーパーのカレールウの棚はだいたい2列くらいあって、よそに比べて売っている種類が多い」とのこと。

一方、最下位の沖縄は、独自の食文化を築いているため、食に関するランキングでは極端な結果が出やすい。それを考慮しても「カレーは普通に食べているので、理由はわからない」のが県民の実感。「もしかしたら、家でカレーをつくらないのかも……」という声もあった。

ならば、カレー専門店の数でみてはどうか。「カレーハウス」の人口10万人当たりの店舗数ランキング(2013年度)では、石川県が6.28軒でダントツの首位。さすが「金沢カレー」発祥の地だ。金沢カレーとは、濃厚な硬めのルウにキャベツを添えたものが、ステンレスの皿と先割れスプーンで供される、金沢市のご当地カレー。県民は「金沢カレーのチェーン店だけでも、県内にたくさんある」と納得の様子。さらに2位の北海道には、スープカレーがある。地元民に愛されるご当地カレーがあることが、店の数の多さにつながっているようだ。

反対にワーストは福島県(2007年度以降最下位)。ルウの購入量でも、福島市は25位であることから、熱狂的なカレー好きではないのは確か。意外なのは、ルウの購入金額で1位の新潟県が46位という結果。県民は「おいしいお米が手に入りやすいから、カレーは家で食べるものなんでしょうね」と分析。そういえばルウの購入量最下位の那覇市を擁する沖縄県も、店舗数では13位と健闘。あれこれデータをみていくと、結局のところ、決定的にカレー嫌いの県なんて見当たらないのだった。

(文・澁川祐子)