随所でバッシングを受けながらも、勢いある演説で共和党の有力者を味方に付けつつあるトランプ氏。いまだヒラリー氏優勢と伝えられますが、トランプ氏が大統領になる可能性も決してゼロとは言い切れません。そんな事態に備えて日本人が知っておくべきことと、心構えとは? 無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者、北野幸伯さんが詳細に記しています。

アメリカ第一主義!〜トランプ外交演説の中身

アメリカ大統領選、共和党トップを走るトランプさん。4月27日、「外交政策」に関する演説をしました。何を語ったのでしょうか?

まず、トランプさんは今、どのような位置にいるのでしょうか? 共和党内での勝利が見えてきた。ところが、共和党内で、「トランプではヒラリー・クリントンに勝てない!」といわれています。なぜでしょうか?

変な発言が多いからです。

「アメリカとメキシコの国境に万里の長城を建てる!」
「イスラム教徒は、アメリカに入れるな!」
「日本から米軍を撤退させる可能性がある!」
「日本の核保有を認める!」
「朝鮮戦争が起こってもアメリカは関わらない!」

などなど。コメディアンであればいいですが、(落ち目でも)「覇権国家」のトップとしては、なんとも「危なっかしい」ですね。実際共和党の中には、「トランプが共和党の大統領候補になれば、ヒラリーに入れる」という人がたくさんいる。トランプさんも、そういう現状をわかっているので、「共和党の主流派に認めてもらい、ヒラリーに勝つために、もう少しマジメにならなければ」ということなのですね。

CNN.co.jp 4月28日から。

演説はあらかじめ用意した原稿に基づく抑制された口調で行われ、トランプ氏が人気を集める大きな要因だった自由奔放な発言スタイルは影を潜めた。

トランプは、〇〇〇〇主義者

トランプは、今の世界をどう見ているのでしょうか? そして、アメリカをどうしようとしているのでしょうか。

同氏は「米国第一主義こそが、私の政権の最重要テーマとなるだろう」と明言。

 

「トランプ政権ではいかなる米国民も、外国の市民のために自分たちのニーズが二の次にされていると感じることはない」と語った。
(同上)

「米国第一主義こそが、私の政権の最重要テーマ」

なぜこんな話になるのでしょうか?

トランプさんによると、「アメリカは、世界中から搾取されている、哀れな国」なのです。NATOがアメリカを搾取し、日本がアメリカを搾取し、韓国がアメリカを搾取し…。今までのアメリカは、「他国第一主義」だった、あるいは「世界第一主義」だった。それを、「米国第一主義にする!」と。これ、どうなんでしょうか?

実をいうと、すべての国が、「自国第一主義」です。別の言葉で、すべての国が「国益を最優先」している(日本は、時々、国益よりも、「アメリカ益」「中国益」「韓国益」を優先させている感じがしますが…)。

アメリカだって、ずっと「アメリカ第一主義」でやってきました。ところが表向き、「アメリカ第一主義」とは言いませんでした。「アメリカは、世界の自由、人権、民主主義を守る!」などと言ってきた。

ところが、トランプさんは、「私はアメリカ第一主義者だ!」と言う。とても正直ですね。しかし、覇権国家のトップとして、「アメリカ第一主義宣言」はどうなのでしょうか?

皆さんの会社のトップが、「私は『わが社第一主義だ!』」と宣言したらどうですか? 「わが社」と「第一主義」の間には、「利益」という言葉が省略されています。

「わが社『の利益』第一主義だ!」。皆さんの会社の社長が、こんなことを宣言していたら、普通「心強いぞ!」とは思いません。「大丈夫かな、この会社」と思うでしょう? なぜでしょうか? 社長さんの言葉を世間の人が聞いたら、「儲け第一主義のあの会社からは買いたくない!」となるからです。

ところで皆さん、「自分第一主義」を宣言している人がいたら、そんな人と「付き合いたいな〜」と思いますか? 普通は、「関わりを持つと利用されるだけではないか?」と警戒し近付かないようにするでしょう? 国だって同じことです。

日本は、世界中で愛されている。それは、要するに、世界一他国を助けてきたということです。私は何が言いたいのか? トランプさんの「アメリカ第一主義」宣言は、「わが社の利益第一主義宣言」「自分の利益第一主義宣言」と同様、「きわめてまずい」ということです。

また、トランプ氏は「米国の外交政策のさびを振り落とす」と誓い、「行き当たりばったりを目的あるものに、イデオロギーを戦略に、混沌(こんとん)を平和に置き換える」外交政策を提案すると述べた。
(同上)

ここだけ読むと、「すばらしい!」と思えます。確かにオバマさんの外交は、「行き当たりばったり」に見えます(たとえば、2013年8月に「シリア攻撃宣言」をし、同9月に「ドタキャン」するとか)。

しかし、「行き当たりばったり」を「目的あるものに」と言うときの「目的」とはなんでしょうか?トランプさんの言葉によれば、「アメリカの利益」となるでしょう。これが、同盟国を不安にさせるのですね。

次ページ>>トランプ氏の狡猾なIS対策と対中関係対策とは?

トランプの「イスラム国」(IS)対策

次、BBC News 4月28日から引用してみましょう。

「イスラム国」への対応

 

トランプ氏は、自身の政権の下では過激派組織「イスラム国」(IS)が掃討されるのは「時間の問題になる」とした上で、「彼らにそれがいつかは教えないし、どうなるかも言わない」と述べた。

 

同氏はこれまで、ISが掌握する石油資源を奪い、「ウオーターボーディング」と呼ばれる水責めなど厳しい尋問方法を使うと述べていた。ただし、27日の演説ではそこには触れなかった。

 

トランプ氏は演説で、「過激なイスラム主義の拡散を止めるのが米国、そしてもちろん世界の主要な政策でなければならない」と語った。さらに、過激主義と戦うため同盟国と緊密に協力するとした。

「IS」ですが、実をいうと、プーチン・ロシアの空爆ですでに「壊滅的打撃」を受けています。なぜでしょうか? アメリカは、1年以上空爆をして、ISの「石油インフラ攻撃」を一切しなかった。ところが、プーチンは、遠慮なくISの石油インフラを空爆し、「資金源」を断つことに成功しています。つまりトランプは、すでに「ほぼ掃討されたIS」について、「私が大統領になればISを壊滅させる!」と言っている。少し狡猾です。

ISですが、主にシリアで弱体化した彼らは、難民に紛れて欧州に移動しています。ですから、シリア、イラクのISは衰退しましたが、欧州のISは逆に増えている。

NATO加盟国は、「もっと金を出せ!」

トランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)参加国と新たな協議を開始し、組織改革や米国の拠出金の「リバランス(再調整)」を進めると語った。
(同上)

「リバランス」というと、わけわかんないですが、要は、「NATO加盟国は、もっと金を出せ!」ということですね。とは言え、欧州経済も苦しい。結局、「ドイツはもっと金を出せ!」という話になるでしょう。

ロシアとは、「和解」「協力」

さらに、ロシアと協議して、イスラム過激主義への対応で合意点を探る意向を示し、「ロシア人には論理が通じないと言う人もいるが、本当かどうか確かめるつもりだ」と述べた。
(同上)

2014年3月の「クリミア併合」で最悪になった米ロ関係。実をいうと、米ロ関係は、すでに「和解」「協力」に向かっています。ウクライナ内戦は、2015年2月の「ミンスク合意」で事実上終結している。

米ロは、共同で、イランの核問題を終わらせた(2015年7月)。米ロは、共同でシリア内戦を終わらせた(2016年2月)。ここで、トランプさんは、「オバマ路線」を「継承する」と言っているのですね。

ただ、オバマは、表向き「プーチンと敵対している」ことになっている。トランプは、堂々と「プーチンと協力する!」と宣言している。それで、ロシアメディアは、「トランプ支持一色」になっています。

中国とは「関係改善」

中国については、「(中国は)強さへに敬意を払う。我々は今、経済的に利用されるのを許しているから、彼らの敬意を失っている」とし、「中国との関係を改善する」と述べた。ただ、詳細は語らなかった。
(同上)

日本人が最も関心を持っているのは、トランプの「対中政策」でしょう。しかし、詳しい話はしなかった。もしトランプさんが、中国との和解を目指すなら、日本も同じようにする必要があります(アメリカは、「梯子を外す」のが得意。例:グルジア、ウクライナ、サウジ、イスラエルなど)。

先走って中国を挑発しないよう、気をつけましょう。

次ページ>>日本が避けられなくなる「道」とは?

日本は、「もっと金を出せ!」

同盟国について

 

トランプ氏は、「我々が守っている国は防衛費を負担しなくてはならない」とし、「でなければ、米国は、自国は自分で守らせる、という構えでなくてはならない。我々にそれ以外の選択肢はない」と語った。

 

同氏は先月、ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで日米関係について、「我々が攻撃を受けることがあっても、向こうは我々を守る義務がない。もし日本が攻撃を受けたら、我々は絶対向こうを守らなくてはならない。それは本当に問題だ」と述べている。
(同上)

トランプさんが日米関係について一貫して言っているのは、

日米安保を「片務」から「双務」にしろ!日本は、もっと金を出せ!

です。日米安保を片務から双務にする件は、安倍総理が一生懸命取り組んでおられます。日米が一体化することで、中国はおとなしくなりました。トランプさんが大統領になれば「さらに対等にしろ!」と要求がくることでしょう。そして、「思いやり予算」の「大幅増額要求」は、避けられないでしょう。

中国が「日本には沖縄の領有権がない!」と主張しているご時世。

(証拠:反日統一共同戦線を呼びかける中国)

残念ながら「仕方ない」です。日本には現時点で、「自国を自分で守る能力がない」のですから(日米安保を双務にすることで、日本の防衛能力も向上していきます)。

トランプ演説への反応は?

トランプ氏の演説に対する反応

 

2016年の大統領選に立候補していたジム・ギルモア元バージニア州知事は、「演説の中で完全に同意できるところは多かった」としながらも、同盟国の負担増を求めた部分については疑問を呈した。
(同上)

共和党の有力者の間では、今回の演説を評価する声が上がっている。上院外交委員会のコーカー委員長が「もっと詳細を聞きたい」と述べたほか、ギングリッチ元下院議長も、考察や議論に値する「真剣な」外交政策だとツイートした。
(CNN.co.jp 4月28日)

共和党の有力者を味方につけることに、ある程度成功したようです。落ち目の覇権国家アメリカの大統領選。まだまだ目が離せませんね。

image by: Andrew Cline / Shutterstock.com

 

『ロシア政治経済ジャーナル』
著者/北野幸伯
日本のエリートがこっそり読んでいる秘伝の無料メルマガ。驚愕の予測的中率に、問合わせが殺到中。わけのわからない世界情勢を、世界一わかりやすく解説しています。
<<登録はこちら>>

出典元:まぐまぐニュース!