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VR企業Felix & Paulが明かすバーチャル・リアリティーと 、ユーザー優先の動画制作について

本文はデジタルエージェンシー Hugeのコンテンツ戦略部門に勤めているEmily Atwater と、同じくSound Cloudでコンテンツ戦略を担当しているGina Pensieroとで共同執筆された。

ヴァーチャルリアリティ(VR)が登場してからしばらく経つが、映画業界においては、その足掛かりができたくらいにしか過ぎない。動画制作業者のFelix & Paulは、360度全方向のエクスペリエンスを実現するための設備を整えたスタジオを設立し、VR動画制作におけるパイオニアとしての立場を確立している。

視聴者、そして製作者の立場から、VRエクスペリエンスをつくり上げるにあたって行き当たることとは何か、これまでの動画制作と何が違うのか知りたいと思う。

Emily Atwater(EA): まず事の始まりについて教えてください。二人はVR動画制作をどの様に始め、そのきっかけは何だったのでしょう?

Felix & Paul (F&P): 2人ともCMや音楽ビデオ、映画といった従来の動画制作会社の出身で、一緒に始めたのは10年くらい前で、スタジオを設立する前になります。一緒にやる事になって、視聴者を釘付けにするための魅力的なエクスペリエンスを模索しました。

ビデオや大きなプロジェクションマッピングのほか、ホログラフィーや3Dの立体画像をつくれる環境を導入しました。元々は普通に購入できるものを使っていましたが、それらでは私達のニーズを満たすことは出来なかったので、色々なテクノロジーを試してみることにしました。

私達にとってテクノロジーとクリエイティビティーは車の両輪の様なもので、ツールの発展によって自分たちが発信したかったストーリーが作れるようになるという一連の流れが出来ました。その結果、ストーリーテリングは没入的なものになっていき、VRに行き着いたわけです。

 私達はVRにおける”存在感”とはどういったものかを追い求めています。これまで色々試してみて、VRは視聴者に自分自身がエクスペリエンスの一部であり、そこに感情移入や繋がりが生まれる史上初のメディアだと言う事に気付きました。距離を感じる事なく感情に直接訴えかける事が出来るというのは魅力であり、インスピレーションを受けます。

EA: 過去に色々やってきたなかで、「これだ!」と思った瞬間はありましたか?

F&P: ええ、ありました。初めて必要な技術が揃い撮影の準備が整った時、アマチュアの俳優をつれて教会に出向きました。演者は温厚な中国人の女性です。 教会の座席に座った人の目線にカメラを設置して、その女性にそこまで歩いてもらい、カメラの横大体3フィートに座り、そして数秒後にあたかもそこに人がいるかのような感じでカメラのレンズを見るよう指示しました。私達は直感的にそれが力強いものになると思いました。

 これをVRエクスペリエンスに仕立てあげました。初めて観た時、彼女に内面をまっすぐ見つめられてると感じ驚愕しました。それは非常にパワフルなものだったのです。この20秒間の動画を他の人にも観てもらいました。そして彼女が振り向き視聴者を見つめる度、彼らは驚嘆したのです。みんな「彼女のことを考えずにはいられない」とコメントしました。私達はこのメディアは独特のものであり、これを体験するとこれまでの動画には戻れなくなると気付きました。

EA: インスピレーションを得るために他のクリエイターの作品も観ましたか?

F&P: 私達が素晴らしいと思うクリエイターは多くはいません。また彼らの作品の質はまだ実験段階のものです。このメディアとコンテンツの相性の他に大事な点として、時間と空間の繋がりがあります。時間の感覚というパワフルなエクスペリエンスを視聴者に伝えるのを、これまでの作品はあまりうまく出来ていません。VRは時間の感覚を好きなように変化させる事ができ、視聴者はそれによって現実の時間感覚が無くなります。

あるクリエイターは時間というものを丁寧に扱ってます。小津安二郎の作品などは被写体自身の経験を扱っています。例えば家族との食事シーンでは、カメラの位置は演者の視点に置かれて長いシーンが撮られます。そうすると、白黒映画であるにも関わらず、視聴者自身は傍観者というよりその場の一部として、あたかも彼らと同じテーブルに座っているのだと感じてしまいます。他の作品で言うと、スタンリー・キュービックの2001: スペースオデッセイからも私達は大きな影響を受けました。

EA: 従来の動画制作よりもVRに着目する若い動画クリエイターはいますか?また学校のカリキュラムがVRを取り入れる動きはあるのでしょうか?

 F&P: まだまだ従来のものが主です。ときどき講演に招かれて学生の前で自分たちがやってる事を話す機会がありますが、その内容に映画制作を学んでいる生徒達はびっくりします。動画という概念は映画制作よりもスコープが大きいため、向こう数年で映画についての教育方法は変わるかもしれません。VRの発達とアート・カルチャーへの導入が進めば、この変化はあるでしょう。しかし今の所、VRは興味深いものではあるけれど商業的にはなってません。まだ黎明期な事もあり、教育する内容についても限られてます。

私達は自分たちがやっている事自体が、そのまま自分たちへの教育になっていると考えています。VRを初めて2年になりますが、全てのプロジェクトから教訓を得ています。

EA: VRは映画の主流になりえるでしょうか? 長編映画でVRエクスペリエンスはありえるのでしょうか?

F&P: わかりません。この点についてかつてははっきりと意見してましたが、より多くこの仕事に携わるにつれ、あと数年のうちに何が起こるか分からなくなってきました。もともと非常に短い作品を作っていましたが、今ではより長い約20分のものを作っています。VRではこれはとても長く感じられるもので、ユーザーが全く別の世界に完全に取り込まれるということは、視聴者にとても多くのことを要求してしまいます。さらに必要となるヘッドセットもかなり重くなるなど、課題は多くあります。

今はシリーズ物を多く手がけています。40分で1本ではなく、ユーザーが自分のペースで楽しむことが出来る15分で1本のシリーズ物です。ヘッドセットがコンパクトになり、撮影者がツールをマスターすれば、長編動画が出てこない理由はなくなるでしょう。

EA: もし映画館とVRエクスペリエンスとの相性が合わないとした場合、VR動画の広がりはどういったものになると考えますか?

F&P: 今の所、ミュージアムやイベントなどで誰でも観られるVRは公開されています。行列やヘッドセットの衛生面については課題ですね。ですがこれはそもそも家で楽しむものです。価格が下がり手に入りやすくなればなおさらです。あと2、3年で多くの人が機材を家に持つ事は十分考えられることで、そこで通信速度やコンテンツの質は保証できるのかという点が問題です。それには、人々がお金を出して家で楽しみたいと思えるようなレベルのコンテンツを作ることが必要です。

コンテンツの配信はAppStoreの様な形になるでしょう。Youtubeの様な無料のものから、一本あたりで課金される購読型のシリーズ物といった感じです。エクスペリエンスにもライブアクションからインタラクティブなものまで幅が生まれることでしょう。公共サービス向けのエクスペリエンスとしては、複数の人が同時に観られることから、VRよりも拡張現実の方が活用される機会は多いでしょうね。

EA: “質の高いコンテンツ”についてお聞きします。コンセプトについてでも技術面についてでも結構ですが、素晴らしいVR動画を作りあげるものとは何でしょうか?

F&P: まずコンセプトの力強さが鍵でしょう。技術的なレベルも大事ですが、コンテンツとメディアに対する理解がしっかりしている時、VRはもっともパワフルなものになります。エクスペリエンスに夢中になれれば、技術面で拙いところがあっても許せるものです。映画でも一緒です。テクニカルな面でお粗末なところがあっても、ストーリーがパワフルでキャラクターが魅力的な素晴らしい作品はあります。

ちなみに存在感というものは、とてもデリケートなものです。視聴者がテクノロジーの事に目を向けず、あたかも自分が本当に何処か別の所に行ったのだと感じられる為に、テクノロジーは大きく貢献しています。全体的なクオリティーという意味では、それをVRでやる意味は何なのかということを考え直す事が求められます。従来の映画作りのやり方に陥ってしまいがちですが、ペースをどうするか、カメラの動きはどうするか、編集はどうするかということをよっぽど早く考えないといけません。VRでは普通の映画づくりと比べて時間がかかります。

EA: VR作品に対する批評は一般的な映画とは異なるように思います。VR作品の質に対する評価の基準は、一般的な映画のそれとは異なるのでしょうか?

F&P: 私達は視聴者がこのエクスペリエンスをどう感じるかという事に重点を置いてます。視聴者がコンテンツで置かれる場所とは? そこにいる立場とは?ドキュメンタリーであればいいのか、フィクションであればいのか?直接的なものであればいいのか、抽象的なものであればいいのか?シェイクスピアでいう「生きるべきか? それとも死ぬべきか?」という問いの様なものです。

この問いに答えを見つけることが出来なかった場合、私達は動きません。視聴者は心に訴えかけるものを得られるどころか、何か引っ掛かりを覚えることでしょう。コンテンツは面白いものかも知れませんが、私達が求めているのは視聴者が何も考えずに、ただそこにいると感じられる事です。

この点は譲れません。これが上手く行かなかった時は非常に腹立たしいものです。プロジェクトの成功と失敗の分け目は紙一重です。

このインタビューの続き、part2はまもなく公開

ReadWrite Japan編集部
[原文]