現在は夜行バスの標準となった「3列独立シート」(写真出典:西武バス)。

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これまで夜行バスの売りは「安さ」でした。しかし近頃は全体的に車両がグレードアップ。快適性やサービス向上に力を入れるバス会社が増えています。そこにはどんな背景があるのでしょうか。

昨年から起きつつある夜行バスの変化

 1980年代後半までの夜行バスといえば、2席+2席の座席配列が主流。車両によってはトイレもなく、簡素な車内設備が一般的でした。1980年後半からは「3列独立シート」が登場。1席ずつ独立したシートを通路2本で隔てて配置するもので、現在の夜行バスではこれが標準になっています。

 その後、路線数の飛躍的な増加に伴い、夜行バスの車内設備はバラエティに富むようになります。そこで「車内設備は良いが運賃もそれなりに高い」か「運賃は安いが必要最小限の車内設備」という2極化が起こってきました。

 ところが昨年の2014年あたりから、そうした流れにさらなる変化が生じています。夜行バスが全体的にグレードアップしてきているのです。

夜行バス、ライバルは新幹線

 東京・埼玉地区をエリアとし、首都圏から甲信越・北陸・近畿方面へ夜行高速バスを運行する西武バス(埼玉県所沢市)。同社は2015年12月1日から、東京の新宿・池袋と富山県の高岡・氷見を結ぶ路線で新型車両の運行を開始しました。

 この新型車両は座り心地を向上させるため、座席幅が従来車より10cm広げられました。また、プライバシー確保を要望する乗客の声を受けて、同社の車両では初めて座席と通路を仕切るカーテンも装備されています。各座席にはコンセントも完備され、車内デザインは大理石調の床材などでお洒落な雰囲気が演出されました。

 西武バスの東京〜北陸間路線については、今年の利用者数が対前年比で20%以上落ち込みました。その大きな要因は、2015年3月に開業した北陸新幹線。同社が北陸方面にハイグレードな新型車両を投入するのは、新たなライバルとなった北陸新幹線に対抗するためでもあるのです。

 同社は、新宿・池袋〜高岡・氷見間の運賃を片道5000円から8200円に設定。これは北陸新幹線と比較すると、およそ6割から4割安い水準です。サービスは向上させつつ、運賃は割安に据え置いたところに、北陸新幹線に奪われた乗客を少しでも取り戻そうという同社の意気込みが感じられます。

 なお西武バスの新型車両は、2015年度中に5台が導入されます。新宿・池袋〜高岡・氷見線のほか、新宿・池袋〜富山線、新宿・池袋〜金沢線にも投入される予定です。

快適性のカギはシート その進化にある背景

 夜行バスの快適性は、その大部分が乗客の座るシートによって決まります。名鉄バス(名古屋市)は2014年12月から導入している新型車両に、「プレミアムワイド」と呼ばれる快適性にこだわったシートを装備しました。

「プレミアムワイド」は、座面幅が従来のシートから約10cm拡大され、長時間座っていても疲れにくい点が特長です。また、新型車両は座席のフットレストを貫通させ、前席下の奥行空間を広げることで、従来車両よりも足が伸ばしやすくなりました。

 この「プレミアムワイド」のシートですが、名鉄バスと共に開発したメーカーが、それをベースにした夜行バス用シートを製作。他社へも販売を始めました。

 現在、そのシートは神姫バス(兵庫県姫路市)・関東鉄道(茨城県土浦市)・奈良交通(奈良市)・とさでん交通(高知市)などのバス会社が採用を開始。これにより、全国各地で夜行バスのシートが一気にグレードアップし始めています。

「キング・オブ・深夜バス」は「動くネットカフェ」に?

 福岡市の西鉄(西日本鉄道)は、車両の保有台数が全国第2位(約1800台)の大手バス会社です。同社の看板路線である福岡・北九州〜東京新宿線で運行する「はかた号」に2014年末、新型車両が導入されています。

「はかた号」は、かつて北海道テレビのローカルバラエティ番組『水曜どうでしょう』で「キング・オブ・深夜バス」として取り上げられ、一躍有名になりました。

『水曜どうでしょう』では、「はかた号」の長い所要時間(14時間以上)と休憩時間の少なさに焦点が当てられました。それもあって「はかた号」は「ケツの肉が取れるバス」などと揶揄された時期もあります。しかし、それも昔の話。「はかた号」は快適な移動手段として大きく進化しました。

 新しい「はかた号」は、前方4席のみに設けられた「プレミアムシート」を最大の売りにしています。ゆったりした本革シートには、シートヒーター・マッサージ機能・座面送風機能を搭載。「プレミアムシート」は完全個室型であり、空気清浄機や「iPad mini」貸し出しサービスもあるなど、「動くネットカフェ」いう表現がピンとくるかもしれません。

「はかた号」はLCC(格安航空会社)や他社の夜行バスなどと激しい競争を繰り広げています。そうした状況で毎日、福岡〜東京間という長距離を走り続けた車両が老朽化したこともあり、西鉄は車両の更新時期に合わせてグレードアップも行うことにしたのです。

 ちなみに、「はかた号」の「プレミアムシート」運賃は1万7000円から2万円。「ビジネスシート(3列独立シート)」運賃は1万2000円から1万5000円です。東京〜福岡間の運賃が最安で4790円(届出運賃)のLCCに比べると高めですが、移動と宿泊を兼ねることで出費を抑えて無駄な時間も減らしたい人には是非ともお勧めしたい夜行バスです。