未来のテクノロジーに対する期待と不安、その「先」へ行くために必要なこと

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「未来の都市のテクノロジーに対して何を期待し、何に不安を感じているか?」。「Slush Asia」代表のアンティ・ソンニネンは、『WIRED』読者から集まったどんな不安をも払拭できる、ポジティヴな反論を用意していた。ノキアとともにWIRED.jpで読者アンケートを行い、2015年10月13日開催の「WIRED CITY」カンファレンスでも議論した、その内容とは。(『WIRED』VOL.20より転載)

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アンティ・ソンニネン|ANTTI SONNINEN
Slush Asia CEO。ゲーム「アングリーバード」で知られるフィンランドのエンターテインメント企業Rovioのカントリーディレクター、日本のスタートアップ企業Beatrobo Inc.のCOOなどを経て、2015年にフィンランド発・世界最大規模のスタートアップカンファレンス「Slush」のアジア版「Slush Asia」の立ち上げに参画。今年4月に東京で初開催された同イヴェントには、200を超えるスタートアップが参加した。

2015年3月にUS版『WIRED』はノキアとともに「Make Tech Human」(テクノロジーを人らしく)というキャンペーンを立ち上げた。スティーヴン・ホーキング博士をはじめ、ティム・バーナーズ・リーや、プロダクトデザイナーのイヴ・ベアールら、選りすぐりのエキスパートが参加し、読者とともにテクノロジーの未来を考える議論を、オンラインのコミュニティやイヴェントなどで繰り広げてきた。

それを受けて『WIRED』日本版でも、15年の9月より日本で同様のキャンペーンを立ち上げている。ただし、US版『WIRED』の取り組みとは多少異なり、「未来の都市をとりまくテクノロジーに対して何を期待し、何に不安を感じているか?」という問いを直接読者に投げかけた。

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そもそも、なぜノキアはこのようなキャンペーンを行っているのか。それは同社のこれまでの歩みを紐解けば見えてくる。長年、ノキアはフィンランド人にとって絶対的な存在であって、多くの人々はノキアと共に歩んでいれば安心だと考えていた。だが、それはあるとき突如として揺らいだ。1998年から2011年まで携帯電話の世界シェア1位を誇っていた業績は低迷し、経営危機と大規模なレイオフを経て、13年9月にマイクロソフトが同社の携帯電話事業の買収を発表したのだ。このままノキアに頼りきりになっていてはフィンランドに先はないと考える人々も現れ始めた。

そんななか、ポジティヴな議論を重ねて、自らイノヴェイションを生み出していこうという気運がフィンランド国内で生まれ、若者たちによるスタートアップムーヴメントが広がっていった。そのうち、1万人以上が参加する北欧最大級のスタートアップイヴェント「Slush」が誕生し、起業家たちが新しいビジネスアイデアを発表してその可能性を議論する場が生まれていった。

一方でノキアは事業の大変革を終え、モバイルインフラの世界最大規模の会社に生まれ変わった。そして、テクノロジーを本当に人の役に立つものにするために何ができるかを議論する場を自らつくるべきだと考え、創業150年の節目の年に、ノキアはMake Tech Humanを立ち上げた。


「MAKE TECH HUMAN」日本版で集まった注目のコメント

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1/2「期待すること」。ほかにも「セキュリティが強化されたら夜街を歩くのが楽しみです。拡張現実や仮想現実で、いままで見えなかった都市を見れることを期待しています」(20代/女性)という肯定的な意見も寄せられた。

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2/2「不安なこと」。「人はいずれ人に愛想を尽かすようになると思います。すべてを見抜かれ、覗かれる。人工音声で人を偽り、自分の代わりにAIに相手をさせる。人の信頼は崩れ去っていくでしょう」(20代/男性)といった興味深い視点も寄せられた。

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「期待すること」。ほかにも「セキュリティが強化されたら夜街を歩くのが楽しみです。拡張現実や仮想現実で、いままで見えなかった都市を見れることを期待しています」(20代/女性)という肯定的な意見も寄せられた。

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「不安なこと」。「人はいずれ人に愛想を尽かすようになると思います。すべてを見抜かれ、覗かれる。人工音声で人を偽り、自分の代わりにAIに相手をさせる。人の信頼は崩れ去っていくでしょう」(20代/男性)といった興味深い視点も寄せられた。


今回日本で集まった意見は、フィンランド出身で「Slush Asia」代表のアンティ・ソンニネンに見せて、意見をもらった。ソンニネンは「アングリーバード」を世に出した「Rovio Entertainment」の日本法人代表として2011年に東京にやってきた。「日本が置かれている状況は、かつての自分たちと同じだ」。ソンニネンはこの地を訪れた際、そう感じたのだという。

日本はかつてのフィンランドに似て、現実から目を逸らし、建設的な議論を避けて、大企業に頼りがちになってしまっている。これを見直し、フィンランドのように日本でも新しいビジネスの可能性を議論する場を整えていくべきだ。そう考えた彼は日本にSlushをもってくることを決意し、2015年4月にアジア版「Slush Asia」のイヴェントを初めて東京で開催した。

日ごろから多くの起業家と接しているソンニネンは、変化に対する不安要素はどんなものでもポジティヴに転換することができる。例えばMake Tech Humanに寄せられた読者の意見にあった監視社会化が進むことやテクノロジーを扱える人と扱えない人の間に格差が生じる可能性に対しては次のように語る。

「インターネットによって取得できる情報の格差はむしろ縮んでいます。また、『監視』という言葉を使うからネガティヴに聞こえますが、『透明性が増している』とも言い表すこともできます。ぼくらだって国や企業を監視できる時代になったということです」

「いまMake Tech Humanで起きているような議論から新しいアイデアやイノヴェイションが生まれる。だからこそ、こうした議論をこれからどんどん広げていくべきだ」とソンニネンはWIRED CITY 2015の壇上で語り、来場者にコメントの募集を呼びかけた。

フィンランドには「この世の中に、唯一確実なものは変化だ」ということわざがあるという。「近年のイノヴェイションを振り返ってみると、難病を治す薬が見つかったり、交通事故死者数が減ったり、物事はテクノロジーの進化によって確実に前進しています。変化そのものはいいことなんです」。それがソンニネンのMake Tech Humanに対する見解だ。

テクノロジーが発達することによる変化は、とらえ方次第で良くも悪くも受け止められる。もちろん、それが世の中に何をもたらすかを疑うことも必要になる。そのためMake Tech Humanのように、議論を重ねる取り組みを行うことは素晴らしいことだとソンニネンは語る。「議論するからこそ、変化の必要性に気づくことができるのです」

ノキア