『帰ってきたウルトラマン Blu-ray BOX』(バンダイビジュアル)

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『帰ってきたウルトラマン』がブルーレイボックスになって帰ってきた。1971年〜72年にTBS系で放映された『帰ってきたウルトラマン』は、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』に続く3代目ウルトラヒーローとして第二次怪獣ブームを巻き起こし、ウルトラセブンやウルトラマンが助っ人として登場する回もあり、ウルトラ兄弟という概念が生まれたシリーズでもあった。その一方、放映時には“帰ってきたウルトラマン”には名前がなく、初代ウルトラマンと区別するために便宜的に“新マン”と呼ばれていた不憫な一面を持ち合わせていた。そんな名前のないヒーロー『帰ってきたウルトラマン』は、特撮界に多大な足跡を残した脚本家・上原正三がメインライターを務めた作品としても知られる。

 上原正三は、『ウルトラQ』『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の初期ウルトラ三部作の企画&メインライターを務めた金城哲夫と同じ沖縄県出身。同郷で同世代だった金城に誘われる形で円谷プロに出入りするようになった。『ウルトラセブン』では「第4惑星の悪夢」などを執筆し、同じく『ウルトラセブン』の名エピソード「ノンマルトの使者」を書いた金城と共にマイノリティー側の視点をウルトラシリーズに持ち込んでいる。金城は1969年に円谷プロを辞め、日本返還を控えていた故郷・沖縄を拠点に活動するようになるが、上原は東京に残り、金城が去った後の特撮界で長年にわたって人気作品を手掛けることになる。『帰ってきたウルトラマン』の後、『秘密戦隊ゴレンジャー』を皮切りとする初期スーパー戦隊ヒーローを生み出し、『がんばれ!!ロボコン』『宇宙刑事ギャバン』『仮面ライダーBLACK』などの特撮ヒーローやアニメ『ゲッターロボ』『北斗の拳』ほか数多くの作品のシナリオを執筆し続けた。

 長いキャリアを誇る上原だが、その作家性が強く発揮された作品として有名なのが、『帰ってきたウルトラマン』の第33話「怪獣使いと少年」だ。ウルトラシリーズでも屈指の名作と評され、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち 増補新装版』(切通理作著、洋泉社刊)でも詳しく紹介されているが、事あるごとに触れておきたいエピソードである。それは「怪獣使いと少年」が差別問題を主題にしており、テレビドラマでこのテーマが扱われることは今なお非常に希だからだ。

「怪獣使いと少年」の舞台となるのは、工業都市・川崎市の河川敷。ビンボーそうな身なりの少年が廃屋で暮らし、ひたすら地面を掘っている。この少年を街の不良たちは容赦なくいじめる。少年を生き埋めにして頭から泥水を浴びせ、自転車で轢こうとする。凶暴な犬をけしかけ、炊いていたおかゆをひっくり返した挙げ句、足で踏みにじる。ゴールデンタイムの子ども向き番組と思えないほどの執拗なイジメ描写が続く。少年は怪しい超能力を使う宇宙人だと噂されており、少年が街で食パンを買い求めても「他の店に行ってよ」と断られるシーンもある。

 ウルトラマンの変身前の姿である郷秀樹(団次郎)はMAT(モンスター・アタック・チーム)の隊員としてパトロール中にイジメに遭っている少年を救ったことから、街の人に宇宙人だと疑われているこの少年に興味を抱く。MATの伊吹隊長(根上淳)の許可を得て、郷が少年の出生を探ると、少年は北海道江差生まれで、父親は炭坑夫として働いていたが、閉山後は東京へ出稼ぎに向かい、そのまま蒸発。母親も病死。身寄りのない少年は父親の後を追って上京し、河原で生活していたことが分かる。少年は廃屋で金山と名乗る寝たきりの老人と一緒に暮らしており、その金山老人こそがメイツ星人の変身した姿だった。地球を環境調査で訪ねていたメイツ星人は少年が河原で行き倒れていたところ助け、2人は実の家族のように肩を寄せ合って暮らしていたのだ。しかし、メイツ星人は公害に汚染され、余命いくばもなかった。少年は金山老人が河原の地中に隠した宇宙船を掘り起こし、共にメイツ星へ旅立つことを夢見ていた。

 早くに父親を失っていた郷は少年と金山老人の絆に感激し、少年の穴掘りを手伝うようになる。だが、そのことが惨劇を招く。「MATが宇宙人をやっつけないなら、我々がやってやる」と街の人たちが暴徒化し、少年に襲い掛かかったのだ。魔女狩り集団となった群衆の前で郷は無力だった。少年を守ろうと病床にいた金山老人が立ち上がり、「宇宙人は私だ」と名乗り出る。暴徒を煽動していた警察官たちが無抵抗の金山老人に発砲し、無惨にも金山老人は緑色の血を流しながら絶命する。金山老人=メイツ星人の死によって、かつてメイツ星人が地下に封印していた怪獣ムルチが出現。暴徒たちは逃げ惑いながらMATに助けを求めるが、このとき郷はつぶやく。「勝手なことを言うな。怪獣を誘き出したのはあんたたちだ。まるで金山さんの怒りが乗り移ったようだ」。

 暴れる怪獣を前にして、主人公が戦うことを放棄するという前代未聞の事態に当時の視聴者は驚いた。このときの郷は托鉢僧に変装した伊吹隊長に「郷、分からんのか」と喝を入れられ、ようやくウルトラマンに変身するが、怪獣との戦いは冷雨が降る中での陰惨なもので、胸がすくような爽快さはまるでない。北海道江差出身の少年はアイヌ、金山老人は在日朝鮮人を示唆していると言われている。沖縄の基地問題を題材に処女シナリオを執筆していた上原は、1970年代当時は取り上げること自体がタブー視されていた差別問題を、特撮ヒーロー番組で真正面から投げ掛けてきたのだ。後のインタビューで、関東大震災直後の朝鮮人虐殺を下敷きにしたことを上原は語っている。

 沖縄に帰郷後、37歳の若さで亡くなった金城との思い出を綴った自伝『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(筑摩書房)の中で『帰ってきたウルトラマン』のメインライターを務めたことにも上原は触れているが、金城が書いた『ウルトラマン』のような伸びやかさがなく、『帰ってきたウルトラマン』は話が暗くなってしまったことを反省している。上原は『帰ってきたウルトラマン』以降はウルトラシリーズからは距離を置き、円谷プロ以外で新しいヒーローを次々と生み出していくことになる。でも、やはり上原が生み出したヒーローたちの多くはどこか影を曵きづっており、人間臭くもあり、そこがまた魅力でもあった。共に沖縄出身で、今日にいたる特撮ドラマの礎を築いた金城哲夫と上原正三は、まるでウルトラ兄弟のように感じられる。
(文=長野辰次)

『帰ってきたウルトラマン』Blu-ray Box 11月26日より発売
発売元/円谷プロダクション 販売/バンダイビジュアル