■盛りあげよう!東京パラリンピック2020(41)

「第25回NEC全日本選抜車いすテニス選手権大会(2015 NEC JWTA MASTERS)」が千葉県柏市の吉田記念テニス研修センター(TTC)で開催された。男子・女子各8名、クァード(上肢にも障がいがあるクラス)4名の日本のトップ選手のみが参加できる今大会。15日に決勝が行なわれ、注目の男子は眞田卓(さなだ たかし)が齋田悟司を6−3、6−0で下し、車いすテニスを始めて10年の節目で大会初優勝を飾った。

 眞田と齋田はTTCでともに練習する仲。互いに手の内を知り尽くした相手だけに、「齋田選手のサーブがスライスからフラットに変わり苦戦した」と眞田。それでも時間とともに試合を冷静にコントロールし、勝利につなげた。世界ランキング1位の国枝慎吾、また同18位の三木拓也が欠場し、上位4人のうち2人との対戦する機会が流れてしまったことは残念だったが、「優勝は優勝です」と胸を張った。

 19歳で事故により右膝関節から下を切断。リハビリ中に車いすテニスの存在を知り、中学時代はソフトテニス部だったこともあり興味を持った。車いすテニスの関係者に誘われてTTCを訪れたとき、齋田が自身の使っていたラケットを譲ってくれたという。20歳で車いすテニスをスタートしてから5年間、眞田はずっと齋田からもらったラケットを愛用したそうだ。

 25歳からはスポンサーを得て、活躍の場を世界に移し始めた。翌年のイギリスの大会で初めて齋田に勝利したことは今でも忘れない。齋田は日本における車いすテニス界のパイオニアであり、2004年アテネパラリンピックのダブルス金メダリスト。

「人間的にもプレー的にもすごく尊敬するプレーヤー」と眞田は語る。そこに、"ライバル"という意識が加わったことで、その後の眞田の成長を加速させたのかもしれない。

 現在、眞田は世界ランキング8位につけている。今年はコリアオープンやヒルトンヘッドオープンで優勝するなど着実に結果を残し、ITF車いすテニスツアーの締めくくりとなる12月の世界マスターズ(イギリス・ロンドン)の出場権を得ている。

 世界のトップ8だけが出場できる大会で、昨年は初出場ながら6位に入賞したものの、「場の雰囲気にのまれた」と悔しさをにじませた。とはいえ、初日から最終日まで毎日世界のトップ選手と対戦するという今までにない濃厚な日々は、眞田に大きな刺激を与えた。「スタミナやメンタルの保ち方が勉強になった。次のステップに自分のなかで切り替わった大会になった。それが今に生きている」と振り返る。

 眞田にとって、今年の世界マスターズはもうひとつの大きな意味を持つ大会になる。というのも、この大会で4位以内に入れば、翌シーズンのグランドスラム初戦となる全豪オープンへの出場がグッと近づくからだ。

「グランドスラム1回戦で勝てば400ポイント。たとえば、スーパーシリーズのジャパンオープンは優勝して600ポイントなので、世界のトップにあり続けるためにはグランドスラムの勝利がどれだけ大事か、ということです」

 さらに言えば、来年のリオデジャネイロパラリンピックで表彰台に立つためには、組み合わせが有利になるシードに入っていたいところ。トーナメントのシードはパラリンピック1週間前の大会までが選考対象になると思われ、やはりグランドスラムに出場し、世界ランキング4位につけておきたいところだ。

 このように、2015年の最終戦でありながら、パラリンピックシーズンを占う意味でも重要な"スタート"となる今年の世界マスターズ。「(予選)ラウンドロビンで2勝して決勝トーナメントに進む」。明確になったビジョンに向け、追いこむつもりだ。

 眞田は、世界でもトップクラスの威力と重さを持つフォアハンドが武器。より理想のパフォーマンスを引き出すため、今シーズンは5月のジャパンオープン後からこれまで上半身に頼っていた動きを、体幹を鍛えて足腰まで使うプレースタイルにシフト。切断している右足も左足と同じように踏ん張れるよう、筋力トレーニングに励み、それに合わせて車いすの座面部分のセッティングも変更した。車いすが選手の『脚』となるスポーツだけに、ほんの少しでも調整を間違えばパフォーマンスが落ちるリスクもある。それでも、眞田はチャレンジし続ける。

「私の座右の銘は"現状打破"。常にそれを心掛けています。今日のセッティングのフィーリングがすごく良くても、明日は変えます。今の自分に、明日の自分は勝たないといけないからです。失敗だったと思うことがあっても、試行錯誤しながらいいと思ったことに取り組んでいきます」

 眞田はこう続ける。

「まだまだ自分のものになっていないという感覚があるので、ここが伸びしろなのでは。来年の全豪オープンやリオにつなげられればと思っています」

 国枝も「リオでの活躍が期待できる選手のひとり」と太鼓判を押す。今後のさらなる飛躍に注目したい。

荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu