スズキ本社(「Wikipedia」より)

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 東京証券取引所と金融庁が策定した「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」が6月から運用開始され活気づいてきたのが、株主への高い配当や経営者の退陣を迫る「物言う株主」、いわゆるアクティビストだ。リーマン・ショック後はかつての勢いを失っていたが、コーポレートガバナンスの強化を重要施策に掲げる安倍晋三首相の方針とうまくマッチし、再び出番を迎えた。

 8月3日付ロイター記事は、米投資ファンドのサードポイントがスズキの株式を保有していることが、7月31日付の投資家向け書簡で判明したと報じた。

「サードポイントは書簡で、インドの自動車市場は高い成長が見込まれるにもかかわらず、同市場で45%のシェアを持つ最大手のインド子会社マルチ・スズキの価値がスズキの株価に反映されていない点などに言及。サードポイントの試算では、スズキが全額出資するインド工場やマルチ・スズキから得るロイヤルティ収入など、スズキのインド事業の資産価値はスズキ本体の時価総額を上回るとも説明」(同記事)

 スズキは11年11月、独フォルクスワーゲン(VW)との業務・資本提携の包括契約解除を決め、VWが保有するスズキ株19.9%の返還を求めて国際仲裁裁判所に仲裁の手続きを申請した。鈴木修会長は今年6月26日の株主総会で係争は諸手続きがすべて完了し、結論待ちの状態だと述べた。そして国際仲裁裁判所の8月29日の決定に従い30日、VWが保有する株式をすべて買い戻すと発表した。

 スズキの株主は、VWとの係争が続く限り株価上昇に伴う利益を控えめにしか享受できないでいた。そこで株主還元を要求する絶好のチャンスとサードポイントは判断し、スズキ株式を買ったとみられる。

 スズキの15年3月期の配当性向は15.6%で、16年3月期は13.8%を予想。トヨタ自動車や日産自動車の配当性向がそれぞれ29%、30%。スズキはほぼ半分の水準にとどまっている。サードポイントはスズキに対して、VWから買い戻す株式はすべて消却すべきだと主張している。消却で株式を減らし、資本効率を高めるよう求めたのだ。

●ソニーでは20%近いリターン

 サードポイントはダニエル・ローブCEO(最高経営責任者)が率いる投資ファンドで、安倍政権の経済政策を高く評価している。資本効率を高める政策に共鳴しているわけだ。

 13年5月にソニー株を大量に取得して日本市場で知られる存在となり、ソニーに対して映画・娯楽部門の分離などの経営改革を求め注目を集めた。エンタテインメント事業の分離、米ニューヨーク市場への上場は実現しなかったが、高値で売り抜けた。14年10月に公表した投資家向け書簡では、ソニーへの投資で20%近いリターンを得たことを明らかにした。

 13年10月にはソフトバンクの株式を1010億円投じて取得した。ローブ氏がソフトバンクの孫正義社長と面談し、経営戦略に共感したと伝えられている。

 今年2月には産業用ロボットメーカーのファナックに手元資金が積み上がっていることを批判して、株式還元を要求した。ファナックは5月、大幅増配と自社株買い、金庫株の消却を発表し、株主還元策を強化した。

●取得を公表=売却準備のサイン?

 サードポイントによるスズキ株式取得が明らかになったことを受け、8月3日のスズキ株は一時、前営業日比4.7%高の4525.5円をつけた。

 物言う株主の大量保有をきっかけに株価が上昇する事例が目立っている。

 M&Aコンサルティング、いわゆる旧村上ファンド代表の村上世彰氏と、村上氏と関係が強い会社(レノ、C&Iホールディングス、南青山不動産の3社を含む)が買った銘柄は軒並み値を上げた。

 7月13日に村上氏の保有が明らかになった半導体商社エクセルは翌日、一時21%高。村上氏の長女・絢氏がCEOを務めるC&Iホールディングスが、世彰氏ら4人の社外取締役選任を求めて臨時株主総会の開催を求めた電子部品商社の黒田電気は、昨年末と比べて株価は約5割急騰した。役員を送り込むことには失敗したが、投資としては成功である。

 6月のコーポレートガバナンス・コードの適用をきっかけに、一般投資家にも株主還元を求める機運が広がってきた。「株主還元」は物言う株主の常套文句だが、彼らの最終目的は株価の上昇でリターンを得ることにある。株価が上昇した時点で売り抜けるのが鉄則だ。外資系証券会社のアナリストは「取得したことを公表するということは、すなわち、彼らは持ち株を売却する準備が整ったということだ」と辛辣な見方をしている。
(文=編集部)