言葉に頼りすぎず、手で応える。広島のリラクゼーションサロン「もみ亭」が、オールハンドを貫く理由
新型コロナウイルスの影響が残る2021年11月、広島市中心部に「もみ亭 幟町店」がオープンしました。美容機器や複合メニューを取り入れるサロンが増える中、もみ亭が選んだのは、人の手で身体に触れ、その日の状態に合わせて施術を組み立てることでした。中国出身の施術者を含むスタッフが、言葉だけでは捉えきれない身体の反応と向き合いながら、手の技術を磨いてきた歩みを紹介します。
言葉だけでは分からないこと
もみ亭で働いてきた施術者の中には、日本語での細かなやり取りが得意ではない者もいました。お客様が伝えようとする微妙な感覚や、好みの力加減を、言葉だけで正確に汲み取ることは簡単ではありません。
しかし、これは日本語が得意かどうかだけの問題ではありません。日本語が通じる者同士であっても、自分の身体の状態や感覚を、すべて言葉にできるわけではないからです。言葉を交わせることと、身体の状態を正確に伝え合えることは同じではありません。
圧が強すぎるときに、身体がわずかにこわばる。呼吸が浅くなる。触れた場所によって力が抜けたり、反対に緊張したりする。施術中には、言葉になる前の反応が表れます。
必要な希望や体調は言葉で確認する。そのうえで、呼吸や筋肉の反応、身体の緊張を手で確かめながら、圧の強さや角度を変えていく。言葉に頼りきれなかった経験は、やがて、言葉だけに頼らない施術へとつながっていきました。
身体の反応を読み取ることは、圧の強さを変えることだけではありません。お客様の立場に立てば、寒さを感じていないか、同じ姿勢が負担になっていないか、安心して身体を預けられているかということも、施術と切り離すことはできません。
寒い日には、ホットストーンを手に持っていただき、湯たんぽを背中や足元に置く。室温やタオルの掛け方、施術ルームの静けさにも気を配る。言葉になる前の小さな不快感に気づき、取り除いていくことも、相手の身体に向き合う手の仕事の一部です。
手先で押すのではなく、身体全体で圧を届ける
もみ亭の施術は、特定の国や一つの流派の技術を、そのまま再現したものではありません。日本で親しまれてきたもみほぐしを土台に、深部へ圧を届ける手技、身体を大きく動かすストレッチ、オイルリンパの滑らかな動きを重ねながら、広島のお客様の身体に向き合う中で形づくられてきました。
手先だけで押し続けるのではなく、拳、指、肘、掌、前腕を使い分ける。施術者自身の身体を波のように動かし、重心を移しながら、圧を一点にぶつけるのではなく、奥へ浸透させていく。見た目にはダイナミックでありながら、触れている場所では細かな調整を繰り返します。
この動きは、手順を覚えるだけでは身につきません。強い圧を長時間入れてもリズムを崩さない体幹と、相手の反応を読み続ける集中力が必要です。もみ亭で「施術者は職人であり、アスリート」と捉えているのは、そのためです。
施術時間を、身体のために使い切る
もみ亭では、施術中の会話や説明を必要以上に増やしません。会話を否定しているのではなく、お客様から預かった時間を、できる限り身体に触れる時間へ充てたいからです。決められた手順を同じ順番で行うのではなく、その日の重さや緊張に合わせ、時間の使い方も変えていきます。
目指しているのは、施術が終わったときに身体が軽く動く状態です。もみ亭では、その状態を「軽態」と呼んでいます。強い圧を入れること自体が目的ではありません。深く届く圧、全身を使う動き、オイルの滑らかさ、静かに身体を預けられる空間。そのすべてを、身体を軽くするという一つの目的へ集めています。
広島で磨いた技術が、訪日客にも届き始めた
現在、幟町店には訪日旅行者から予約が入るようになりました。長時間の移動や連日の歩行で疲れた身体に、強い圧や長い施術時間を求める方もいます。広島滞在中に複数回足を運ぶ旅行者も現れました。
訪日客を受け入れるためには、予約方法や料金、施術内容、体調に関する注意事項を、分かる言葉で伝え合える環境が欠かせません。もみ亭では、英語、フランス語、韓国語、中国語のWebページを整え、WhatsApp、LINE、WeChatなどの問い合わせ手段を用意してきました。
来店前の不安や必要な情報は、言葉で一つずつ確かめる。そして施術が始まれば、呼吸や筋肉の緊張、圧に対する反応を手で確かめながら、その人の身体に合わせて施術を変えていく。それが、もみ亭の訪日客の受け入れ方です。
これは、インバウンドの流行に合わせて新しい技術をつくったという話ではありません。広島のお客様に向き合う中で磨いてきた施術が、Deep Tissue Massageを探す旅行者にも見つけられるよう、入口を整えてきたということです。
求める人がいる限り、手の仕事は続く
人の身体は一人ひとり違います。同じ人でも、疲れ方はその日によって変わります。だから、決められたプログラムだけで、すべての身体に応えることはできません。
言葉は必要です。ただ、言葉だけでは分からない身体の反応もあります。目の前の身体に触れ、動きを感じ、圧を変え、その人に必要な施術を組み立てていく。それが、もみ亭が続けてきた手の仕事です。
これからも、疲れた身体を抱えて、もみ亭を訪れる人がいます。求める人がいる限り、もみ亭は手を止めません。
手の技術は、守っているだけでは残りません。目の前の身体に応えるために使われ、その積み重ねの中で磨かれ、変わり続ける。もみ亭はこれからも施術を続け、その手の技術を進化させていきます。