by Héctor García

Googleは会社の経営において全く新しいマネージメント方法を行っており、ヒエラルキーのない、開発者が活躍できる環境を作っていることでも知られています。採用や面接も「なるべく質の良い人を採用すべき」という考えに基づいて行われるのですが、その採用手法について人事管理部のラズロ・ボック氏が公開しています。

Here's Google's Secret to Hiring the Best People | WIRED

http://www.wired.com/2015/04/hire-like-google/

◆Googleが採用する「構造化面接法」とは?



by Aray Chen

1998年に行われた研究では、過去85年間に行われた研究結果をメタ分析することで「評価がどのくらい人のパフォーマンスを予測するか」ということが調べられました。そして19の評価法が分析されたところ、典型的な就職面接の方法では人が就職した時のパフォーマンスを予測することが難しい、ということが判明しています。

調査の中で、最も「効果的な評価法」だとされたのは、実際に職務の一部を行ってもらうという「仕事サンプルテスト」で、これは一般的に仕事のパフォーマンスを29%予測できるとされています。しかし、実際に職務を遂行するには他者との協力が必要なため、仕事サンプルテストをもってしても完璧にパフォーマンスを予測することはできません。

仕事サンプルテストの次に効果的とされたのは一般的な認知能力テストで、予測率は26%。認知テストはIQテストと似たようなもので、正解と不正解を認識する能力を調べます。仕事の成功に必要な「その人の持つ純粋な知能や学習能力」を調べられるのは良い点ですが、一方で差別を生みやすいという問題点を持っています。例えば、アメリカの大学入試時に考慮されるSAT(大学進学適性試験)は認知テストの一種ですが、女性やマイノリティの学生の能力を測るには不利な内容になっており、「大学入学後1〜2年間の成績を予見するものでしかない」として近年は疑問視されています。

そして、一般的な認知テストと同程度の効果があるという結果が出たのが「構造化面接法」です。構造化面接法には「行動的面接」と「状況的面接」の2種類があり、「行動的面接」は面接を受けている候補者に対して「あなたの過去の業績を説明してください」「その業績をこの仕事にどう生かせると思いますか?」という質問を投げかけるもので、「状況的面接」は「もしこういうような状況になったらどうしますか?」というように、仮定の状況に対して候補者に回答を求めるものです。この方法によって、面接者は候補者の考え方や誠実さなどを測れると言われています。

構造化面接法は候補者に対して公平であるのに加え、面接者にとっても候補者にとってもよい経験となります。では、なぜ構造化面接法があまり採用されないのかというと、それはひとえに、正しい方法で実行することが難しいため。面接者自身が候補者に集中し、メモを取りながら彼らをテストする必要があり、また候補者があらかじめ解答を用意しないように連続的に質問を行う必要もあります。

職務面接のゴールは「いったん仕事についた時のパフォーマンスを予測する」ということです。そして過去の研究では、面接において1つの方法を採用するのではなく、いくつかの方法を組み合わせるのがより効果的と示されているため、構造的面接法1つに固執しなくてもOK。ボック氏の場合は、構造化面接法と認知テスト、責任感を測るための誠実度検査、リーダーシップ検査を組み合わせて面接を実行したとのこと。この時にGoogleで開発されたのが「qDroid」という社内ツール。qDroidは、面接者が求人対象となる仕事のポストを決め、そのポストにつくために必要な特性をチェックすると、面接ガイドと仕事のパフォーマンスを測るための質問がメールで送られてくるというものです。これによって優れた質問を導き出すのが劇的に簡単になるとのこと。

また、面接者が他の社員とも質問内容を共有し、実際に面接する人以外の人が関われるようにすることで、面接における質問が多面的な内容になるようにもしています。例えば面接者が「あなたの行動がチームにポジティブな影響を与えた時のことを教えてください」という質問を考えついた時に、他の誰かが「その時あなたの目的は何でしたか?そしてなぜその行動を取りましたか?チームはどのように反応しましたか?」と質問をブラッシュアップさせていくことが可能になるわけです。

◆退屈な質問が優れた回答を導きだす



by Alex France

上記で述べたような質問は一般的なもので、人によっては退屈に写るかもしれません。しかし、一般的で退屈な質問こそが、ありふれた回答と優れた回答とを明確に区別します。

例えばテクニカル・サポートのポストに対する候補者を面接した場合、「これまでバッテリーがおかしいと言うお客さんにどう対処しましたか?」という質問への一般的な回答は「お客様が頼んだ通りにノートPCのバッテリーを修復しました」というものです。しかし、そこに「過去にお客様がバッテリー寿命についてグチをこぼしており、旅行したことについても触れていたので、もしもの時に備えてスペアバッテリーを持っていきました」と回答する人が現れたら、それは雇うべき人です。退屈な質問は、相手の技量を見極め、混乱を防ぐことのカギなのです。

会社によっては「あなたの労働観を表す歌はなんですか?」というユニークな質問を行う所もありますますが、仕事のポストにピッタリな人を見つけるには、なるべく自分の偏見や先入観が入らない質問をすべきです。

そして、面接が終わった後は回答を点数化します。例えば認知テストは「候補者がどのくらい問題点を理解しているか」といった5つの要素で評価されます。この時、5つの要素について、面接者は候補者がどのくらい能力を示したのかを正しく書き留める必要があります。その評価を見て今度は面接者とは別の「評価者」が雇うべきか雇わないべきかの評価を下すわけです。

「質問を作成し回答に点数をつける」という方法を聞き、「よくある手法じゃないか」と考える人がいるかもしれません。しかし、「候補者に対して投げかけるべき質問を全て行い、全ての候補者について同じ基準で評価し、時間切れになることなく、機嫌が悪かったからといって厳しく当たらない人はどのくらい存在するでしょうか」とボック氏は語ります。自分の洞察が他の面接者の役に立つようにメモすることさえ、本来は難しいことなのです。

また、候補者を評価することだけではなく、「候補者があなたにホレるように仕向けること」も重要です。面接において、候補者は非常に無防備なポジションにおり、面接者と親密な会話を交わすことになります。候補者は自分の経験について他の人に話すため、よい面接のための投資は、十分に価値あることなのです。Googleの面接では80%の候補者が落とされますが、それでも落ちた候補者は他の人にGoogleを勧める、とのこと。

◆他人に面接を投げっぱなしにしないこと



by Pixel Pro Photography

どの会社にも成長する見込みのある上司や同僚は存在しますが、「自分のために動いていくれる人」というのは珍しいもの。仕事を行う上で「上司や同僚が有能であること」よりも大切なのは、そこに自分のために動いてくれる人がいるかどうかです。そのため、「あなたのために動く」というシグナルを候補者に送ることも大切。優秀な候補者は、面接者から学ぶものがないと判断すると離れていってしまいます。

また、実際に面接を行うグループと全く関係のない人を関わらせることも大切です。Googleの場合は、セールスのポストについて候補者を面接する場合、法律チームや広告チームの誰かに関わってもらい、利害関係のないところからの意見を聞きます。候補者と共通点を持たない方が、間違った判断の影響も受けにくいわけです。

言葉にすると簡単に聞こえますが、通常マネージャーは自分で選んだ人を雇えないという状況を嫌い、面接者は「フォーマットに従え」という意見や「フィードバックに従え」という意見を嫌がります。2000年に発表された研究では面接の結果は最初の10秒に左右されるということが分かっており、意味ある面接を行うことは非常に難しいことですが、「質のいい面接のために戦ってください」とボック氏は語っています。