公式ホームページより

写真拡大

 静岡県は御殿場市の富士山御胎内清宏園(ふじさんおたいないせいこうえん)には一際奇妙な体験のできる神社があります。それが御胎内神社です。

 こちらはかつて、宝永4年(1707年)に起こった富士山の大噴火によって形成された溶岩地帯にありまして、今ではその上を多くの樹木が生い茂る天然の自然公園となっています。御胎内神社はそんな園内に鎮座しているのですが、こちらの何が面白のいかというと、神社の一部がそんな天然の溶岩で形成された洞窟の中にあるのです。

 確かに、普通に園内を歩いていると、一般の神社に見られる鳥居と拝殿を見ることも出来ます。しかし、その拝殿を正面にした時に、右隣りにポッカリと小さな穴があります。こちらが公園や神社の名前にもなっている御胎内と呼ばれる洞窟です。

 御胎内とは、その名の通り、親の胎内を表していまして、父の胎内に始まり、母の胎内を通じて外に出る、言わば、出生の旅路を擬似的に体験できる場となっております。そして、その洞窟内部に本殿が鎮座しています。

 ただし、その内部には一切の電飾は施されておりませんので、内部はまったくの暗闇。しかも、入ってみるとその内部は思いのほか狭く、複雑な洞窟内を手探りで行くことになります。しかし、それでは内部に鎮座する本殿を拝むことができません。ですので、こちらは公園の入口で明かりの代わりになるものを入手して臨むのです。

 その明かりは、10円でろうそくを手にするか、50円で懐中電灯を借りるかの二者択一。ここでケチってろうそくを手にするとのちのち後悔することになります。なぜなら狭い入り口から吹き込む風でろうそくの日は瞬く間に吹き消されますので(笑)。しかも、途中、膝を折り曲げて地面を這うほどの低い天井にも臨みますので、ろうそくを片手に無理な格好を強いられるなどは、まこと困難の極み。

 ですので、ここは無難に懐中電灯と言いたいところですが、実際はそれでも補えないほどの漆黒の暗闇ですので、ここを熟知されている方は、照度の高いヘッドライトをあらかじめ持参して臨んでおります。

 まぁ、それぐらい困難を伴った方が、生まれてくる苦労も知れて良いのかもしれませんが、そもそも、こちらは空海が弘仁年間(810年〜824年)に開いた神仏並祀の社と呼ばれているようで、その歴史は古く、修験者たちの修行の場でもあったとも言いますから何となく理解できるというもの。

 私が行った時は前で子どもが泣き叫んでおりましたが、洞窟から出てくる際には、その明かりのありがたさと共に生まれた喜びを再び実感できるのかもしれません。

 洞窟内には本殿のほかにも安産石などもございますので、子授かりや安産祈願に臨みたい方などがいらっしゃいましたら、是非一度参拝されてみてはいかがでしょうか。もちろん、カップルで行っても、暗闇体験は両者の結びつきを高める最高の演出になることも間違いなしです。

著者プロフィール

一般社団法人国際教養振興協会代表理事/神社ライター

東條英利

日本人の教養力の向上と国際教養人の創出をビジョンに掲げ、を設立。「教養」に関するメディアの構築や教育事業、国際交流事業を行う。著書に『日本人の証明』『神社ツーリズム』がある。

公式サイト/