東邦vs豊橋工
今季春季県大会3回戦の再現である。その時は、豊橋工が東邦に食い下がって、7回までリードし、一旦追いつかれても9回に再び突き離したが、東邦が9回裏2死走者なしから再び同点に追いついて、10回にサヨナラ勝ちという大接戦だった。その再現となる好試合が期待された。
東邦は最速140キロ以上をマークするという切れ味のいい右腕大井 友登君、豊橋工は2年生で183?の森 奎真君で春も東邦相手に好投を見せて自信を得ている。
春季大会では林泰盛監督も、「勝てませんでしたけれど、この好投は森には自信にはなったと思います。ただ、勝てなかったということは何かが足りなかったんだと思います」と、語っていた。その何かを求めて励んだ3カ月の成果を見たいと思っていた。
立ち上がりはともに3者凡退でまずは、無難な滑り出しの試合となった。
しかし、2回の攻防はいきなり明暗を分けた。まず、豊橋工は4番世古君、5番林君が連続安打で無死一二塁とする。しかし、ここから大井君が踏ん張って2三振などで切り抜ける。その裏の東邦は1死から、5番峰君が中前打し2死後溝口君も四球で一二塁、ここで8番松原君が内側少し高めに甘く入ってきたところを捉えて左越二塁打して、2者を帰して東邦が先制した。
昨秋の県大会優勝校でもあり、今春もベスト4に進出している東邦。やはり、総合力では上回るだけにこの2点リードでかなり優位に試合を運んでいくのではないかと思われた。
豊橋工としては、力み過ぎず8割くらいの力で投げてくる大井君を打ちきれないまま前半は0に終わった。
それでも何とか食い下がりたいという意欲を見せて豊橋工は6回、1番からの好打順で生田君が中前打するとバントで二塁へ進む。穴見君は三振で倒れたものの、ここまで2安打と当たっている世古君はこの打席でもしぶとく三遊間を破って、二塁走者を迎え入れて1点差とした。
2回に2点は失ったものの、その後も丁寧な投球を続けていた森君。角度を生かしたストレートと鋭く曲がるスライダー、大きくゆっくり曲がる大きな2種類のタテの変化球が持ち味。これを巧みに投げ分けていた。また、バント処理などマウンド周りのプレーも無駄がなくきちんとしていた。
その森君の好投に何とか報いたい豊橋工打線は9回、1死から4番世古君がこの日4本目の安打で出塁。勝負を賭けた林監督はここで一塁走者に代走仲鉢君を送る。これが生きて、併殺打かと思われた打球を東邦野手が慌ててファンブルして一二塁となる。代打矢野君は倒れたものの、2死一二塁から7番江川君が左翼手の頭上を破る二塁打を放って2者が帰り豊橋工が土壇場で逆転した。
春季大会で大苦戦した際に東邦の森田泰弘監督は、「公立校にもこういう素晴らしい投手がいますから、怖いですよ。夏だったら、もっと追いつめられてたいたかもしれません」と、語っていたことがあったが、まさにその通りのことになった。
それでも、何とか9回に逆転サヨナラをしていくあたり、やはり名門東邦だという存在感を示した。
9回の東邦は先頭の代打柴山君が右越二塁打すると、松原君は送りバント。これをいちかばちかの勝負で三塁へ送球した森君だったがセーフとなり無死一三塁。続く代打細野君は四球となり無死満塁。1番鈴木大君は迷うことなくファーストストライクを振り切って、打球は右翼手頭上を破っていくサヨナラ打となった。
豊橋工はこれで、2季連続で東邦にサヨナラ負けということになった。
それでも、普通の公立工業校で、平日練習は他の部と併用を余儀なくされるという環境の中で、これだけのチームを作り育ててきた。森君と、この日はマスクをかぶることはなかったが背番号2をつけている正捕手の彦坂拓真君に、9回一時は逆転となる二塁打を放った江川君らが2年生である。彼らが中心になっていくであろう、秋の新チームも楽しみだ。何だか、すっかり豊橋工に魅せられてしまった。
この春の豊川の甲子園での活躍が、他の三河勢の刺激にもなって、愛知県の勢力構図にも新たな動きが見えてき始めているようだ。躍進する三河勢の一角に、豊橋工の名も挙げておかなくてはいけないのはもちろんのことである。
この夏の豊橋工は姿を消してしまったが、早くも秋の豊橋工が待ち遠しい。
（文＝手束 仁）
