日中友好会館の武田勝年理事長には、日中のビジネスの第一線で長期にわたり活躍した経歴がある。日本企業を優遇してほしいとは言わない。しかし中国側が経済と政治を絡めることがある。それだけは「やめてほしい」という。現在は、日中の友好を推進する立場だが、両国で考えが食い違う場合も多い。武田理事長は、「こちらの真意を理解してくれる人と出会うことは、必ずある」と主張。そういう人を選んで、自らの考えを丁寧に説明するようにしているという。

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  日中友好会館の武田勝年理事長には、日中のビジネスの第一線で長期にわたり活躍した経歴がある。日本企業を優遇してほしいとは言わない。しかし中国側が経済と政治を絡めることがある。それだけは「やめてほしい」という。現在は、日中の友好を推進する立場だが、両国で考えが食い違う場合も多い。武田理事長は、「こちらの真意を理解してくれる人と出会うことは、必ずある」と主張。そういう人を選んで、自らの考えを丁寧に説明するようにしているという。

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――中国には、納得のできない規則や規制が多いという人もいます。

武田:それは違うと思いますよ。規則とか規制は国の主権ですからね。中国自身が中国の規則を作る。中国でビジネスをする以上、それが与えられた環境と考えるべきです。ルールはルール。厳然として存在する。だったら、柔軟に対応しようと考えることです、違法ではない範囲で、上手にルールに対処することを考えるべきです。

――上海自由貿易試験区では、規制緩和を進めつつあるようですね。

武田:特に、金融の分野に注目すべきではないでしょうか。為替管理や金利についてですね。中国は確かに、国際レベルから見ればこの分野で遅れています。

  金融というのはセンシティブな分野で、影響も大きいですからね。上海の特定区域で試験区を作ったのは、かつて香港に近い広東省で経済特区を作ったのと同じです。うまく行くようだったら広めていこうということです。上海自由貿易試験区は、中国経済の「戦略特区」と考えればよい。

  それから金融を発展させるのは、人材の問題でもあります。専門分野の優秀な人材は中国にとってどうしても必要、育成せねばなりません。実務、英語などの言葉、交渉力などをすべて兼ね備えた人材が必要です。理論だけでもだめ、英語圏の人と会話ができるだけでもだめです。

  ですから私は上海自由貿易試験区の、金融分野での人材育成の場としての役割に注目しています。今は試験区として実施していますが、将来は全国に広めていくことが前提としてあるはずです。

――日中関係、あるいは日中経済について中国側に求めたいことはありますか。武田:日本企業を特に優遇してほしいとは、まったく思いません。日本以外の外国企業、そして中国企業と同じ条件で戦えるようにしてもらえれば、それでよい。同じ条件で競争させてもらえて、仮に敗れたらこちらが至らなかっただけのことです。誰にも文句は言えない。

  ただ、尖閣諸島の問題が出来て「日本だからだめ」なんて扱いも出てきました。経済に政治を持ち込むことはやめてほしいですね。頭が痛い問題です。

――尖閣諸島の問題は、どう解決していけばよいのでしょう。

武田:日本側も中国側もこれまでの過程で、互いに主張したいことはすべて主張しました。双方がこれ以上主張しても、問題は解決しません。

  例の棚上げ論ですが、日本でも矢吹晋氏のように「棚上げ論はあった」と主張する人はいますね。私自身がその説を確認することはできませんが、双方にいろいろな主張があることは事実です。

  日中双方とも言いたいことはすべて言ったはずですから、水面下ではいろいろと交渉をしているのではないのでしょうか。素人考えですが、安倍首相と習近平主席の決断次第というところがあるように思います。そのためには両首脳の周囲のおぜん立てが大切ですね。

  なにしろ、下手な妥協をすると政権が持ちません。これは中国も日本も同じです。両国が国交を正常化した時と同じです。国内を納得させられる、国内に向けて説明のつく結論が必要になります。私は日中双方の外交当局が実際には、相当に詰めて話をしているものと期待しています。

  まあ、私どものやっていることは、本当に草の根でしてね。政治に対して提言をしたり何かの交渉に出ていくことは、ありません。

  日中の青少年、あるいは留学生に互いの国や社会、文化を知ってもらうことに焦点を絞って活動しています。単純に好きになっていただいてもよいのですが、中国人が日本について悪い点があると思ったら、指摘してもらうこともよいと思いますよ。そこで議論ができればよい。

  そういう意味で、私どもは中国の青少年を対象に、知日派を育成する事業を続けていると言えるわけです。

――個人レベルの議論でも双方が感情的になり、激しい対立になってしまうことはないのでしょうか。

武田:いろいろなケースがあるでしょうが、私は自分自身の戒めとしては、だれに話すか相手を選ぶようにしています。こちらの真意を理解してくれる人と出会うことは、必ずあります。そういう人を選んで、丁寧に説明するようにします。

  日本人として中国人には耳障りな考えがある場合、だれにでも言えばよいものではないと思います。そのあたりの配慮は必要と思っています。(おわり)

1966年東京大学経済学部卒業、同年三菱商事入社。1968−1970年、台湾師範大学国語中心で中国語研修。1977年初訪中後、1978年には宝山製鉄所第一期工事のプラント受注交渉に参加。その後、広州事務所長、北京事務所機械部長、上海三菱商事総経理、中国総代表を歴任し、2007年帰国までの中国駐在期間は合計16年に及ぶ。中国の改革・開放政策による歴史的変化を現場で体験して来た。2010年8月より日中友好会館に勤務し、2012年4月理事長に就任。青少年交流を中心に、日中間の各種友好交流事業に注力している。(聞き手・構成:如月隼人)