By Davide Restivo

布団に入って眠ろうとしても、気になることを考え出すと知らない間に試行錯誤しすぎて、気づいたら時間がかなり過ぎてしまっていた、ということがたまにあります。そんな考え出すとなかなか眠りにつけない「哲学に関する9つの思考実験」をgeorgedvorskyが公開しています。

9 Philosophical Thought Experiments That Will Keep You Up at Night
http://io9.com/eh-wont-really-keep-me-awake-1-mafia-solved-it-have-1345062629

◆1:囚人のジレンマ

By Luca Rossato

「囚人のジレンマ」とは、ゲーム理論における重要な概念の1つで、ある状況下に置かれた2人の囚人が沈黙を守り続けるか、罪を認めてしまうかという問題です。ただし、囚人は共犯者がなんと答えているかわからないという状況にあります。

囚人のジレンマを簡潔に説明すると、2人の銀行強盗が逮捕され別々の取り調べ室に連れて行かれます。取調室で警察は2人に「罪を認めるか、黙ったままいるのか選ぶことができる。もしお前が罪を認めて、共犯者が認めなければ、お前の懲役を共犯者にかぶせてやる。つまり、お前は釈放だ。2人とも罪を認めなければ本来の懲役より短くしてやる。もし2人とも罪を認めれば、本来の懲役そのままになる」と提案します。

囚人にとって最善の選択は、お互い罪を認めずに、短い懲役を受け入れることに見えますが、自分の利益のみを追求する限り互いに裏切りあう、という結末が発生します。これがジレンマと呼ばれるゆえんです。囚人のジレンマは、不十分な情報しか与えられず、自身およびもう一方の人物の意志決定が結果を大きく左右してしまう場合において、人間は自分の利益を優先してしまい、結果的に最善の選択をできない、ということを教えてくれるとのことです。

◆2:マリーの部屋

By Socar Myles

「マリーの部屋」は、フランク・ジャクソンによって行われた思考実験です。マリーという女性は白黒の部屋で生まれ、白黒のテレビのみをみて育ちました。マリーは生まれてから1度もを見たことがありません。マリーは白黒の本を読んで勉強し、視覚の神経生理学についての専門的な知識を持っています。例えば、赤いトマトを見たとき、色に関する情報がどのように神経を伝わり、脳に伝達され、目で赤い色を視認できるかのプロセスについて熟知しています。では、マリーが白黒の部屋から飛び出し、外の世界で初めてを視認するとどうなってしまうのでしょうか?マリーは視覚の経験からさらに何かを学べるのか?という思考実験が、マリーの部屋です。

マリーは視覚の神経生理学について誰にも負けない専門知識を持っていますが、「色を視認する」という行動を経験したことがありません。この思考実験は、「主観的な経験」が「客観的な観察」からは知り得ない情報を含んでいるということを示しています。日本のことわざにも「百聞は一見にしかず」という似たようなものがあります。

◆3:箱の中のカブトムシ

By Gustavo Durán

「箱の中のカブトムシ」は私的言語論として知られており、マリーの部屋と少し似ているとのこと。ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインによって提案されたこの思考実験は、まず数人の人が集まったグループを思い浮かべます。グループの各人はカブトムシが入った箱を渡されますが、誰もカブトムシがどのような形をしているか知りません。また、それぞれの箱には違う形のカブトムシが入っており、他のグループメンバーには、自分の箱に入っているカブトムシについてのみ話せます。ですので、グループ内のメンバーが得たカブトムシの情報はそれぞれ違っており、彼らにとってカブトムシは、単に「箱の中に入っている物」を示します。

この思考実験は、カブトムシは人間の心に似ており、他の人間の心は当人にしか知り得ず、他人は何を考えているか予測できないものである、ということを示しています。他人が経験していることを視認できても、心の中で経験に対してどのように感じているか、などは全くわかりません。この概念は、意識問題やクオリア体験に強く関係しているとのことです。

◆4:中国語の部屋

By SubZeroConsciousness

哲学者ジョン・サールが発表した中国語の部屋という思考実験は、まず1人の英語しか理解できないイギリス人を小部屋に閉じ込めます。部屋のドアからは1枚の中国語が印刷された紙が渡されます。イギリス人は、部屋の中に唯一置いてある、中国語に関するマニュアル本を見て、返事を書くというもの。しかしながら、そのマニュアルにはこの文字が書かれていたら、このような文字を書いてわたせ、などど書かれているのみ。イギリス人はマニュアル本を見て、外の人間と意思疎通していきます。外の人間は、部屋の中にいる人が中国語を理解している人であると思い込みますが、実際には中国語を理解できないイギリス人が、マニュアル通りの作業を繰り返しているだけです。

この概念は、イギリス人をCPU、部屋をコンピューターとするアナロジーになっています。プログラムは言語を識別できるかもしれないが、意味まで理解していないという、ある意味人工知能に対する無敵の理論であり、機能主義は間違っていると主張する概念であったとのことです。

◆5:経験機械

By Sudhee

哲学者ロバート・ノージックが著書アナーキー・国家・ユートピア内で提唱した経験機械とは、人間の脳に電極でアクセスし、希望するあらゆる経験を与えてくれる機械があるとしたら、人間は進んで実行するか?という映画「マトリックス」のような思考実験です。ただし、電極につながれている人間は、小さなタンクに閉じ込められ、現実世界で意識はありません。つまり頭の中でのみ自分が望むことを経験でき、実際には何もしていない、ということ。人間は本質的に、よりよいものを選ぶ性質を持っていますが、経験機械の場合、人間の尊厳はどうなるのか?という問題を提起しています。このため、哲学者の間では、なかなか答えのでない難問のようです。

◆6:トロッコ問題

By phill.d

トロッコ問題は、イギリスの哲学者フィリッパ・フットによって提起された倫理学に関する思考実験で、1台のトロッコがブレーキの故障により暴走、トロッコが勢いよく進む線路の先は2つに分岐していて、一方の先には5人が、もう一方では1人の作業員が作業中。この状況下で、分岐点のスイッチを動かせる人物はどのような行動を取るべきか、とういうもの。簡潔に言えば「ある人を助けるために他人を犠牲にしてもいいのか」ということです。

功利主義者であれば、1人を犠牲にして5人を助けるべきだ、という考えですが、義務論に従うと誰かを目的のために手段として使うべきではなく、何もするべきではないとのこと。この思考実験からは人間のモラルが、正と誤だけで判断できず、いかに複雑かということがわかります。

◆7:便器のクモ

By Vinoth Chandar

トマス・ネーゲルが論文内で提起した「便器のクモ」は、人生の意味について問いかける思考実験です。ある学校で夏休み期間に特別授業を行っていたネーゲルは、校舎のトイレで1匹のクモに遭遇します。クモは便器という汚い場所に住んでおり、とても人生を楽しんでいるようには見えなかったとのこと。数日後、ネーゲルはクモを助けだそうとしますが、誤って殺してしまいます。息絶えたクモは1週間後に掃除されるまで、床に放置され続けました。

ネーゲルは好意からクモを救い出しましたが、結果クモは死んでしまい、ネーゲルが望んでいたとおりにはならなかったのです。「便器のクモ」は、他者が本当に望んでいることをどうやって知りうるのか、という問題を投げかけているとのことです。

◆8:交換論

By Valerie

交換論は、「肉の味を全く気にしない」という人のみが住んでいる世界では、家畜としての動物が存在しないため、野生動物の数は減少する、という概念。かつて、イギリスの女性小説家ヴァージニア・ウルフの父であるレズリー・スティーヴンが1896年に書いた「Social Rights and Duties」の中で「菜食主義に関する議論は全くもって論外です。なぜなら、その議論は人間性から発生しているものだから。もし世界中の人々が、豚を食べることを禁じられているユダヤ教を信仰していれば、世界に豚はいなくなるでしょう」と述べています。

ウルフの主張は一見、矛盾しているように聞こえますが、そうではありません。例えば、貧困に苦しんでいる200億人が地球に住んでいることは、100億人の金持ちが住んでいるのよりも素晴らしいことでしょうか?100億人の金持ちがいる方が素晴らしいと思った人は、存在さえも許されなかった100億の命に関してどう思いますか?存在もしなかった命について考えることは、そもそも可能なのでしょうか?

◆9:原初状態

By Lotus Carroll

アメリカの哲学者ジョン・ロールズが提起した「原初状態」とは、人間が人の性格や人種・国籍・財産などの社会的立場についての知識を失った「無知のヴェール」に包まれている状況を指します。この状況下の人々によって選択される正義の原理は、平等な自由に関わる原理、政府による社会的・経済的不平等の分配に関わる概念に基づくとのこと。ロールズによれば、人間は基本的権利を保証し、公正な教育・雇用機会を与えてくれる社会システムを望む傾向があるそうです。

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