なぜ仕事ができる上司が少ないか
■ダメ上司でも、まずは褒めるべし
なぜこんなこともできない人が出世するんだろう――。そう思ったことがある人も多いでしょう。理由は大きく3つあります。
1つは、構造的に「能力のない人が上にいく」ようになっている会社が多いことです。特に中小企業ではそういう傾向があるかもしれません。
営業職の場合、「できる営業マン」は、会社としてはできるだけ現場に置いておきたいもの。管理職になって現場を離れると、会社の売り上げが落ちかねないからです。成績のいい営業マンは、現場で仕事をしながら部下の管理も担うプレイングマネジャーに留まることになります。
そうなると、たいした結果は残していないけれども、上の覚えがめでたい人が昇進することになります。このタイプは往々にして尊大な態度をとったり、おかしなことを始めたりして、現場の足を引っ張ってしまうんです。
2つ目は、プレーヤー時代は有能だったのに、上司になってダメになってしまうパターンです。私も営業マン時代、仕事上の悩みをいろいろ聞いてくれたよき先輩だった人が、上司になった途端、「俺に面倒を持ち込むなよ」というような“イヤな上司”になってしまった経験があります。
なぜこんなことになってしまうのでしょう。立場を自分に置き換えて考えてみてください。ただの先輩の立場なら、後輩がリスクのある企画をやろうとしていたら、気軽に「やってみろよ」と言えるかもしれません。しかし、上司になると、部下が何か失敗を犯した場合、その責任は当然上司側にふりかかります。さらに、その上の上司からの「数字を達成しろ」というプレッシャーもある。1先輩でいたころと同じ“いい人”でいることは案外、難しいのです。
3つ目は、そもそも上司には変わった人が多いということです。どこの会社でも、その人にしかできない無手勝流で結果を残す人がいます。私もかつての上司から、「食事どきにアポなしでお客さんの家に行って、飯を食わせてもらってこい」と言われたことがあります。信じられませんが、その人は実際にそうやって契約をとっていました。
こういう上司は営業マンとしては優秀かもしれませんが、部下をマネジメントする能力には欠けています。名選手、必ずしも名コーチにあらず。そのうえ、独自の見方で部下を評価しますから、変な人が出世し続けることになります。
しかし、上司を変えることは難しい。上司が自らを省みて変わってくれることも期待できない。それなら、自分の考えを変え対処するしかありません。
能力がない上司は、部下に実績を上げられすぎると「自分の立場がない」と考える傾向があります。そうすると、資料の細かい部分を指摘して何度も再提出させるなど、部下の仕事の妨害をします。
そうさせないためには、まず上司の立場を立ててあげることが大事です。上司がこれまでどういう仕事のやり方をしてきたのかを周囲に聞き、それを踏まえたやり方に変えてみましょう。
第三者を介し、上司を褒めることも有効です。上司と関わっている取引先や先輩など同部署の人たちに、あえて「その上司がいかに素晴らしいか」を伝えるといいでしょう。こうした言葉はいずれ上司の耳に入ります。
どんな上司でも、まずその人を認めて、その指示を尊重する態度を見せましょう。指摘が細かい人には細かい仕事をする、報告しろとうるさい人にはこまめに報告する。そのうえで、うまく利用すればいいのです。
たとえば、どうしても商談の場に顔を出したがるけど、空気をぶち壊すような上司なら、準備をすべて整えて「もう契約書にハンコを押すだけ」という段になってから呼べばいい。バカな上司はそれだけで満足するものです。
間違っても上司の言うことを完全に無視してはいけません。バカな上司も使いよう、ですよ。
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大学卒業後、トヨタホームに入社。4年連続トップ営業マンとなる。独立後、営業サポート・コンサルティングを設立。関東学園大学講師も務める。著書に『人は上司になるとバカになる』ほか。
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(営業コンサルタント 菊原智明 構成=田中裕康)