出勤前のひと笑い、オフィス街で朝落語！
先日、東京を代表するオフィス街・丸の内で、ユニークな落語の上演があった。それが、『春風亭一之輔の朝落語「まるのいち」』。なんと、スタートは午前7時30分！
そんな早い時間の落語、いったい誰が見に来るのだろうか？ 会場である東京・丸の内レストラン「響 丸の内店」へ見に行ってみることに。
と春風亭一之輔さんも冗談交じりにいっていたが、30代のビジネスパーソンが中心だった。
まずは落語の世界をわかりやすく紹介した後、前座なしで演目「青菜」を披露。一之輔さんといえば、古典落語でありながら、独自の視点や現代的なギャグ、世間話を巧みに取り入れた独特の語り口調が持ち味。お客さんのなかには落語は初めてという人も多かったが、初心者にも実にわかりやすく、45分間の公演中、会場はたえず笑いに包まれていた。
さすがに、ここまで朝早い公演は一之輔さん自身も初めてだったというが、寄席やホール以外で落語をする機会はあるそうで、幼稚園や保育園に行くこともあるという。もちろん、客層によって当然、話し方などは変えており、
「子どもに聞かせるなら、ネタを変えたり、動作をオーバーにしたり。今日のように初めての方や若い方が多いときは、口調をいつもよりポップな感じにしたり、少しテンポをあげたりします。さじ加減ですけどね」
2012年に21人抜きの異例の大抜擢で真打ちとなった一之輔さん。そのさじ加減の絶妙さは、さすがのひと言につきる。
「寄席は理解しようと気負わずに見られるもの。毎日のようにやってるんで、ちょっと笑いにいこうか、試しに行ってみるか、といった感じで構えず足を運んでみてください」
まずは先日発売されたDVD、『一之輔落語集 「雛鍔/明烏」』（日本コロムビア）で予習してみるのもアリかも？
ちなみに今回のイベントを企画したのは、Theatre at Dawn（シアター・アット・ドーン）実行委員会。夜明け間もない朝のカフェを劇場に変え、出勤前のわずかなひと時に、演劇や音楽を体感してもらおうと、昨年始動したプロジェクトだ。
プロジェクトメンバーは年間約100本の演劇やミュージカルを鑑賞するという代表の平野美奈さんをはじめ、3名。みな、昼間は丸の内界隈で働く、普通の社会人だ。
「朝の公演があれば、出勤前に芸術に触れて、心のストレッチができるのではないかと考えました」
と平野さん。すでにジャズやエレクトーンコンサートなど、ジャンルにとらわれないエンターテインメント公演を企画・実施しており、今回の落語が5公演目。
「Theatre at Dawnの活動は仕事ではないので、あくまでワクワクベース。自分たちがワクワクすることが大事で、それを伝え、広げていきたいですね」
一之輔さんをはじめ、これまでの出演者へのオファーもいわば体当たり。なんのコネもなく、予算も潤沢ではないなか、思いだけでプロの心を動かしてきた。Facebookを中心とした口コミによる集客力が活動の支えになっている。
「街ににぎわいを作りだし、人の集まる場所を作りたいと思っています。いずれは、いろいろなカフェから音が漏れ聞こえてきて、今日はどこに行く？ なんて選べるようになるのが理想です」
Dawn（ドーン）とは夜明けの意味だが、エンターテインメントの夜明けであり、朝活の夜明けでありたい、とのこと。
夜は残業など仕事が入ってしまうこともあるが、朝は起きられさえすれば、時間が取れる人も多いはず。Theatre at Dawnでは今後もさまざまな公演をおこなっていくというから、マチネ（昼公演）、ソワレ(夜公演)に続き、オーブ（朝公演）という新しいカルチャーが丸の内に定着する日も近いかも!?
（古屋江美子）
