バス内の交通整理は、おばあちゃんにお任せ！
ある日のこと。始発停留所で、マウンテンバイクを1台ずつ抱えた若者が2名乗車してきて、このスペースにバイクごと並んで立ちました。さらにその次の停留所で、双子用のベビーカーが乗り込んできたことで、このスペースは満員御礼。
しばらくすると、ドア近くのシルバーシートに座っていたおばあちゃんが、くるりと体を向き変えたと思いきや、マウンテンバイクの若者2名にむかって、「そこにいる自転車の若いおふたりさん、何のために自転車を持っているんですか。自転車ごとバスに乗るなんて意味がありませんよ。ご自分で走りなさいな！」と、丁ねいな口調ながら一喝。まさか自分たちにとばっちりがくるとは思わなかったのか、若者は互いに顔を見合わせて困惑顔。「さあ、若者よ、ここでどう出る？」と言わんばかりに、乗客の視線も一斉にこのふたりに注がれました。
なにせ相手がベビーカー2台とおばあちゃんだけに、形勢不利と判断し、愛車抱えてさっさとバスを降りてしまうのだろうと予想したのですが、そう簡単には引き下がらないのがドイツ人。
「そもそも私たちの方が、始発の停留所から乗っていたんですから！」と、後から乗車組のベビーカー親子をけん制し、自分たちの権利を主張する構え。こうなると、仕切り屋おばあちゃんも、いよいよ本領発揮です。
仕切り屋「バスでどこまで行きたいんですか？」
自転車組「◯◯停留所です」
仕切り屋「あらまあ、それなら、停留所でせいぜい◯つくらいじゃないですか。自転車で走ればほんの数分でしょ」
自転車組「ほんの数分というのは、この停留所から計算するからですよ。私たちは、すでに始発から乗っているんです！ それに、わざわざ自転車用の追加料金まで払って乗車しているということを、ご存知ないんでしょうね」
仕切り屋「始発駅もなにも、そもそも自転車があるのに、なぜバスに乗るのかが疑問なんですよ」
以下、やりとり全文を掲載するにはいたりませんが、結末を明かしますと、憤まんやるかたない表情でバスを後にする、自転車2人組の悔しそうな後ろ姿と、乗降ドアが閉まるのと見届けた上で、静かに前に向き直ったおばあちゃんの後ろ姿。対照的な二者の後ろ姿をラストシーンに、この一件は幕を閉じたのでした。
前回のコネタで、小学生をバスから引きずり降ろしたおじいちゃんといい、ドイツの路線バスの秩序を仕切っているのは、頼もしいおじいちゃんとおばあちゃんなのです。
（柴山香）
