『旅だから出逢えた言葉』伊集院静 (著)/小学館

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春だ。花粉症になっていない私はのんきに「気持ちよく出かけられる季節だな〜」などと思ってしまう。

花粉症だとしても、4月の終わりから5月の頭には連休が控えているのだから、どこか行こうと計画を立てている方も多いだろう。

公園でピクニックやBBQ、飛行機や新幹線で旅行する中、移動時間や待ち時間など、のんびりと過ごす時間が必ず出てくる。そんな時間をどのように過ごすか。

よくみる時間つぶしの光景はスマホでゲームしたり、SNSをチェックしたり、ワンセグでテレビを観たり……。私もスマホをいじっていることが多いので、スマホは出かける時の必需品である。そして、もう一つの必需品は本。

なぜ本が必需品かというと、本に携わっている仕事だからというのもあるが、いつもと違う空間だからこそ、本を読むと想像力が掻き立てられるからでもある。非日常な空間で非日常なストーリーが合わさり、いつもよりも深く入りこめるところが外出時に本を持っていく一番の理由である。

最近、外出時に持っていく本がある。伊集院静さんの「旅だから出逢えた言葉」だ。

本書は国と著者が出逢った言葉、それに関わるエピソードがセットになっていくつも連なっている旅エッセイである。様々な国でのエピソードが綴られているため、実際は近所の公園でシートを敷いて寝そべっていながら読書をしているのだが、海外のとあるホテルの一室でべランダのハンモックに揺られながら読書をしている気分になる。

また本書に掲載している言葉をきっかけに自分自身がハッと気づかされることもあった。私が本書でもっとも印象に残った言葉はこれである。

●「その美しい洗濯物を見て息子を預かっていただこうと決心しました」(ジネディーヌ・ジダンの母)
私は何をみて、人を知るのか。人は私の何をみて、信頼してもらえるのか。そんなことを昼下がりの公園で考えるきっかけとなった言葉である。担当編集者の方から本書に掲載している言葉の中で好きな言葉を聞いてみた。

「正直、すべて好きなので、選ぶのがとても難しいですが、あえて挙げれば……」と教えてくれた言葉がこちら。

●『すぐに役に立つものはすぐに役に立たなくなる』(小泉信三)
最近はすぐに結果を求めたり、結果がでないと見向きもされなかったりという傾向が強いが、果たしてそれでいいのか、という根本的な問題を、突きつけてくる「ひと言」だと思います。結果最優先の風潮が、人もモノも、どこか薄っぺらくさせているのではないか、それは「すぐに役立つ」から、なのではないかとさえ思えてきます。

●『人はささやかなもので救われる』(フランスの女性の友人)
人のこころは実に繊細で気の持ちようひとつで、180度変わってしまう。たった「ひと言」、たった一輪の花で苦しみや悩みから解放されたりもする。そんな人間の本質を、前向きに言い表した素敵な「言葉」だと思います。

「著名人の言葉から、旅先で出逢った人のさりげないひと言まで、随想の達人である伊集院先生ならではの素晴らしい“言葉”の数々が、心に沁み込んできます」
と、担当編集者の方はおっしゃった。

いつも逢える人、いつも行ける場所ではないところで出逢う言葉って実は何かを気づかされたり、その言葉で日常の生活が少し変わったりすることもあるのかもしれない。

著者が読者に伝える、旅で出会った「言葉」を知り、自分が今出かけている場所や時間がかけがえの無いものに感じた。だからこそ、そのかけがえのない場所や時間の中で読んだ本の感動はまた一味ちがうし、いつまでも記憶に残ると思う。

改めて「本は外出時の必需品だな」と感じた。

外出先で時間を持て余した時は、寝てもいいし、スマホをいじってもいい。その選択肢に本もぜひ入れていただきたい。(茶谷/boox)