神戸氏はニコニコ動画内で放映されるバラエティトーク生番組「ニコジョッキー」のエグゼクティブプロデューサーでもあり、その中でズラサンという愛称でMCとしても活躍している。

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後編は、大企業で働く社員たちやこれから就職する若者たちへの神戸敏行氏のメッセージを紹介する。

■ 若者はどうすればいい?

大企業でも中小零細企業でもいいから、いったんは就職したほうがいい。そこで3〜5年働けばだいたい世の中のこと、会社のことが分かるはず。そこで、この会社に残るか、転職するか、独立するかを判断する。だから私は大卒から就職のこの期間は単なる研修期間だと思っています。そう言えば5年前に京都精華大学で「就職活動を盛り上げて欲しい」という主旨で講演を頼まれたのを思い出しました。そのときの学生とのディスカッションで「信用金庫に内定したのですが、実は雑誌の編集をしたいんです。どうすればいいですか」と聞かれました。私は「だけど、世の中の仕組みまだ分かってないよね。信金で3年やってみてまだどうしても編集の仕事したかったら、つぎのステップに進んだら?」と答えました。だって、才能があるかないか分からない段階で、もし編集の仕事で挫折したら、人生そこで終わってしまいますよね。それははっきり言って浅墓ですよ。

それから、気になるのは中小零細企業に対する学生の見方。就職難といっても現状では中小零細企業には就職できるのに、それを最初から蔑んで見向きもしない。確かに、就職希望の学生の大半は将来を保障された人生を得るのが目的。だから安定した大企業を選ぶ。親がそう教えている影響もある。でも、大企業を経験した私だからこれだけはいっておく。あなたに自分を捨てて、会社の駒になる覚悟はありますか。21、22歳の若さで。大企業に入るとまず研修で知らず知らずに会社の道具として洗脳されていくもの。90%の人材がそれに気づかず、ロボットみたいな人間にされる。私も最初シャープでは何も考えずに就職して途中で「これっておかしくないか、せっかく命もらって生きているのに詰まらない」と気づきました。

今の若い人たちは私などより敏感で就職して数カ月でそれに気づき、辞めていくのでしょう。でも、つぎがないのに辞めるのはやっぱり愚かですね。ちなみに、新日鐵に就職した場合、中途半端な大学では出世はどんなに頑張って成績上げても無理。私立大学卒なんて、東大、京大の国立大卒社員に比べれば同じ社員ではないかのように扱われます。彼ら大学エリートは資料をキチンとつくるのがうまいだけで、自分で稼ぐ力はまるきりないのに出世していくんですから悔しくもなりますよ。

■ 世の中が悪いからでは済まされない

ま、いずれにしても、大企業で盛んに行われているリストラの嵐は今の会社の仕組みでは宿命なのです。物が売れない時代はそうやって経営の帳尻を合わせるしか経営者に能力がないから。リストラってきれいな英語で置き換えても所詮首切りですよ。社員はそれを前提に働きながら、各自が自己防衛するしかない。つまりは、何に向かって人生を構築していくか。どうやって生き残っていくか。こうした意識が今の多くの会社員に欠けているのでは。大企業に入ったら、「お前ら、ただ飯食いや」と思われていると知ったほうがいい。会社は人材をただの道具としか見ていない。だからこそ、自分でこれからの生きかたを早めに考えておくべきなのです。

で、会社に入って大事なことはもうひとつ。自分の仕事にポリシー、哲学を持つこと。そうすれば上司と堂々と大声を張り上げて戦える。大きな声で自分の権利を主張し、不条理に対して怒りをぶつける者こそが今の日本社会では勝者。自分で売った商品に問題があった場合、私はすべて責任をとる覚悟で働いていたので、自信を持って働けた。ところが逆に、自分の仕事は会社の仕事と思っている人は、何か問題が起こるとすぐ謝る。どうせ会社が責任とるのだからと思って。自分の仕事という自覚、ポリシーがないわけです。「自分は悪くない。世の中が悪いんだ」と責任転嫁する人もいる。それじゃあ、何も解決しないよ!

人生の価値観は人それぞれあっていい。たとえば、会社の仕事は単なるお金をもらうための手段と割り切って、趣味や子供の成長に生きがいを求めるのも否定しません。ただ、仕事の時間は人生の半分に相当するわけで、それにやりがいを感じないのはもったいない。やりがいって単純に喜びを感じることだと思います。たとえば、私の場合は営業だったから、発注書にユーザーから印鑑をもらったときの瞬間はとてもうれしかった。「神戸さんは本当のエリート社員で、営業の才能があったからでしょ」って言われるけど、営業は誰でもできることなんですよ。コツはただひとつ、「継続する」こと。「今日はサボって、その分明日がんばろう」ではなく、毎日毎日コツコツ訪問し続けると、不思議なもので必ず成果は上がります。そうした地道な継続の努力ができれば誰でもトップセールスマンになれますよ。

■タレントたちの純粋な生きかた

今は番組制作会社を経営しているので、ふつうの会社員とよりもタレント、芸人、カメラマンさんなど所謂業界人と接する機会が多くなった。彼らの特徴は良く言えば「純粋」、悪く言えば「怠け者」です。自分の好きなことをやって暮らしていきたい、ほかのことはなるべくやりたくないという人生観。無趣味な人が多いのも特徴です。つまり、仕事が趣味なんですよ。「死ぬほど人を笑わせたい」という一心で生きている。逆に言えば、そのくらいじゃないと仕事はうまくいかない。でも、多くの大人たちは「そんなんじゃ食べていけない。甘い考え」と揶揄するが、「じゃあ、辛い考えって何?」って聞きたい。生きかたの甘い、辛いの線引きなんて誰も出来るわけない。とにかく、誰にどう言われようとやりたいことを一生懸命やること、仕事に喜びを感じる生きかたをお勧めしたい。(神戸氏の話はここまで)

今、日本では学校も地域社会も、そして政治経済もおかしくなっている。この原因はいったいなんだろう。もしかしたら、神戸氏が今回指摘したように、会社経営者が問題を先送りして責任を取らない、自分の立場だけを守ることを優先する、このマインドが教育や政治の現場でも蔓延しているからなのでは。
(羽石竜示)