地下足袋が進化すると、こんなブーツになる。

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夏休みは、楽しかった。普段と違う日々を過ごして、いつもとは違った格好をして……。甚平を着たこともあった。下駄や草履も履いてみた。

あの時に、日本の履物の良さを再確認したわけで。だからこそ、この新ブーツが見逃せない。オーダーメイドの靴を製作する「吉靴房」(京都府京都市)が、5月より展開しているブーツ『五枚丈(ごまいだけ)』は、まさしく現代流の地下足袋。

……と言っても、イキナリじゃよく分からないだろう。まずは、画像をご覧いただきたい。ブーツなのか、足袋なのか、ちょっと不思議なルックスをしていると思う。
このような靴を製作したきっかけについて、同店の履物作家である野島孝介さんに伺った。
「当店のテーマとして、“日本の文化、日本の履物”を掲げております。今まで、下駄や草鞋を当店流にアレンジしてきましたが、足袋についても『無視できないな』とかねてから意識していました」

そしてついに、吉靴房が足袋の製作に着手! だが、やるからにはただの地下足袋にはしない。2011年にふさわしい靴を作るべきだと考えた。
「ワークブーツやチャッカブーツなど、定番の靴がありますよね。これらを参考に、日本の新しい定番となるような意識で、地下足袋を作りました」(野島さん)

どういうことか? まず、アキレス腱の部分について。足袋はこの場所に小鉤(こはぜ)と呼ばれる金具があり、それを留めて履くのが本来のやり方だという。
そして、高さについて。小鉤5枚分がそのまま、ブーツの高さとイコールになる。
これらのフォルムを崩さずに、そのままの形でブーツにしたのが『五枚丈』なのである。
「足袋と同じように後ろが開くようにデザインしながら、紐で甲と足首をホールド出来るようにしました」(野島さん)
ブーツとしての履き方の要素も、まるで損なっていない。

ところでこの『五枚丈』の売りは、その斬新なデザインだけではない。機能性の面でも、既存のブーツより勝っている部分がある。
「親指に意識が行くので、正しい歩き方になります。あと、非常に軽くて柔らかいです」(野島さん)
元々の日本には、儀式用のものを除いて固い履物を扱う文化がなかった。基本的に、柔らかくて脱ぎやすく、脱ぎ履きが簡単な物ばかり。それは、足袋にも当てはまる。よって『五枚丈』も、固くなりすぎないように意識して製作された。

そんなこの新しい足袋をオーダーするのは、どんな人たちが多いのだろう?
「主に30〜50代の方が中心です。今オーダーされると、来年の4月に出来上がります」(野島さん)
現在の同店は、『五枚丈』を含み約300人待ちの状態とのこと。

ちなみに、『五枚丈』には二つの種類が用意されているという。
「地下足袋には、先端が割れていない“先丸”という形の物もあります。なので、“先丸”と同様の形をした『五枚丈』も製作しました」(野島さん)
よく考えると、これは道理だ。高い所で作業するからこそ、踏ん張りを良くするために先端が割れている。しかし、地上作業でその必要はないはず。逆に先が割れていると、指と指の間に土や紐が絡まってしまうだろう。だからこその“先丸”。こちらの型の『五枚丈』もオーダーできるという。

価格は44,100円(税込み)。「吉靴房」の店頭、もしくは同店のホームページよりオーダーは受け付けられている。

「日本に革靴が入ってきて、現在までに140〜150年ほどが経過しております。これまでは基本、ヨーロッパの技術が受け継がれてきました。ただ、これだけの年数が経っているので、そろそろ日本独自の革靴が出てきてもいいのかなという気がします」(野島さん)
要するに、足袋や下駄の進化過程の延長線上にある革靴。

吉靴房が目指すのは、“日本の定番”となるようなデザインの靴作りである。
(寺西ジャジューカ)