“女川といえばカレー!”と言われる日も近い!?

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震災から半年が過ぎ、被災地のニーズも徐々に変化を見せている。瓦礫撤去や清掃といったボランティアのも撤退し始め、仮設住宅への入居も進む今、改めて、私たちにできることは何なのか、考え直してみるべき時なのかもしれない。そんな中、震災直後のボランティア活動がきっかけとなり、被災地に雇用を生み出そうというプロジェクトが動き出している。津波により壊滅的な被害を受けた宮城県女川(おながわ)町で始まった「女川カレープロジェクト」。カレーを女川町の名産品にしようというものだが、果たしてカレーで雇用を生むことができるのか? そもそもなぜカレーなのだろうか? プロジェクトの動きを追った。

「女川がひどいらしい――」
震災から1カ月ほど経ったある日、石巻市や塩竈市で瓦礫撤去などのボランティア活動をしていた「ちきゅうの子22」の蓮見洋平さん(神奈川県在住)は、そんな話を耳にし、女川町へ向かった。リアス式海岸の奥まった位置にあり、高台にある病院でさえも被害に遭うほどの大津波に襲われた人口1万人に満たない小さな町。石巻市で散々ひどい光景を目の当たりにしていた蓮見さんでさえも言葉を失うほどの状況に衝撃を受け、「この場所で何かできないか」と避難所を訪れた。そこで目にしたのは、いまだにカップラーメンやおにぎり程度の食料しか口にできていない避難所生活者の姿。蓮見さんは、同じく復興支援活動を計画していた兄の太郎さんと、アナンコーポレーションのメタ・バラッツさんに声をかけた。

カレーの商品販売やインド料理のケータリングを手掛けているバラッツさんと話し合いの末、インド料理のフルコースのお弁当を炊き出しでつくって避難所に配ることを決めた。メニューは、カレー+一品と、サラダ、デザート。インドカレーというと、スパイスが強く辛いイメージがあるが、配るのはお年寄りも子どももいる避難所。みんなが食べられて、お腹にやさしく、栄養価も高い、しかも身体も温まるものを、と特別ブレンドのカレーを作ったところ、「おいしい」と大好評。その後、1カ月に2回のペースで女川町各地の避難所に訪れ、時には被災者の方と一緒にチャパティづくりをしながら、支援活動を続けた。

炊き出しと共に、女川町のその時のニーズに合わせて学生の居場所づくりや商店街の復興などのボランティアを継続して行くうちに、蓮見さんの中には個人ボランティアと言う立場に対する無力感が芽生え始めた。「自分の持ち出しで行って、カレーをつくって帰ってくるボランティアでは、お金が尽きたら行けなくなるし、本当に役に立てているのだろうか……」

女川町に通い始めてから3カ月ほど経った頃、女川町の商工会の方に、今本当に必要なことを聞いたところ、帰ってきたのは「雇用」という答え。考えた末、自分たちの持っているノウハウでできることとして思いついたのが、炊き出しで作ったカレーを商品化して販売すること。商品化のための作業所を女川町に作れば雇用も生まれるし、商品が売れれば経済も潤う。このとき試算したのは“3千食売れれば2人雇用できる”というもの。「支援がなかなか進まない中で、小さくても具体的な話を提案してくれてうれしい」という商工会の方の前向きな反応を受け、一気に商品化へ動きだし、7月初旬にはホームページにて『女川カレーブック』(税別650円)の販売を開始した。現在は、アナンコーポレーションが既に持っている流通ネットワークを活かして販路拡大へ動くと共に、関東各地で認知拡大のための試食会やトークイベントを開催中だ。一方の女川町では作業所で働く方も決まり、年内には作業所を作るべく、商工会と共にプロジェクトを急ピッチで進めているという。

蓮見さんが今こだわるのは、ただ“与える”のではなく、“正しい経済活動”を生むための支援。

「チャリティや復興支援が目的なら、寄付のつもりで一回買ったら終わりですが、このプロジェクトが目指しているのは、経済的にも健全な支援。やるからには本当においしいものを目指してたくさんの人にファンになっていただけるようにしたい。ゴールは、女川の人たちにこのビジネスをまるごと渡すことです」

女川の人に渡した時点で終わりとなるプロジェクト。だが、蓮見さんの想いはその先に向いている。

「女川は今、原発とか震災のイメージですが、それが“女川といえばカレー”というイメージになって、町のブランドの一つになればいいな、と思います。いつか、“復興支援”なんて言葉も忘れ、名産品の一つとして、50年、100年と歴史を刻んでほしい。女川カレーは、味のベースであって独占したブランドではないので、これが発展して、例えば名産のホヤカレーとか、女川の人からあちこちでオリジナルカレーが生まれるようになってほしいです。そう考えるとワクワクしますよね!」

『女川カレーブック』には、スパイスや豆と共に、このカレーが生まれるまでの歩みが記されたペーパーが同梱されている。今後は、女川町で出会った高校生や学校の先生と一緒に「女川カレー新聞(仮)」を作り、復興の歩みを随時更新しながらカレーと共に送り届ける予定とのこと。カレーブックは、おいしさと一緒に、女川町の復興までの想いを語り継ぐ役目も果たしてくれることだろう。現在、『女川カレーブック』はインターネットの他、代々木上原のKanbutsu cafeなどの店舗での取り扱いがある他、9月21日からは松屋銀座でも販売を開始する予定だ。販売網はどんどん拡大中なので、最新情報は「女川カレープロジェクト」のホームページでご確認を。

ボランティアの炊き出しから、持続可能な経済活動へ。このプロジェクトの変化は、現在の支援活動の在り方を改めて考えてみるきっかけを与えてくれるようだ。
(池田美砂子)