日本の大手鉄鋼メーカーと海外資源大手の間で続けられていた製鉄原料の2010年度の価格交渉がほぼ決着した。大幅な値上げになり、今後、鉄鋼製品価格にどこまで転嫁できるかが注目される。デフレに苦しむ日本経済にとって、「悪い値上がり」がさらなる重荷になりそうだ。

   3月29日に鉄鋼大手とブラジルの資源大手、ヴァーレの間で、鉄鉱石の交渉がまとまり、10年4〜6月期は09年度より約9割高い1トン当たり約115ドルとなった。

日本の産業界全体で負担増は3兆〜5兆円

   併せて、従来は年間契約だったのが、10年度は3カ月ごとに価格を改定することになった。いずれも日本側が渋々受け入れたもの。2倍近い値上げと、長期にわたって安定的に引き取ってきたこれまでの「長年の信頼関係」があっさりと覆された格好だ。

   これより前、鉄鋼大手と英豪系資源大手のBHPビリトンは3月初め、製鉄原料用の石炭の価格について、やはり3カ月ごとに決めることで合意、4〜6月期は09年度比55%値上げして、1トン当たり約200ドルとすることを、日本側は受け入れた。

   こうした大幅な値上げは、いずれも海外資源大手側の要求をほぼ丸呑みさせられたもので、日本に重くのしかかる。シンクタンクの試算によると、この値上げが10年度通年続き、09年度と同量を輸入すると仮定すると、日本側の負担増は鉄鋼石で7000億円、石炭で1兆円という巨額になる。原油など他の資源の値上がりも含め、日本の産業界全体では10年度の負担増は3兆〜5兆円にもなるとの指摘もある。

   こうした資源価格上昇を解くキーワードは寡占、中国の二つ。

   鉄鉱石の場合、資源大手のシェアは、ヴァーレ32%、リオ・ティント(英豪系)22%、BHP16%と、3社で7割を占め、石炭でもBHPが約3割を押さえるなど寡占が進んでいる。これに対し、需要サイドの鉄鋼業界は、わが国最大手の新日本製鉄で粗鋼生産のシェアは僅か2%余りにすぎず、交渉力は発揮できない。自社で鉱山を保有するなどの対応でも、日本の鉄鋼業界は世界最大手、アセロール・ミタル(インド)などに比べて大きく後手に回っている。

   中国が世界で資源を買い漁っている影響も極めて大きい。今回の交渉でも、国際的な小口のスポット価格の高騰が響いた。スポットの多くが中国向けで、09年の中国の粗鋼生産量が前年比13%増の5億6700万トンと急拡大が続けていることが原料の国際価格を押し上げているのだ。

大手鉄鋼は製品値上げに向かう

   増加する負担分を誰がかぶるか。大手鉄鋼は鉄鋼製品を値上げして負担を転嫁したい考え。すでに鋼材問屋むけには4月出荷分から20%程度の値上げを実施。さらに相対取引の大口ユーザーである自動車、電機とも交渉を進めているが、先行きは不透明だ。資源価格が過去最高になった08年度は、リーマンショックまでは自動車、電機は比較的好調で、トヨタが07年度比約3割の値上げを飲むなど、一定の値上げを受け入れる余裕がユーザー側にあった。ところが今回は大幅赤字が続出し、コスト削減に血眼になっており、簡単に値上げを受け入れるわけにはいかない。

   デフレの日本で、資源価格上昇に伴い物価がプラスになれば、デフレ退治にプラスのようにも思える。だが、デフレは需要不足(供給過剰)が主因。雇用不安や賃上げ低迷などで需要回復が見込めなし中で原材料だけが海外要因で値上がりするのは「悪い物価上昇」。需要不足だから、結局、小売価格は上げられず、生産・流通のいずれかの段階で資源高の分を吸収するしかない。実際、中小企業の多くが原料価格を価格に転嫁できず、むしろ一層の価格引下げを求められるという板ばさみに苦しんでいる(信金中金総合研究所などの分析)。

   資源価格上昇は、低迷する日本経済に一段と打撃になるのは間違いない。

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